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Wonderful Wonder World
手の温もり(ユリウス)



…………………………


最近、アリスの様子がおかしい。



アリスは、白ウサギペーター=ホワイトによって、この世界に連れて来られた余所者だ。

他にいい場所があるだろうに、なぜかここ「時計塔」に(無理矢理)滞在している。
この世界に来た当初は仕方がないと思っていたのだが……。
他の領地に友人ができた今でも、滞在地を変える様子はない。

アリスがここに滞在してから、食事などはあいつが準備するようになった。
コーヒーは、気分転換で自分で淹れることもあるが、最近はアリスが、休憩しようとしたタイミングで淹れてくれる。

今も…………………。


カチャ


「はい、ユリウス」

「!、すまない」


休憩のために眼鏡を外したら、コーヒーを差し出してくれた。

これはいつも通りのやり取りなのだが……。


「淹れたばかりで熱いから気をつけて、はい」

「あぁ」


カップを受け取る時に、私とあいつの手が少し触れた。
そうすると…。


ビクッ

パシャッ


「あっ!ごめんなさい!
今拭くものを持ってくるわ!」

「いや、大丈夫だ。
それよりも、火傷はしていないか?」

「えぇ、私は大丈夫。
少し待ってて」


まだ完全に受け取れていないのだが、アリスが急に止まってしまい、コーヒーが床に溢れてしまった。



前までは、手が触れた程度ではこんなことにはならなかったんだが……。

原因は、たぶんあれだ。






・・・・・・・・

50時間帯程前、帽子屋領でマフィア同士の大きな抗争が起きた。
そのお陰で多くの時計がこちらに運ばれてきて、私は休みなく時計の修理をしていた。

こういったことは珍しくない。
だが、30時間帯以上修理をし続けたため、さすがに疲れが出たのか私は気付いたら眠ってしまっていた。

そこに、丁度買い物に行っていたアリスが帰ってきて、私を起こしてくれたのだが………。
ここで、私は大きなミスをした。


「ただいまー………って、ユリウス?
寝ているの?」

「ぅ…ん…………?
……アリス…?」

「そうよ、アリスよ。
あなた、働き詰めだったから疲れが出たのよ。
寝るならちゃんとベッドで寝て、しっかり疲れをとって」


肩を揺さぶりながら起してくれるアリスの声が、心地いいと感じながら、眠い頭の中でいつもと違う何かに違和感を覚えた。


「……薔薇の、香り………」

「え……?」

「お前から、薔薇の香りがする」


この部屋は基本的に、機械油の匂いとコーヒーの匂いしかしない。
そのため、違う匂いがあるとすぐに気付く。
だからなのか、至近距離で体を動かしたアリスから薔薇の匂いがして、違和感を感じたのだ。

アリスがここで生活をし出して、そう短くはない。
ずっとこの部屋にいるということはないが、だいたいはこの部屋で暮らしている。
だから機械油とコーヒーの匂いはすぐに沁み付き、この部屋の一部になった。

そんなアリスから薔薇の香り。
出掛けている最中に、薔薇の香水でも試したのだろう。
そう考えればいいのだが、なぜだか心がざわつく。
この香りは、嗅いだことがある。


「え、嘘!?ほんとに?
さっき、帰り際にブラッドに会ったの。
すぐそこに用事があるからって言って、ここまで送ってくれたんだけど……。
まさか、匂いが移るなんて……」


やはり、か……。
きっとアリスは深くは考えておらず、友人が送ってくれるのを、素直に受け取っただけだろう。
だが、帽子屋はそんな風には考えていない。
これは、挑発をしてきたのだ。



アリスを狙っているのは、お前だけではない、と。



普段の状態であれば、嫉妬はしても我慢をし、嫉妬を飲み込み、挑発になど乗らない。

だが、今回は違った。

疲れ、眠気、寝起きの働かない頭。
それらが理性を働かせなかった。


「アリス……」

「え……わ、ちょっと、ユリウス!?」


私は、揺するアリスの腕を掴み、抱き締め、そのまま修理台の上に押し倒した。

他のやつの匂いを消して、この部屋の匂い、自分の匂いをつけたかった。
この部屋の、一部にしたかった。



どれくらい、そのままの体勢でいたかは覚えていない。
長かったかもしれないし、短かったのかもしれない。


「ユリウス!ユリウス!!!」


ドンドンッ


アリスの、私の腕を叩く振動と、私の名前を呼ぶ声で気が付いた。


「え……アリス…?」

「ユリウス、苦しいわ。
背中に、工具が当たって痛いし」


バッ!


一気に目が覚め、体を起こした。
その時の私の顔は、恐らく真っ青であっただろう。
夢魔にも負けない程。


「す、すまないアリス。
少し寝惚けていた。
私は外の空気を吸いに行ってくる。
疲れているようであったらベッドで休んでていい。
あぁ、これから女王と茶会だったか。
何もないとは思うが気を付けて行け」

「ちょ、ユリウス…っ、待っ……!」



アリスの声も聞かず、捲し立てるようにして部屋を出た。
屋上で気分転換をした後、部屋に戻ったら『ビバルディの所に行ってきます』という置き手紙と、コーヒーが置いてあった。





・・・・・・・・

その後、帰って来たアリスは、話し方はいつも通りだが、少しでも私と触れたりすると固まってしまうか、避けるようになった。
視線も、あまり合わなくなってしまった。

きっとあれが原因で、私のことが怖くなってしまったのだろう。

もし、滞在地を変えたいと言われたら、素直に受け入れられるだろうか……。






わからないまま、また数時間帯が過ぎた。





私は部屋で時計の修理、アリスは街で買ってきた本を読んでいた。


「はぁー…………」


カチャ

ガタッ


「あ、ユリウス、コーヒー淹れるの?
私が淹れてくるわよ?」

「いや、たまには私が淹れる。
待っていろ」


仕事が一段落したため、コーヒーを淹れるために立ち上がった。


「アリス、火傷しないように気を付けろ」

「あ、ありがとう。
……ユリウスのコーヒー、久しぶりね」

「そうだな、最近はお前が淹れることの方が多かったからな」


アリスの向かいに座りながら、コーヒーを渡した。




しばらく、コーヒーを飲む音だけが部屋に響いていた。




「………アリス、少しいいか?」

「?、何かしら?」

「お前は………お前は、私のことが怖いのか?」


私は、気になっていたことを聞いた。


「えっ、と………どういうことかしら…?」

「以前、私がお前の事を抱き締めて、押し倒してしまったことがあっただろう?
それから、その、お前の様子がおかしいと感じていてな……。
工具が背中に当たっていた、と言っていたし、急にあんなことがあったんだ。
恐怖心を抱いて当たり前だ。
だから、その、もしお前が滞在地を変えたいと言うのなら…………」

「ち、違うわ!」


突然、アリスが私の言葉を遮った。


「違う、というのは……?」

「怖い、と感じたことはないわ。
ただ、あれから、ユリウスも男性なんだなって改めて実感しちゃって……」

「………………は?」


は?男性と実感した?
どういうことだ?


「その、抱き締められたのは、驚いたわ。
でも、嫌ではなかったの。
ただ、抱き締められた時、思っていたよりもあなたの体は、私の一回り以上も大きいし、少し揺すっただけじゃビクともしないし、で……。
男性なんだってわかったら、急に恥ずかしくなって……」


アリスの顔が、赤に染まっている。

これは、自惚れてもいいのだろうか。


「ごめんなさい、ユリウス……。
私、その、あなたのことが好き、みたい……」


自惚れても、いいらしい。


「アリス……私も、お前のことが好きだ」


なんなんだ、この恥ずかしさ……。
…………だが、こいつに触れたい。


「その、アリス。
手に、触れてもいいか?」

「え、えっと……うん……」


許可を得て、カップを持つアリスの手に触れる。

緊張しているのか、心臓の脈打ちが触れた部分から伝わってくる。





お前の手の温もりを、愛しいと感じる















………………………………………

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!
ユリウスのお話でした!
ちょっと攻めっぽいユリウスな感じがしますが……w

楽しんでいただけたら嬉しいですっ!
また、感想等々いただけると嬉しいです(*´ω`*)!

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