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Wonderful Wonder World
どこにも行かないで(ペーター)


…………………


引っ越しが、起きた。

僕達には当たり前のように回ってくる、引っ越し。
でもあの人には、慣れない引っ越し。

以前引っ越しが起きた時、彼女は酷く混乱していた。

だからきっと、今回も混乱するだろう。
だから、僕が知らせに行かなくちゃ。
彼女に、教えてあげなければ。

そう。
僕が一番最初に教えたいから、だから部屋に向かっているだけ。
何も不安なことなどない。

それなのに、なんでこんなにも不安なのだろう。

彼女のように、心臓があるわけではないのに。
それなのに、ドクドクと鳴っているような、とても変な感じがする。
時計のある部分が酷く痛む。

急がなければ、急がなければ!!
彼女の部屋に行かなければ。
彼女が部屋にいる事を確認しなければ。

今は夜の時間帯。
彼女はきっと眠っている。
だから部屋にいるはずだ。

焦る必要など無いはずなのに、口の中がカラカラに乾いている。
無いはずの心臓が、ドキドキとうるさい。

お願いだから、部屋にいてください。


ガチャ


「アリス、入りますよ?」


ーーーーーどうして。
どうしていない。
いつもいるはずなのに。


「アリス!どこですか、アリス!返事をしてください!!」


こんなに大きな声を出せば、いつもなら殴られる。
それなのに、どこからも拳がこない。
どうして……………。






彼女が幸せになればいい。
別に、僕の傍でなくとも。
最初はそう思っていた。
でもだんだんと、彼女の傍に僕が居たいと、願うようになった。


他の誰でもない、僕を選んでください、と。








それなのに、そう願った相手が、ここにはいない。

なぜ、なぜ、なぜ!!!

彼女をこの世界に連れて来たのは僕なのに!
彼女の案内人は、僕なのに!



「アリス……………どこに行ってしまったんですか………」

































ガチャ……





















え……。
今、扉が開く音が…………。
























「………ペーター?また人の部屋に勝手に入って……。
何をしてるのよ?」






いた。
僕が望んだ人。
幸せになって欲しい人。
僕を、選んでほしい人。


「ちょっとペーター?聞いてるの?
部屋に勝手に入らないでって、いつも言って……………っ!」


ギュッ


「ちょっと、ペーター!」

「アリス、アリス!!」


よかった、いた。
本物だ。
あたたかい。
心臓の音がする。


「どこに行っていたんです?アリス?
僕、あなたがいなくなってしまったのではないかと、こわく、て………」

「喉が乾いたから、水を貰いに行っていたのよ。
………?ペーター?泣いているの?」

「…え、どうして、涙が……」


どうして僕は泣いているのだろう。
悲しくないのに。
彼女がいてくれて、嬉しいのに。

どうしてこんなに、胸が苦しいのだろう。


「……わかりません……わからないんです、アリス…。
胸がとても苦しいんです……。
苦しくて、苦しくて、涙が止まらないんです…」



わからない、わからないけれど……。
きっとこれが「好き」なんだ。
今まで、僕が彼女に言ってきた言葉の意味なんだ。



「ペーター?大丈夫?」


彼女は、心配をしてくれている。
いつもなら、抱き着いていたら怒られるのに。
それほど僕に慣れてくれた、馴染んでくれたんだ。


「っ!アリス、アリス!
好きです、好きなんです!
あなたのことを、愛しているんです!」


あぁ、なんて僕の言葉は空虚なのだろう。
これでは、彼女には届かない。


「はいはい。ありがとう。
大丈夫そうね。心配して損したわ」


ほら、届いていない。
どうすれば届くのだろう。
どうすればこの感情を、彼女に届けることができるのだろう。


ギュー


「ぺ、ペーター!
くるし、っ、苦しいわ!離して!!」

「アリス、アリス………。
好きなんです……あなたのことが、本当に好きなんです…。
僕を選んでください。
僕のことを好きになってください…」

「ぺ、ター………?」

「すいません……。
僕には、これ以上の伝え方がわからないんです…。
あなたのことが、好きで好きでたまらない。
どうやったら、あなたに伝わりますか…?」

「……………………」



チュッ


不意に、頬に柔らかいものが当たった。
彼女の、アリスの唇だ。


「え、アリス……?」

「あ、あんたが私のことを好きかどうかは知らないわ。
でも………私は、あなたのことが好きよ。
こんなストーカーうさぎを好きになるなんて、どうかしてるけど…」





今、なんて……?
彼女は何て言った…?

アリスが、僕のことを好き?

それじゃあ…それじゃあ、それじゃあ……っ!


「それじゃあ、僕達は両思いだったんですね!
あぁ、そんな!
こんな嬉しいこと!!
あぁ、アリス!アリス!!
嬉しいです!幸せです!!
今なら死んでも構いません!」

「ちょ、ちょっとペーター!
苦しいって言っているでしょう!!」

「アリス!アリス……っ!」


彼女が僕を選んでくれた。




「ペーター!聞いているの?」



それは、この世界に残る、枷になる。
でも、ずっと僕の傍にいてくれるという枷にはならない。
彼女は、僕達とは違う。
余所者だ。
次の引っ越しが起きた時、彼女だけが、弾かれてしまうかもしれない。

わかっている。
でも、望まずにはいられない。


「アリス、好きです……。
傍にいてください。離れないでください……。
僕のいない所、行けないところに、行かないでください…」





どこへも行かず、僕の傍にいて。
























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読んでいただき、ありがとうございました!

ダイヤの国に、弾かれなかったら
を想像して書いてみました。

駄文ではございますが、楽しんでいただけたら、嬉しいです。

アドバイス等ありましたら、mailに送っていただけると嬉しいです。


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