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創作(長編)
5 女
 葱の屋敷の朝は早い。今日もいつもと同じ朝がやってくる……はずだった。

「なんでこうなるの……」
 厘はというと夜中まで歌を考えていた。案の定寝坊をして庭の草むしり。もちろん罰掃除だ。
 先日も廊下掃除を途中で投げ出して、こっぴどく叱られたばかりだ。
(最近ついてないな…)
 こうも多いとこの運の悪さを人の所為にしたくなる。
(まぁ、そのおかげで葱様とお近づきになれたんだけどさ。)
 つい先日の一件以来厘と葱はよく話すようになった。とはいえ、身分が違いすぎるので厘が葱に呼ばれて部屋まで出向くのがほとんどであり、話すのも厘のほうが口数が多く葱はそれを聞くというのが当たり前になっているが。

 どうやら葱のせいにしようとしていたらしいが葱のせいにするどころか、そこからかなりかけ離れて考えている。


「厘!ちょっと来て!」
 下仕えの女たちが生活する小屋の方から呼ぶ声が聞こえた。
「はい!今行きます!」


「なんだってんだいこの部屋は!」
 小屋に足を踏み入れた瞬間、開口一番に厘の耳に飛び込んできたのは、下仕えや女房達を取り仕切る乳母、叶(かなえ)である。普段は穏やかな大家族の母のようだが、眉間の皺が三重にもなるぐらいの怒りようは、独特な濁声は地の底からはってでた鬼。
 入ろうとする足が竦んでしまった。


「厘!やっときたね。中にお入り。」
 と優しく促す叶。
「は、はい」
 どうやら厘が怒られるのではないらしい。
「あんたに頼むのもちょっと頼りないんだけど…実はねぇ、新人のこの子の面倒見てほしいんだよ。」
 叶が肩を叩いた着古した小袖を着た女の子。
 珍しいうぐいす色の肩までのびた髪。先程の声に驚いてか、かすかに手が震えている。まるで小動物のよう。

「本来ならこの子達が見てくれるはずだったんだけど、この有様だからね」

 といって叶は苦笑した。 それもそのはず。女の部屋、まして下働きの女の共同部屋とも思えないひどい有様。布団は敷きっぱなし、夜着はその上に無残に捨てられ戦場の残骸と化している。
 男のそれより汚いなどとよく言ったものだ。その言葉を全く裏切らない。

 厘は少し顔が引きつってしまった。気を取り直して笑顔で聞く。
「名前は何ていうの?」

「火燕、と…申します」
 下を向きながらほうを赤らめた。

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