まどろみ
煙草屋の娘。 つー
「…………ハァ、」
うろうろと一つの店の前で入ろうとしたり止めたりを繰り返し、決心した様に土方は足を止めた。
「…失礼、するぞ……」
まだ少し(つーかかなり)迷いがある足でゆっくりで入っていった。
「いっらしゃぁ〜い」
にやぁり、という効果音つきで中で座っていた女が応えた。
「来てくれてんなー、てっきり来てくれへんかと思ったわ、ウチ。」
中に居座る女はこの秋姫煙草屋の店主、秋姫 苺である。
煙草が世界で一番憎いのに何故か煙草屋をやっている変人である。(いややわ、ウチかてやりたくてやってるんちゃうのに)
「お前が言ったんだろ、」
「まさか素直にきいてくれるとは思ってへんかったから。」
にんまりとした顔はそのまま、そうつげる。
「それじゃあきかなっかたらよかったのかよ」
ぎろりと睨んでみるが苺は何処吹く風。涼しい顔で(いやにんまり顔で)また言葉を続ける。
「そんなワケあれへんやん。言ったやろ、真選組までおしかけたるさかいって。ボケとんのちゃうんか」
ケッ、と吐き捨てたように言う言葉に土方は冷や汗をたらりと流した。
正直、こんな女がいるなんて思えなかった。だって土方 十四朗といえばチンピラ警察で有名な真選組に所属している。それだけでも普通の女(例外はいる。あくまで”普通”の女の話だ。要するに人間っつーこと、)は怖がるというのに(ああ、風俗とかは別だけど)しかも自分はそのうちでも鬼の副長、と恐れられているのだ。言っちゃ悪いがただの煙草屋の娘(それがどんなに老舗の煙草屋だとしても)が自分に一切怯えず寧ろ攻撃してくるほどだ。おかしくないか?いや、おかしいだろう。普通睨んだりすれば怖がるはずだ、大人の男でも怯える事は今までの人生で実証済みだ。それが睨んでも怖がるどころかこの女は俺を睨み返している。(その視線には明らかに殺意がこもっている。)コイツ実は攘夷志士なんじゃないだろうか、いやマジで。(よくみればその視線は俺が苦し紛れにポケットから出した煙草に向けられていた。)(ちょっと安心……)
「ふん、まあそんな事どうでもええねん。さ、その手に持ってる煙草、こっちに渡してもらおか。」
おら、と手を伸ばしてくる女の手に(ちょっとビクビクしながら)煙草を手渡した。(だって渡さなきゃやばい感じになる予感がした。)
その瞬間、手に落ちた煙草はその手の主によって無残にも潰された。
「あ」
「何やねん何か文句あるん?」
「いや文句も何も無いだろ!!俺の煙草返せ!!」
(そりゃもうかなり)勇気を振り絞って文句を言った。流石にこれはスルーはだめだろ。
「いい?わかっとる、アンタ。ウチ言ったやん、煙草やめさせたるって。」
ぎろり、と更に睨まれると言葉に詰まる。おい、俺本当にどうしちまったんだ。
「いや、だからって……」
「五月蝿いねん!!!!お前は五月の蝿か!!!!!あたしは煙草が憎いって言ってるやろ!!!このならんどる煙草もホンマは全部燃やしたいんや!!!でもなんとか押しとどめてんねん、ウチの金がなくなったらいややからなっ!!」
いやそれが普通だからっ!!というツッコミを心の中だけでした。だって言ったらなんかやばいって本能がいってるから。
「ま、そんなわけや。さ、始めるでっ」
(いや何を……)
煙草屋の娘。 つー
(にしても煙草………)
080621
土方のへたれっぷりを表現できてるといいなー…
みじかいなー
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