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創作(短編・中編)

 いいや唯一反抗していた人物を私は知ってる。
 私の祖父だ。早くに祖母を亡くした祖父は私によくこんなことを教えてくれた。
『儂のおじいさんやおばあさんは第二次世界大戦を経験してきたんだよ。』
『だいに?』
『第二次世界大戦だよ。多くの人々が死んでいったそうだ。儂のおじいさんはその戦争でお姉さんを目の前で殺されたそうだ。B29という飛行機に頭を射抜かれてな。』
『いたそ……』
『怖かったろうにな。こんな世にならないようにしないとな』

 祖父は元々小説家だった。
 これと言って特別たくさん売れているヒット作がある訳ではなかったけど、母とその弟を大学まで行かせるだけのお金の収入はあったらしい。
 小説家であったためか、ただ単に本が好きだっただけなのか、書斎にはたくさんの本が並んでた。
 いつも優しい祖父だったけど、母は特別祖父が大嫌いだった。私と祖父が話をしてる最中にも気がつくとそこには母がいて私に対して顔を真っ赤にして怒るのだ。
「亜希!洗濯物取り込んでないじゃない!」
 そういって私の腕を引っ張る。その表情はいつも何かに脅えてるように見えた。 言ってる事は真っ当な理由だ。でも、いつもなら家事はお母さんがやりたがる。いや、「母は家事だ」とお父さんが言っているのに逆らわないだけかもしれない。でも、私にやらせる事はないのだ。祖父と話してるときぐらいしか。
 なんで母は祖父が嫌いなんだろう。確かに2人の考え方は全く正反対だった。母は日本のやり方を大絶賛しててよく私に日本のすばらしさを教えてた。対して祖父は日本の非である部分を話してた。
 でも、家族なのだから少しぐらいは仲良くしたって。

 その疑問の答えは祖父が死んでからやってきた。祖父が死んでから書斎によく入ってた私は、本を探してる最中にたまたま隠しドアを見つけた。扉を開くと暗闇が続いた長い廊下。
 恐る恐るライトを持って入っていった。
 その先にあったのは所狭しと本棚が並ぶ薄暗い部屋。置いてあるのは絶版された本や外国の書物ばかり。よく見てみるとそれらは今の日本の現状を批判してる本ばかりだった。
 それを読んでいくうちに私は気づいてしまった。
 なぜ祖父は死んでしまったのか、母はなぜ祖父を嫌ったのか。 祖父は表向きは小説家だったが、裏の顔は反日本主義の主要メンバーの一人だった。日本政府はそんな祖父が邪魔だったのだ。
 そして母はそんな父がいる事を恐れた。下手をしたら自分の命も危ういから。

 今の日本は根本的に狂ってる。祖父は母国日本に殺されたんだということに気がついてしまった。

 そして、日本はそういう家庭で生きた、反日本の精神を持っているかもしれない子供を殺してくことを選び取ったのだ。

 私はそのまま眠れなかった。

 家をでようか。殺されるぐらいならいっそ飢え死のほうがましだ。
 それより殺される前に自分から死のうか。

 そんな事を考えるより先に体が動いてた。
 私は財布と自転車の鍵だけを持って2階の部屋の窓から逃げ出した。

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