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ブルーそしてブルー(Pop'n:ヴィルウノ)
「自分自身が何より恐ろしいのだ」と彼は泣いた。



目の前の男は普段こそ笑顔しか見せないが、時折酷く、淋しそうな顔を見せる。
それくらいの事は知っていた。
多分、初めて私達が出会った時からずっと。
ただ、こんな風になるとは流石の私も予想していなかった。

ぼろぼろと、私の肩に顔を埋めて子供のように泣くウーノの頭をぎこちない仕草で撫でる。
ふわふわとした奴の髪はほんのりと暖かく、肩を濡らす冷たい涙とは不釣り合いだと思った。

「どうしたんだ」

取り敢えず、理由を尋ねてみる。
ウーノはか細い声で、何度も怖いのだと言った。
何が怖いのかと問うと、自分自身だと答える。
可笑しな話だ、自分を恐れるなどと!

君が居なくなってしまっても、僕は君のために泣けないかもしれない。
ウーノはそんな事を言った。僕が泣くのはきっと自分のためなのだ、と。
捨てられた自分が哀れで泣くのだと。
それが怖くて仕方がないのだと。
私はそれでも構わないと言った。
奴が私のために泣こうが泣くまいが構わないのだ。
自分のために泣きたいなら泣けば良い。
私は奴を束縛したい訳では無いのだから。

ありのままのお前で良いのだと、だから私は伝えた。
私は自分のために泣くお前を愛している、自分を偽る必要は無いのだと。

しかし泣き声は一層酷くなった。
私は途方に暮れた。
仕方がなくまた奴の髪を撫でる。
暖かさが少し、失われた気がした。

僕は、切れ切れにウーノは語る。
もう僕は君を愛しているのか、愛されている自分に酔っているのかすら分からないのだと。
愛などはそんなものだと言う私の言葉は聞き入れられなかった。

仕方なく私は再び言う。
そんなお前を私は愛しているのだと。

返事は無かった。

泣き声ばかりが私の鼓膜を震わせていく。
しくしく、ぐずぐず、めそめそ。
どの音もまったくそれには当てはまらなくて、人間の耳などいい加減なものだと思った。
ひくり、とウーノがしゃくり上げる。
僅かに顔を持ち上げて、私の耳に囁く。


そんな愛し方、歪んでるよ。


知っている、と思った。何処からそうなってしまったのかは、私も知らないが。
だがそれを知りつつ私とこうして愛しあっている奴も、何処か他人とずれてはいるのだろう。
どうでもいい事だ、と思う。

「私とお前の愛の形だ、他人に合わせる必要は無い」

そう言うとウーノは少しだけ微笑んで、しかし、違う僕はそんな話をしたかったんじゃないんだ、とまた少しだけ泣いた。

(嗚呼、私はお前のすべてが愛しいのだ)





あきゅろす。
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