夢小説(その他)
学生(ネウロ ギャグ?)
「アサヒ、どうしたのその頭!」
額を包帯で飾ったアサヒの顔に弥子は悲鳴にも似た声をあげた。
弥子の心配そうな言葉にアサヒは、頬を指でかきながら答える。
「あのさ…弥子。お土産に涎垂らしながら心配されても気持ちが伝わらないよ。」
「ご…ごめん。」
口元を拭い謝る弥子の視線は、本日のお土産…ケーキの入った箱に釘付けだ。
来客用のソファーに座らせ紅茶を出すなり弥子の手はケーキの入った箱へと伸びる。
「何時もごめんねっ」
そんな申し訳なさそうな言葉とは裏腹に弥子の手にはすでにショートケーキが握られていた。
「弥子らしくて良いけどね。」
そんな言葉で自身を納得させながらアサヒは、カップに口をつける。
「痛…ッ」
口の中にある傷口を紅茶に撫でられ、アサヒは微かに眉を寄せた。
「それで、どうしたの…その怪我。」
ペロリと指先についた生クリームを舐め取りながら弥子は問う。
「んーっ…大した事じゃない。」
そう答えれば、ケーキに夢中だった弥子の顔が曇った。
「私は、アサヒの事と友達だと思ってるよ。だから、悩みがあるなら…相談して欲しい。」
シュンと視線を下げる姿。
やっぱり、弥子が好きだ。
変な意味ではなく、一人の人間として。
「ありがとう。あたしも弥子の事友達だと思ってるし大好きだよ。…でも、そのケーキは置いて話して欲しかったな。」
「うん、自分でも時々嫌になる。」
しっかりと握られたチョコレートケーキ
口元まで運ばなかった彼女の努力は、誉めるべきかも知れない。
「…弥子らしいよ。」
明るく笑うアサヒの顔
初めて会った時の第一印象は、鬼畜外道な女王様だったけどこうして触れ合ってから理解した。
それは、彼女が自身と組織を守る為に作り上げた仮面だったのだと…。
もし彼女の父親が普通の人間であったなら…アサヒは、当たり前に学校に通うただの少女であったに違いない。
こんな風に、暗い世界に身をおく事もなく…。
「弥子、ほっぺにクリームついてる。」
トントンと自身の頬を差す仕草
その明るく笑う顔の下で彼女は何を考えているのだろう。
「―――それでね、藤原先生が……」
学校であった何気ない話をアサヒは、楽しそうに聞く。
相槌を打つ仕草、声のトーン…、彼女の言動一つ一つが『学校』という小さな世界へ憧れを抱いている事を知らせる。
同じ年齢である2人の少女の環境は、反転させたかのように明るく、暗い。
「…アサヒは、学校に行きたい?」
率直な問いかけ。
アサヒは、きょとんとした顔をして苦笑した。
「憧れは…あるよ。知らない世界、それこそテレビの中にある世界だから、ね。」
この日本という狭い国の中で…それも義務教育という環境が整えられた空間で、『学校』という世界をテレビでしか知らないと答えた少女は、穏やかに笑う。
「でも、今の環境に不満はないよ。…ただ、もしあたしが学校に行けたのなら…弥子と一緒に勉強したり出来たのかな?って思うけど…。」
「…うん」
幼い身に小規模ながら極道の肩書きを継承せざるを得なかった彼女は、いつまで仮面を被り自身を偽り続けるのだろう。
「あ、そうだ。良いこと考えてた。アサヒ…少しだけ…学生気分味わってみない?!」
「…………?」
弥子の言葉にアサヒは不思議そうに首を傾げるばかりだった。
「………どう、かな?」
気恥ずかしそうなアサヒの言葉に弥子は満面の笑みを浮かべた。
「お〜っ似合う!」
額に巻かれた包帯が少し痛々しいが、自分の制服を着たアサヒは、どこから見ても女子高生だ。
ほんの少し曲がっていたリボンを直してやりながら、弥子はニコニコと笑う。
「…制服ってはじめて着た。弥子、ありがとう。」
無邪気な笑み。
ペタペタと制服に触れるアサヒの瞳がキラキラと輝く。
「ほう、馬子にも衣装とはよく言ったものだな。」
「ネウロ、それは決してほめ言葉ではないよ。っていうか、いたの??」
弥子の突っ込みには答えず、ネウロはアサヒの頭から足先までをまじまじと見つめる。
「…よし、アサヒ。お前は、女子高生探偵桂木弥子に憧れた女子高生役だ。」
「…は?」
「このナメクジが使えない時、貴様を代わりに使ってやると言っているのだ。」
「……………。」
困ったように寄せられる眉
「嫌か?」
「…嫌というか無理」
「嫌か??」
ネウロの手には、机が握られている。
多分投げつけるつもりだろう。
「無・理」
大きく口を開きアサヒは答える。
「強情な下等生物め。この我が輩に意見する気か?」
片手で机を持ち上げたまま空いた方の手でぐりぐりと頬をつつけばアサヒはますます眉を寄せる。
「協力する事は吝かじゃない…でも無理な事は、できない。」
パシンと自身の頬をつつく手をはねのけアサヒは答える。
こんな時、改めてアサヒはすごいと思う。
きっと私なら、そのまま流されてしまうに違いない。
というか、抵抗しようという気持ちすらない。手を叩くなんてもってのほかだ。
そんな事を弥子は、シュークリームを口に運びながら考える。
「あなたの事は好きだから、協力できる事はする。でもあたしにも立場ってものがある。それを蔑ろにしてまで自分の主張を通す人ではないと、認識しているけど…違うの?」
気持ち良いくらいはっきりと口にされた言葉に、珍しくネウロは驚いた顔をし、弥子は凍りつく。
凍りついた頭を必死に解凍しながら弥子はアサヒの言葉を反復した。
あなたの事は好きだから…略。
…好き?
アサヒがネウロを??
マズい。それは非常にマズい!
きっとネウロはアサヒの好意を逆手にとってこき使うに違いない!
何か、何か良い方法を…
エクレアを口に放り込みながら弥子は必死に頭を回す。
チラッと好きだと告げられた当人に視線を送れば…にたりとその口元が広がっていた。
ヒィイ、手遅れ。手遅れだよアサヒ!
何でよりによって、コイツを選んでしまったの?!
もっとアサヒを大事にしてくれる人いっぱいいるよ!
「ほう、アサヒお前我が輩が好きなのか?」
「…何か文句でも?」
不愉快そうに寄せられる眉と鋭さを増す眼光
これはアサヒのスイッチが入る前兆だ。
「…いや、ならば愛する我が輩の為に身を粉にして働くがいい。」
ニヤリと笑うネウロにアサヒは鼻を鳴らす。
「馬鹿か、お前。誰がお前を愛しているなどと言った。」
「「……………」」
場に流れた沈黙
「…えっと、ネウロが好きなんじゃ…。」
耐えきれなくなった弥子が恐る恐る口にした言葉にアサヒは笑う。
「世の中は、好きか嫌いかで分けられるだろう?そういう意味での『好き』だ。付け加えるなら、今のところ…一番は弥子とあかねだ。」
嬉しいけど、今は聞きたくなかった!
「因みに我が輩は何番目だ。」
ガシッと弥子の頭を鷲掴みにしてネウロは問う。
その顔はお得意のにこやかスマイルだが、弥子の頭に食い込む指先には苛立ちが感じ取れる。
「…んーっ、36位くらいかな?」
指先を折ながらの回答
いっそ、嫌いと言われた方が気が楽だったかも知れない。
「…そうか。」
ギリギリギリ
「痛い――――!」
割れる。
このままだと頭蓋骨が粉砕される。
ついでに言うなら私の後は間違いなくあかねちゃんだ。
髪の毛を傷ませる様々な液体を塗り込まれるに違いない!
というか…私とあかねちゃんを排除した後も35位までにランクインした人間が消されるかも知れない。
「ネウロ、弥子から手ぇ離せ。」
ギロリとアサヒの瞳が剣呑な光を宿す。
「我が輩の奴隷をどう扱おうが我が輩の自由だ。それに見ろ。このゾウリムシも泣きながら喜んでいるではないか。」
「…痛い痛い痛いっ!喜んでないから、痛くて泣いてるから!というか、八つ当たりじゃん。こんな事ばかりするから、36位にランク…ぎゃーっ!食い込っ!
痛い。すみません。すみません。」
徐々に食い込む指先に混乱しながら弥子は叫んだ。
そんな弥子の耳に届いたのは…
「弥子、リボンが何回しても縦結びに…あれ、あたしがいる…」
という不思議そうなアサヒの声。
きょとんとした顔でネウロと対峙する自分の姿を見つめる。
「…クス、バレちゃった。」
明るい声で呟いたアサヒの姿がグニャリと曲がりアサヒだったものは、見覚えのある少年の姿となって親しげな微笑を浮かべた。
「やぁ、アサヒ」
「えっと……………」
頬をかきながらアサヒは固まる。
「…………………」
無言のまま微笑むX(サイ)と明らかに、『コイツ誰だっけ?』って感じのアサヒ。
ネウロが肩を震わせ必死に笑いを耐える。
Xを思って…じゃない。間違いなくアサヒが『誰?』と問うのを待っているのだ。
「もしかして、わからない?」
若干引きつったXの顔と、それを見つめるアサヒの真面目な顔
「……………………………あぁ、Xだ。」
「チッ」
長すぎる間からはじき出された回答にネウロがあからさまな舌打ちを漏らした。
「最後にあったのは…何年前だったっけ?」
「4日前だよアサヒ。」
「……………ごめん。」
「うん、心の底から謝って。」
アサヒとXのやりとりにネウロがクツクツと笑う。
「…惨めだな。」
「自分の気持ちも言えないあんたに言われたくないよ。」
「存在すら忘れられる貴様よりはマシだ。」
冷えた空気が部屋に満ちる。
そんな中でも凛とした静かな声が響く。
「男二人で無駄に張り合うなんて愚かだわ。」
「「……………。」」
声の主にネウロとXは視線を向ける。
「弥子のハートを射止めたのはこのあたし。餌付…もとい、日頃のプレゼントの賜物ね!さぁ、敗者は敗者らしく惨めったらしい顔をして事務所(ここ)を去りなさい!」
アサヒの不敵な微笑と言葉にネウロとXの顔が綺麗に歪む。
「ふっ…ショックのあまり言葉も出ないようね!…………弥子、変な顔になってるよ。」
「アサヒ、お願い…お願いだから私を巻き込まないで。」
ガシッとアサヒの両肩を握り両目から大量の涙を流しながら叫んだ弥子にアサヒはニコニコと笑う。
「え、あたし弥子が大好きよ?弥子もあたしが好きでしょう?」
「…これ以上、爆弾を投下するのはやめて!靴でも足でも舐めるから!勘弁してください!」
「爆弾なんか落としたら弥子死んじゃうじゃない。どうしたの?さっきから変だよ。」
「アサヒ、お願いもう何も言わないで。私殺されちゃう。」
「…よくわかんないけど、弥子が殺されそうになったらあたしがそいつを殺すから大丈夫!だから、弥子遊び行こう。一度やって見たかったんだー…えっと、そうデートとかいうやつ!」
…………アサヒと別れた時が私が死ぬ時に違いない。
「…うん、うん、わかった。わかったから、もう刺激しないで…。」
今日1日で一生分の涙を流したかも知れない。
「ありがとう。弥子、大好き♪」
チュッと頬に温かいモノが触れる感触。
「さぁ、遊ぶぞー!」
この後、日がとっぷり暮れるまで学生気分を味わったアサヒは満足そうに帰って行った。
アサヒと別れた途端事務所に拉致らせた私がネウロとXに拷問されたのは言うまでも無いだろう。
本日の教訓
本人に悪意がなくとも恩を仇で返す事は可能である。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
終
主人公のイメージがジェニュインと(鴉の中で)重なったので設定を微妙に変更。
アサヒさん、お付き合いありがとうございました。
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