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Wonderful Wonder World
にんじんクッキー(エリオット)





………………………………



「エリオットったら、また仕事なのかしら。
最近、戻ってきたらすぐに別の仕事行ってるし……。
休んでないわよね…」


エリオットはここ最近、長く休まずに仕事をどんどん入れている。
理由がわかっているため、あまり強く休むようにとは言えない。

理由は、エリオットと食事に行くということだ。
以前彼の部屋で話しているときに


『あんたを、とびっきりうまい料理屋に連れてってやるよ!
あそこのにんじん料理が最高なんだ!!
セットで頼むと、食後ににんじんのシャーベットまで出してくれさ!!!
そのシャーベットがまた美味いんだ!!
スッキリしてんだけど、にんじんの甘みがあって!!』


と、長々と語られてしまった。
にんじん料理の話をしている時の彼は、とても楽しそうで目がキラキラと輝いている。
そのため、断れずに行くことになってしまった。

だが困ったことに、彼は帽子屋ファミリーのNo.2だ。
外の仕事に出ることが多く、ゆっくり食事をしに行く時間がなかなかとれない。

そのことを気にしてか、エリオットは細かい仕事を入れて、大きな休みを貰おうと思っている、らしい。


「別に食事じゃなくても、部屋でゆっくり話すだけでもいいんだけどなー……」


と、思うのだが、彼は自分のお気に入りの場所を紹介したくて仕方がないらしい。

そういった所に惹かれている自分がいるため、どうしようもないのだが……。

だからなのか最近は、彼の喜ぶ顔が見たい、笑った顔が見たいと思い、ちょっとまとまった休みが入ると彼が喜びそうなことをしたくなる。


(まだ時間あるし、厨房の人に頼んでまたお菓子作り見てもらおう…)


こう思うことがよくある。
ゴールはにんじんクッキーや、にんじんケーキ、にんじんゼリーなどを作ることなのだが、今の所は普通のお菓子を作っている。
苦手ではないが、頻繁に作っていたというわけではないので、厨房の人に付き添ってもらいながらたまに作っている。

まだ試行錯誤している最中で、自分と厨房によくいる数名しか食べていない。
今回は、違う人に食べてもらおう。









・・・・・・・・・

コンコン


「誰だ?」

「ブラッド、私だけど…」

「お嬢さんか。入りなさい」


今回食べてもらう相手はブラッド。
にんじん味じゃなければ、大丈夫だろう。


「お嬢さんが私の部屋に来るなんて、久しぶりじゃないか。
どうした?
本でも借りに来たのか?」

「そんなに久しぶりだったかしら?
よく来ていた気がするんだけど…」

「そんなことはない、久しぶりだよ。
来てくれなくなってしまったから、とても寂しかった」


この男は、よくまあ息を吐くように寒い言葉を言える。


「あら、それはごめんなさい。
それよりも、クッキーを作ったの。
食べてみてくれないかしら」

「君もなかなか、流すのがうまくなったな。
……ふむ、クッキーか。
ちょうど仕事も一段落したところだ。
今から頂こう」


そういってブラッドは、鈴を鳴らしメイドにお茶の準備をするように言った。


「せっかくだ。
君も一緒に飲もう」

「…………お言葉に甘えさせてもらうわ」


自分で作ったお菓子で、紅茶を飲むことになるとは……。
しかも、帽子屋ファミリーのボスと。
普通であればありえない状況だが、慣れたものだ。


お茶の準備ができ、しばらく二人でお茶を飲む。


「………ブラッド、どうかしら?
もうちょっと甘くした方がいい?」


彼は茶菓子にもうるさいため、聞いてみる。


「そうだな……。
もう少し甘めであれば、どの紅茶にも合うだろう。
だが、これはこれで、甘めの紅茶にはよく合う」

「そう…。
わかった、参考にするわ」

「君のお役に立てたようで、光栄だよ」


最初は全部の言葉に反応を返していたが、最近はそういうことが少なくなった。
彼の言葉にいちいち反応するのは、彼を楽しませているだけだからだ。
それがわかったのは、最近なのだが……。


「それにしても、悲しいものだな。
自分のために作られたわけでもない菓子を食べるというのは」

「え…?」


考えていたら、急にブラッドが話しかけてきた。


「これは、エリオットのために作っているものだろう?
メイド達が話しているのを聞いたよ。
奴は馬鹿だからな。
まとまった休みが欲しくて、あいつがやる必要のない細々とした仕事まで引き受けている。
お嬢さんが、こんな風に待っているとも知らずにな」


そう言いながら、座っていたソファから立ち上がり、こちらに近付いてくる。


「な、何よブラッド?」

「エリオットなどではなく、私にしたらどうだ、お嬢さん?」

「な、何言ってるのよ」

「女性を待たせているような部下ではなく、私のことを好きになったらどうかと、言っているんだよ、アリス」


そんな言葉を言うブラッドに飲み込まれそうになり、視線を逸らす。
だが、顎を捕まれ無理矢理視線を合わせられる。


そこに………。


ガチャ


「ブラッド、今戻ったぜ。
次の仕事のことなん、だけ、ど………………」


エリオットが、仕事から帰ってきた。


(やばいやばいやばいやばい。
これは、すっごくやばい)

「え、アリス……?」

(はい、アリスです)


冷や汗が、ダラダラと流れていく。
エリオットの問い掛けになど、答えていられる余裕はない。


「え、っと、悪い、邪魔したな。
なんとかなると思うから、俺行ってくるわ」

(え、ちょっと、邪魔したなって……)

「じゃあな」

「ちょ、ちょっとエリオット待って!!
誤解よ誤解!!何もないわ!!
というかブラッド、手を離して頂戴!
いつまで掴んでるのよ!」


エリオットが部屋から出て行こうとするため、必死で声で引き止める。
それと同時に、いつまでも顎を掴んでいるブラッドに抗議をし、手を振り払う。

エリオットは部屋から出る直前で止まってくれたが、雰囲気が怖い。
まるで、初めて会った時の様だ。

どう声をかければ、エリオットの周りの空気がいつものようになるのだろう…。


「……………はぁ。
エリオット、次の仕事は休みだ。
もともとお前が行く必要などない仕事だ。
他の部下に行かせる」


悩んでいたところに、ブラッドが声をかけた。


「え、いや、でもよブラッド……」

「私の命令が聞けないのかエリオット?
次の仕事はお前は休みだ」

「…………わかった」


エリオットの次の仕事を休みにしてくれたのは有り難いが、頷いた彼はそのまま部屋を出て行こうとしている。
それではあまり意味がない。


「あぁ、エリオット。
お嬢さんを連れて行け。
私は仕事に戻る。
もともと、小休憩の予定だったからな」


「………あぁ。
アリス、行くぞ」

「え、あ、待ってエリオット」


ブラットが、部屋を出るタイミングを作ってくれたため、エリオットに付いて行く。












・・・・・・・・・・・・

「え、エリオット!
待って!早いわ!」


部屋を出た途端、エリオットは早足で廊下を歩いて行ってしまっていた。

言葉をかけても、止まってはくれない。


(絶対誤解してるわ。
早く誤解を解きたいのに……っ!)


私とエリオットでは、普通に歩くだけでも歩幅が違うのだ。
それなのに、彼が早歩きなどしたら追いつけるわけがない。



ピタッ


頑張って追いかけていると、エリオットは彼の部屋の前で立ち止まった。


(やっと、追いつける)


そう思った矢先、彼はすぐに部屋に入って行ってしまう。
だが、扉をいつまで経っても閉まらない。


(これは、入ってもいい、ってことよね?)


勝手にそう解釈し、部屋に入る。


「エリオット……?
あの、話、聞いてもらえるかしら…?」


ガシッ

ドサッ


「え、え……っ!?」


入った途端手首を掴まれ、エリオットのベッドに放り投げられた。

驚いて一瞬目を閉じてしまったが、すぐに目を開け、上を見る。
見上げた先にはエリオットの顔があった。


(…………耳が、垂れてる。
それに、さっき雰囲気のままだと思ってたのに…泣きそうな顔してる…)


No.2の威厳はどこへやら。
とても寂しそうで、悲しそうな顔がそこにはあった。


「エリオット……?」

「あんた、ブラッドのことが好きなのか?」

「え………?」


なぜここでブラッドが?


「惚けなくてもいいぜ?
さっき、キスしようとしてたんだろ?
それに…………」


ギュッ


エリオットに急に抱き締められる。
お腹の位置に彼の頭があり、少し苦しい。


「甘い、匂いがする。
ブラッドの部屋にあったクッキー、あんたが作ったんだろ?
最近帰ってくると、たまにあんたから甘い匂いがするから、何かと思ってたんだ。
ブラッドのために作ってたんだな…」


この男は……いや、このウサギさんは、勘違いをしてる。


「最近、仕事で屋敷にいないことが多かったし、しょうがないよな……
それに、あんたがブラッドのことを好きになる気持ちもわかる。
あんないい奴、なかなかいないもんな!」


耳は垂れたままのくせに、無理矢理笑顔を作るエリオット。


「悪かったな。
少しの休みの時間帯の度に呼んじまって。
あ、それと、飯に行く約束もなしにするか?
ブラッドのことが好きなら……」


プチンッ


自分の中で、何かが切れる音がした。


「誰がブラッドのことが好きなんて言ったのよ!!!
さっきから聞いてれば、人の気持ちを勝手に決めるわ、約束を破棄にしようとするわ、なんなのよ!
言っておくけど、お菓子を作っていたのも、ブラッドに食べてもらっていたのも、たまに甘い匂いがしていたのも、あなたのためよ!!
あなたが仕事で疲れて帰ってくるから、お菓子を作って待っていようと思っていたの!」


言ってはいけないことも言いそうだ。
だが、一度壊れてしまったブレーキは直らない。


「ブラッドには味見をしてもらっていたの!
お菓子なんて久しぶりに作るもの!!
きちんと作れるようになったら、あなたが好きなにんじんクッキーを作ろうと思っていたのよ!!
それなのに、ブラッドのためなんて!
あなたの笑った顔が見たかったから、喜んだ顔が見たかったから、練習、していたのにっ!」


悔しくて、情けなくて、涙が出てくる。


「あなたのことが……エリオットのことが、好きなんだもの!!!」


勢いで言ってしまった。
言うつもりなど、なかったのに。


「え………アリスが、俺を……?」

(えぇい!もうヤケクソだ!!)

「そうよ!
そうじゃなきゃ、毎回あなたの休みの時に部屋になんか行かないわ!
クッキーは、普通のクッキーがうまく作れるようになったら、あなたの好きなにんじん味にしようと思ったのよ!
ブラッドには、普通のクッキーの味見をしてもらっていたの!」


あぁもう、恥ずかしい。
このウサギさんは、全部言わなければわからないのか。


「そ、そうだったのか…」


エリオットの耳が立ち始め、目もキラキラとしてきた。
後ろに花が見えるような気がする。


「アリス、嬉しいぜ!!
あんたが俺のこと好きだったなんて!!
俺もあんたのこと大好きだ!!!」


ギューッ


「え、エリオット!?
く、苦しいわよ!!!」

(それに、『好き』と『大好き』じゃ、けっこう違う!)


飛び付くように抱き着いてきたエリオット。
さっきと同じ態勢のままなので、腹部がとても締め付けられて、苦しい。

そんな中でも、冷静に言葉の意味合いの違いを分析している自分がいて、嫌気が差す。

そんな考えをしていると、不意に腰の部分に違和感を覚えた。


「…………………エリオット。
何してるのよ」


腹部の締め付けがなくなったと思っていたら、エリオットの顔が腹部よりも少し下がっていて………。




腰に口付けをしていた。




動揺している私の心情を知ってか知らずか、エリオットは笑顔のままで話す。


「あんた、キスってする場所によって意味が違うこと、知ってるか?」


それは、知っている。
本を読んでいれば出てくる。


(まさか、エリオットが知ってたなんて……)

「ここ………腰は『束縛』らしいぜ」


ビクッ


腰を撫でながら、またキスをしてくる。


「……あんたが、誰のところにも…どこにも行っちまわないように、ここに縛り付けておきたい…」


唇を当てたまま、低くつぶやく。
その顔は、変わらず笑っている。
だが、どこか怖さがある笑顔。









あなたが望むのであれば、私はどこへも行かないわ
















………………………………………
エリオットのお話でした!!
エリーちゃんはなかなか難しいです。
マフィアのエリーちゃんと、そうじゃないエリーちゃん。
書き分けがなかなか……。

タイトルは、悩んだ結果、こうなりましたw

長々となってしまったお話でしたが、楽しんで頂けたら嬉しいです(*´ω`*)


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