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Wonderful Wonder World
あなたへの思い(ナイトメア)



…………………………


それは、グレイが駅の一員として働くようになって、数十時間帯が過ぎた頃のこと。



ドンッ


「わ………っ!」

「っと、あぶねーな」



エレベーターを、ある事情により急いで降り、さらに前をよく見ていなかったため、誰かにぶつかってしまった。


「おい、大丈夫か?」

「え、あ、グレイ!
ごめんなさい、前をよく見てなかったわ。
大丈夫よ」

「それならいいんだが。
あんた、以前にもエレベーターから降りてすぐにぶつかっただろ。
ぶつかる相手が毎回俺とは限らないんだ、気を付けろ」

「えぇ、ほんとにごめんなさい」


私の体勢を直しながら、グレイは説教をする。
こういうところが、保護者っぽいと言われるのだが…。
きっとグレイは気付いていないのだろう。


「ところであんた、急いでたみたいだが、どうしたんだ?」

「あ、そうそう、あなたを探していたのよ」

「俺を?」

「えぇ、実は………」


急いでいた理由を、グレイに話す。

その内容は………。




「あのクソガk……………ナイトメア…………様、がまた倒れた?」

(今、クソガキって言いそうになったわよね……。
ふふ、まだ慣れないのね)

「えぇ、そうなの。
今回は少し酷くて……。
護衛の二人は、血で汚れた書類とかが結構大切なものだったらしくて、新しく準備をしているわ。
だからちょうど部屋にいた私が、グレイに知らせに来たんだけど………」


ナイトメアが、いつものことながら血を吐いて倒れた。

今回はいつもより血の量が多かったため、ナイトメアの補佐となったグレイに知らせにホームに行こうと、エレベーターで下に向かい、降りたところでグレイに会ったのだ。


「そうか………知らせてくれて悪いが、あいつが倒れたんなら、今手が離せない状況になったな……」

「?、何かあったの?」


グレイが困った顔をする。


「あぁ、デカくはないんだが、対処が面倒な事故が起きてな。
それの対応をしなくちゃならねえ。
今、その対応をどうするか、一応ナイトメア……様に聞こうと思ったんだが……」


なるほど。
聞く先が倒れてしまったため、グレイが全部対応をしなければならないということか。


「つーわけで、あいつの所には行ってられねーんだ。
あいつは今どうしてる?」

「ナイトメアなら、薬は飲まなかったけれど、ベッドで休んでるわよ。
ただ、誰かが横に居た方がいい状況ね……」

「そうか………。
…………………あんた、次の仕事はいつだ?」


急に仕事の予定を聞いてくるグレイ。
嫌な予感がする。


「え、まだまだ先だけど……。
まさか、私にナイトメアの看病しろとでも言うの?」

「そのまさか、だが?
何か問題でもあるか?」


やっぱり………。
信頼されているのだろうが、もう少し危機感はないのか。


「私自身は問題ないけれど……。
駅長の看病を、単なる駅員に任せていいの?」

「あんたなら、信用できる。
だから問題はない。
悪いが急がなくちゃならねえんだ、任せたぞ」


まだ言いたいことがあったが、グレイが行ってしまった。

仕方がない………行くしかないようだ……。











ーーーーーーーーーーーーー

コンコン


「はい、どちら様ですかー」

「私、アリスよ」

「入って大丈夫ですよー」


ナイトメアの部屋の扉をノックしたら、遠くの方から護衛の人の声が聞こえた。
扉を開ける余裕がない程、忙しいようだ。
まだ書類が揃わないのだろう。

入っていいということなので、扉を開けて中に入る。
中では人数が増え、5人の駅員が慌ただしく動いていた。


「おい、この書類は……」

「こっちの資料は確か…」

「あー、それ、こっちに!」

「それはこの前予備を作ったはずだから……」


予想通り、書類探しで大忙しのようだ。


「アリス、おかえり!
グレイさん、どうだった?」

「ただいま。
それが、ホームでちょうど事故が起きたみたいで、しばらくはこっちに来れないって。
私に看病するように言い残して、対応の方に行ったわ……」

「事故?
そんな音、しなかったけど……」

「大きな事故ではないらしいわ。
でも、対処が面倒な事故だって」

「そうか……。
駅長が動けないとなると、グレイさんが動くしかないか…」


駅員が少し悩んだような仕草をしたが、すぐにこちらに向き直り、お願いをしてきた。


「悪いんだけど、こっちもまだ手が離せそうにないんだ……。
思ったより汚れた資料が多くてな。
グレイさんの言う通り、駅長の看病、やってくれないか?」

「………はぁ…わかったわ。
グレイに言われてる時点でやるつもりだったし…」

「本当か!助かるよ!!」

「えぇ、看病って言っても、とりあえず横にいるだけだし、大丈夫よ。
あなたは自分の仕事の方に行って?」

「ありがとう!」






駅員と別れ、私はナイトメアの寝室に入っていった。


「ナイトメア、入るわよ」

「スー………スー……」


ベッドからは、規則正しい寝息が聞こえる。


(寝てる……みたいね、よかった)


ベッドの横の椅子に座りながら、ナイトメアを見る。


(よくよく考えたら、大変よね。
意図せずとも、人の思考が入ってくるなんて…。
それだけじゃない、恐れられ、怖がられ、忌み嫌われている……)


クローバーの塔にいた大人のナイトメアは、気にしていないと言っていた。
もちろん、この国の、今ここで寝ている若いナイトメアも。
だが、本当に平気なのだろうか……。
私にはわからない。


(その上、駅長の仕事もやってるものね。
そりゃ、体調も崩しやすくなるわよね。
……あ、でも、ちゃんと仕事してるところなんて、滅多に見てない、というかほとんど部下の人達に迷惑かけてるようにしか見えない)

「アリス」

(仕事姿を全く見ないわけじゃないけど、書類仕事なんかは部下の人たちがメインよね…。
グレイが来てからは、対応とかの大半はグレイがやってるし…。
あれ、ナイトメアが倒れる理由って…)

「おい、アリス、聞こえているぞ」

「あらナイトメア、起きていたの?」

「起きていたの?じゃない!
君の心の声が大きくて起きたんだ!
黙って聞いていれば、最初は心配してくれていたのに、どうして途中から変わってしまうんだ!!」


心配していた所からって、結構前から聞いていたような気がするんだが…。
それよりも、あんまり興奮すると体調が…。


「私は偉いんだぞ!
君は、私の部下だろう!
もっと私をうやま、げほっごほごほ」


やっぱり…。


「あなた、さっき倒れたばっかりなんだから、大人しくしていなさいよ…」

「うぅー…、私は偉いんだぞー…。
もっと敬われるべきなんだ…」

「はいはい、敬ってほしいなら、ちゃんと薬を飲んで、仕事をしなさい」


若干起き上がりかけたナイトメアをベッドに戻しながら、答える。
このやり取りはいつものことだ。


「嫌だ、薬は飲まない!
あんな苦くて不味いもの、誰が飲むか!」


この返答も毎度のこと。
大人でも若くても、ここは特にとても子供っぽい。
だからこそ私もグレイも、この病弱でわがままな夢魔から目が離せないのだろう。


「……まぁ、今はいいわ…。
とりあえず、きちんと寝て早く治しなさい」

「けほけほ、寝るのはつまらない。
君と話がしていたい、ダメか…?」

(こういうところが可愛いのよね、ナイトメアって。
かっこいいところもあるんだけど…)


きっと自分は、こういうところに惹かれているのだろう。
夢魔というのは、侮れない。


「いいけど、あなたの体調が悪くなったら寝るのよ?」

「あぁ、わかった、ありがとう」


この時の笑顔は反則だと思う。
男のかっこよさの中に、どこか可愛らしさがある。

これも、夢魔の怖さなのだろうか。


「ところで、グレイはどうしたんだ?
私が倒れたと知ったら、飛んでくると思ったのだが…」

「グレイなら、事故の対応に追われているわよ。
あなたが倒れた時に、ちょうど事故が起きたみたいなの」

「そうか、それならよかった。
実は、グレイが来たら絶対薬を飲まされると思って、寝たふりをしていたんだ。
本当に寝てしまっていたが…」


(寝たふりって…………子供…)

「んん?
今、何か良くないことが聞こえたぞ?」

「何も言ってないし、考えてないわよ」


流れてくる思考を読んだり読まなかったりしているので、悪口を思うことは、極力控えなければいけない。
わざと聞かせる場合は別だが。


「………!
ナイトメア、汗かいてるじゃない。
顔も赤いし、体調悪くなってきたの?」

「ん………?あぁ、本当だ。
気が付かなかった。
………少し、熱がある気がする」

「上だけでも、少し汗を拭きましょう。
濡れタオルを持ってくるわ。
少し待ってて」

「アリス、待………」


ナイトメアの声は聞かず、タオルを取りに行く。
彼の声を聞いていたら、なかなか先に進まないからだ。


「ほらナイトメア、起き上がって、上だけ脱いで?」

「じ、自分でやるから、きき、君は出て行ってくれて構わない」

「何言ってるのよ。
あなた、熱があるのよ?
何も、下まで脱げって言っているわけじゃないんだから…」

「し、しかし…」

「ナイトメア」

「うぐぐ………。
……わかった…」


名前だけ呼んで、無言で見つめたら、諦めてくれたようだ。
ゆっくりと起き上がり、ベッドに腰掛けるように座り直した。


「その、アリス。
も、もう一枚、タオルはないのか?」

「どうして?」

「ま、前は自分で拭く」

「残念ながら、あなたが吐いた血を拭くのに使っちゃったわ。
そんなに時間も経ってないし、補充もしていないの。
だから、諦めて」


(ナイトメアって、変な所で恥ずかしがるわよね…。
前は、急に抱きしめてきたりしたのに…)


「はい、拭きたいから、脱いでちょうだい。
それとも、私が脱がす?」

「じじじじ、じじ、自分で脱げる!」


顔を真っ赤にしながら、ナイトメアは服を脱いだ。


「じゃあ、背中から拭くわね?
大丈夫だとは思うけど、タオル冷たかったら言って?」

「わ、わかった」


タオルの温度を確認しつつ、ナイトメアの背中を拭く。


「大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ」


耳まで真っ赤になっていて、とても面白い。


そして、拭きながら思う。


(若いから、っていうのもあるとは思うけど…。
小さいわね、背中…。
お肉とか、油分が多いものをあまり食べられないということもあるかもしれないけど…。
大人のナイトメアの背中を拭いたこともあったけど、こんなに小さくはなかったわ…)


この背中に、どれ程の責任を、どれ程の苦しみを、彼は背負っているのだろう。

グレイが来る前は、どんな思いで生活をしていたのだう。


(ナイトメアに、私ができることって…)

「アリス?」

「……え?
どうかした?
あ、まさか、痛かった?」

「どうかした、はこちらのセリフだ。
急に手が止まるから」

「あ、ごめんなさい」


考えていたら、手が止まってしまっていたようだ。


「君も、熱があるんじゃないのか?」

「大丈夫よ、少し考え事をしていただけ。
さ、前拭くわよ」

「や、やはり拭くのか…」

「当り前じゃない。
後ろだけ拭いてもあまり意味がないわ」

「…わかったよ、もう好きにしてくれ」


了解も得たところで、ナイトメアの前に行き、拭き始める。
ナイトメアは、見られているのを見たくないのか、目を固く瞑っている。





拭いていると、ふとナイトメアの足に目が止まり、先程のナイトメアの言葉を思い出した。


『うぅー…、私は偉いんだぞー…。
もっと敬われるべきなんだ…』


そして、以前本で読んだ、あることを思い出す。


(爪先へのキスは、崇拝……尊敬を意味する、のよね……)


ナイトメアに言われたからではない。

ただ、なんとなく、したいと思った。



チュッ………



私はナイトメアにわかりにくいよう、サッと爪先を拭くと、足を持ち上げ、爪先にキスをした。



5秒ほど経ち、顔を上げると、ナイトメアがさっき以上に顔を真っ赤にし、こちらを見ていた。


「な、ななななな、な、何をしているんだ君は!!!」

「何って…………キスだけど」

「そ、そそ、そんなこと、言われなくてもわかる!
そ、そうではなくて、なぜ、つつ、爪先に、キキキ、キスなんかっ!!
き、汚いだろう!!」

「ちゃんと拭いたわよ」

「そ、そういうことでは、なくて!!
い、いや、そうなんだが!!!!」


想像以上にテンパっているようだ。
口が上手く回っていない。


「以前、本で読んだのよ。
キスをする場所によって、意味が違うの」

「い、意味?」

「えぇ、知りたい?」

「そ、それは、知りたい、が………。
君が、その、急にき、キスをしてきた意味が、わかるのなら……」


言葉で言うのは簡単だ。
だが、言葉で言うのは、恥ずかしい。

ここは、ナイトメアの力を借りよう。


「わかったわ、教えてあげる。
その代わり、心を読んで、ナイトメア?」

「な、なぜ、心を……。
直接言えばいいだろう」

「いいから」


そう言いつつ、私は目線をナイトメアと同じにし、ゆっくりと顔を近付け、彼の唇にキスをした。


これではきっと、心を読む余裕などないだろうと、思いながらも……。







あなたへの崇拝と、愛を………

































…………………………

はい!
長々とお付き合い頂き、またここまで読んでいただき、ありがとうございます!!

Twitterでネタを頂き、書かせていただきました!
ナイトメアの中指定は、フォロワー様よりしていただきました。

爪先へ崇拝のキスをされて、真っ赤になっているナイトメアを想像するのは、とても楽しかったですw

楽しく読んでいただけたら、嬉しいです(*´ω`*)


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