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さようなら神様(ソウルイーター:ギリジャス)
ぐるり、ぐるり、世界が廻る。僕は、わた、しは、私?ぼ、く、は死神、様に、鬼神が、そうだ鬼神、が、狂気、死、神?感染恐怖、混乱、狂、気、狂気狂、気狂気狂気。


ぐる、りぐるり。廻っているのは、私か、世界、か。別にそんな事はどうでもいいのだ。


ぐるぐる、ぐるり。酷い目眩に襲われた後、僕の目の前に現れた世界は絶望的に美しかった。




イヤホンを外し、狂気の謡声に耳を澄ます。
目を閉じればそれは、奇妙な心地好さで僕の神経を撫で上げる。
背徳感がこんなにも心踊るものだとは知らなかった。
知らず口元が緩む。


「死神様」


今まで私の信仰の全てだった神の名前を口に出してみた。
びりりと舌に苦味が走る。
嗚呼、何という不協和音。
まったくもって美しくなど無い。
鬼神様、も確かに耳慣れない響きではあるけれど、それは先の名前よりはずっと美しい音で大気へと溶けたのだった。


狂気を恐れる必要など本当は無かった。
僕は遂にそれに気付いたのだ。
狂気に堕ちてしまえば、何も恐れる必要など無い。
そもそも堕ちる、などという表現が相応しいものとは言い難いけれど。

堕ちる、染まる、溺れる。それはどうとでも表す事が出来て、結局表現どうこうではなくて僕が今狂気を纏っているという事実が大切なのだと結論づけた。
この解放感に浸っていられるだけで、僕は大方幸せだった。




「それで、鬼神の側に着く事にしたのか?」





僕の話をずっと黙って聞いていたギリコさんが、疲れたように呟いた。

「はい」

僕は頷く。
ギリコさんは手のひらで顔を覆ってしまった。
まだ起きたばかりで疲れているのかもしれない。
自分が寝ていた間に組織が全滅してしまったのだ。
無理もない話だった。

「お前は」

絞りだすようにギリコさんが声を出す。

「もう元には戻らねえんだな」
「…ギリコさん?」

その声があまりに苦しそうだったので、僕は首を傾げる。
ひょっとしたら彼は僕が思っているよりもずっと疲れているのかもしれない。

「…いや、何でもねえよ」

溜息と共に吐き出された言葉も、その意味とは裏腹に全てを諦めたような力無い声音だった。

「疲れたなら、休めばいいですよ」

その言葉に、彼が顔を上げる。
何処か縋るような目をしながら、けれどやはりそこには諦観が漂う。

「鬼神様のお役に立たなければいけませんから、ね」

彼を安心させるために紡いだ台詞は、その役目を果たさず宙に消えた。
彼の諦観に、絶望と悲哀が加えられる。
それがすべて狂気に変われば、きっと素敵だろうな、と思った。

「さ、行きましょうか、ギリコさん」

朗らかな気分で手を差し出すと、彼は深い溜息を吐いた。

(俺は綺麗なお前が好きだったのに)
(溜息の奥の言葉の意味に、気付けない僕ではないけれど)





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