絶対服従のまほう 2 林に手を引かれたまま集合住宅地にある広場まで来てしまった。遊具なんてお情け程度にしかないけど夕暮れ時で子どもたちもいなくてよかった。 男同士の痴情のもつれなんて保健体育でも習わないはず。 で その広場で今はコンバースの爪先とにらめっこ中。 「あのさ」 オレの肩がブルった。 「栗原が怒るのは分かるよ。傷つけたってのも分かってる。けど電話くらい出てくれないと言い訳のしようもないじゃん」 「…はい」 「携帯…電源切ってたの」 「うん」 またため息が聞こえてつむじ風が起きる。逃げたいけど右手が拘束状態じゃ叶わない。 林から離れたくないオレの そんな言いわけ 「じゃあもう俺の話しは聞きたくない?」 「…ッ」 「別れたい?顔も見たくない?」 「…やだぁッ」 首振り人形みたく左右に揺れる視界。 林は駄々こねるオレを根気強く待ってくれる。諦めの早い印象な林なのに。 「なにが嫌?」 「…わかんないッけど、なんかいや…」 「言って。栗原が言ってくれるなら嫌なことしない」 どうしよう ほんとに自分でもわかんない たすけて林… 「だからっ…別れたくなくて嫌われたくなくって」 「うん」 「それからッ」 それから 「ひどいこと言わないで…」 「うん」 重なった影で林が頷いたことがわかった。それに安心してやっと首振り人形から脱却できた。 捕まれた腕の先にある肩・鎖骨・アゴ・そしてぱっちり二重の目。その真っ黒な目にオレが移ってるのが幻覚かもだけど見えて また視界が悪くなった 涙がこぼれてしまった 「はやしッ…はやしぃ」 「うん、うん…」 「電話ごめんッ、メールも、ほんとっ」 「いいから、大丈夫だから。俺の言い訳聞いてくれる?」 「してッ…言いわけ、オレほんとはっ」 言いわけしてほしかった 電話もメールも拒んだくせに“あれは嘘なんだよ。大好きだよ栗原”って言葉をずっと待ってた 意味不明だね 骨っぽい腕をたどって肩に辿りつく。そこを止まり木にして林のシャツに塩辛い水を飲ませた。 「好きだよ栗原」 「うぅ…ッ」 「酷いことしたり言ってばっかだけど好きだから」 「オレも…オレだって」 「好きだよ」 幻聴まで聞こえてヤバいんじゃないの 出来うる限り最大限の一生懸命な背伸びをして大好きな林にすがりつく。埋まらない身長差をもどかしく思いながら背中に回った腕に幸せのため息。 震える背中を上下に撫でてもらって あぁ 林しかいない って思ってしまった また魔法にかけられてしまった [*前へ][次へ#] [戻る] |