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提出品
銀兎 匡さまへ提出(トレス夢)

外はまだ冷たいけど、差し込む日差しは暖かい。

そんな昼下がり。

本音を言えば、どこか日当たりの良い場所でのんびりしていたいのだけど………神様はそれを許してくれないのだ。




「アベル、こんなもの経費で落とせるワケないでしょう?書き直して。」

ササッと提出された書類に流れるような仕草で×印をつけたアサヒに名を呼ばれた神父は情けない声をあげた。

「そんなぁ、アサヒさん。これが経費で落ちなかったら、私どうやって生きていけば良いんですか?!見て下さい。この薄いお財布を!」

そんな言葉とともに逆さにされた財布からは4ディナールが転がり落ちる。

「そんな事言われても、出来ない事は出来ないわ。どうしてもって言うなら直接カテリーナ様にお願いするのね。」

アサヒの返答にアベルは黙っていれば綺麗な顔をクシャリと情けなく歪めてみせる。

「そんな事言ったら、私お婿に行けない体にされちゃいますよ!」

何を想像したのか、アベルは顔を青く染めガタガタと震え出す。

その姿は見ているだけで可哀想になるが出来ない事は出来ないのだから仕方がない。

そもそも………

「アベルは出張先での散財が目立つのよ!!」

アサヒの叱責に怒られた当人は、へらっと笑う。

「実はこの間、全く同じ事をトレス君にも言われたんですよ。」

照れたようにも苦笑したようにも見える顔で告白するアベルにアサヒは頭痛を耐えるような顔をして見せた。

経費の管理をしていない同僚に指摘されるほど、彼の散財は目立つのだ。

食い溜めしようとしているとしか思えない多額の飲食費はともかく、彼の場合無駄な出費が多すぎる。

「とにかく、やり直して!明日の午後にはカテリーナ様に報告するんだから!遅れたら、来月に回すからね!」

アサヒの言葉にまるで死刑宣告でも受けたような顔をしてアベルはパタパタと騒がしく出て行く。

やれやれ、とばかりに肩を竦めるも問題はアベルばかりではないのだ。

あらゆる部門で素晴らしい力を持つAXのメンバーだが、この出張経費の報告になるとマトモな書類を出す奴がいない。

無駄な経費が多すぎるアベルやレオン、指摘しないと報告書を提出しないモニカやユーグ、教授に至っては忙しさから報告書の作成すらしていない事が多い。
毎月、特に問題もなくまた期日を守って提出してくれるのは、トレスくらいだ。

かと言って出してない奴が悪い!と無視するワケにもいかないので、期限が近づくと催促してまわる事になるのだが、如何せん書類に不備が多すぎる。

結局報告する前日の午後になっても、出来上がってない奴がいる事が常なのだ。

それでも毎月、なんとかなっているワケだけど…………。

綱渡りな現状にため息が出てきそうになるが、落ち込んだところで先に進まない。

改めて気合いを入れ直しドアを開ければ、あるはずのない壁にぶつかりそうになった。

タタンっと慌てた足元が調子の外れたリズムを刻む。

「シスターアサヒ」

動揺したあたしの名を相変わらず抑揚を欠いた声が呼ぶ。

視線を向ける事で続きを促せば、無機質な瞳と目があった。

奇妙な沈黙がおりる。

「あ、あの………用件は?」

耐えきれずに問い返せば、何かを深く思案しているようにも逆に何も考えていないようにも見えるガラスの瞳が瞬く。

しばしの沈黙の後、無口な同僚からは

「市内の哨戒に行く、同行を。」

という短い言葉。

それはどこか本来言おうとした言葉の代わりに出てきたようにも感じられるものだった。

「あ、えっーと……あたし、……今から出張経費の報告書の回収が………」

そんな彼への回答を言いよどんだのには理由がある。

それは勿論………

「発言の意図が不明だ。出張経費の報告書の提出期限は74時間28分13秒前に過ぎている。」

この回答が予想出来たからだ。

「細かい秒数までありがとう。でもね、それはあたしじゃなくて提出してないお馬鹿さん達に言って欲しいわ」

あからさまに肩をすくめてため息をつくアサヒの態度にも機械化歩兵は無表情のまま沈黙を保っていた。

反論や問いかけがない事で会話が終了したと見なしたのだろう。

抱えていた荷物を持ち直し、アサヒはくるりと背を向ける。

「それじゃあ、気をつけてね。行ってらっしゃい」

ひらひらと白い手袋に包まれた手を泳がせながらアサヒはてくてくと歩き出す。

一定の速度とは言い難い不揃いなリズムの足音は、静かに溶けて行くのだ。






無意識に、そんな事実が有り得ない事は誰に指摘されずとも彼が一番理解していた。

視覚センサーが捕らえた、という事実は己の意識がそれを捕らようと働いたという事以外の証明にはならない。

ざわめく声や、木々のこすれる音、鳥の囀り………

世界に溢れた音の中で一つの音を捕らえた事は、自らがそれを望んだからだ。

導いた回答は単純極まりない。

しかし、何故そのような行為をしたのか…………その意図を答える事は困難だ。

物事には全て結果があるように、そこには回答を導く過程があり、意図が存在する。

理由もなく引き金を引く事があるだろうか?

答えは否だ。

ならば何故………

くるりとループした思考を振り切るように、彼はゆっくりと瞬きを繰り返した。

こんな不必要な行為にも制作者の意図が宿るというのに、何故己は導き出された結果に答える言葉も持たないのだろう。

彼女ならその問いに対する回答を与えてくれるのだろうか?



「あ、あの………用件は?」

問いかける声が、怪訝そうな音を含んでいる事に気づく。

当然だろう。

今の俺に彼女のもとを訪れる理由はない。

まして、毎月恒例となりつつある回収作業に忙しい彼女の足を止めてまですべき問いを持っているワケでもない。

短い問いかけに対する回答をすぐに失えば言い慣れた短い言葉がこぼれ落ちた。

言い辛そうに下がる眉と視線。

困ったような顔をした彼女の回答は予測の範囲内だ。

おそらく彼女が予測したであろう回答を返せば、呆れたように彼女は笑う。

使い慣れた言葉と予測通りの回答………人はこんなありきたりな出来事にどんな名前をつけるのだろう。

ひらりと舞う指先。

「アサヒ」

彼女の名を呼ぶ事で離れる背を、理由も理解出来ぬまま呼び止めた。

くるりと回る彼女の動きにあわせ、白い尼僧服が舞う。

些細な一瞬を見逃さないのは、それを望んでいるからだ。

脳内で算定された結果に目を閉じ、二人の方が効率が良いなんて有りもしない結論を紡ぐ。

無意識に、そんな事実はありはしない。

全ては自らが望んだ結果。

目がアナタを追うように

耳がアナタを探すように

口がアナタのそばにいたいと語るのだ。

そんな行為につける名前なんて知りもしないのに――――



―――――――――


約束してからどんだけ時間かかってんの?!と突っ込みが来そうなリンク有難う夢。銀兎さんのみ持ち帰り可です。良ければ貰ってやって下さい。

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あきゅろす。
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