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夢小説(その他)
社畜さんとニートさん(おそ松さん カラ松)


本日も休日出勤で休みを潰され、何だかんだで20連勤目となった。

20とは、またキリが良くていいねぇ、と一人で笑うが、仕事と引き替えに放置した家事を思い出すと胃が痛くなりそうだった。

「・・・・・・、どうしてこうなったのかねぇ。」

手の中にある缶コーヒーをゆらゆらと揺らしながら、橋の上でぼんやりと考える。

仕事があるってのは有り難い話だし、仕事自体は無論好きだが、もうちょっと余裕のある生活とやらを送りたい。

そんな願いは少々贅沢過ぎるだろうか?

まぁ、幸いな事に今日を含めて二連休の予定だったのだ。

明日は、放置に放置を重ねた家事を片付けよう。

洗濯して、掃除して、買い物もしないとなぁ・・・・

そう考えれば考えるだけ、家に帰るのが憂鬱になる。

とはいえ、こうやって何時までもぼんやりと川を見ているわけにもいかない。

そろそろ帰るか、そんな気持ちを後押しするようにぐいと珈琲を飲み干した。

コトンと橋の上に缶を置き、改めて赤く染まる世界を見る。

キラキラと夕日を反射し赤く染まる水面と、うっすらと夜の色で化粧をし出した空。

「あぁ、綺麗だなぁ・・・・・」

なんて面白みもない感想をあえて口に出せば何だか笑い出したい気持ちになった。

ふふっと思わず漏れた笑みが

「ウェイトだ!アサヒ!!!」

そんな鋭い声にかき消される。

声が耳に届いたのと、重たい衝撃がどんと背中から伝わったのはほぼ同時だったと思う。

「・・・・・・・・・・・・え?」

間の抜けた自分の声に「うわぁああああああ」という絶叫が重なる。

一瞬遅れて身体に伝わったのは地面がなくなる浮遊感と、絡みつくような重力。

「ぎゃあああああああ!!」

色気のカケラもない悲鳴

鈍い衝撃と大きな音を立てて、広がった水の輪が幾つものしぶきになってキラキラと輝いた。






「・・・・・・・まさか、学生時代からの友人に殺されかける日がくるとは・・・」

びしょびしょになったスーツを絞りながら呻けば、同じくびしょ濡れの衣服を隣で絞る男が小さく呻いた。

「ち、違うんだ。オレはてっきりアサヒが・・・・その・・・・」

もごもごと言い淀んで、視線をそらした彼に、あぁ、そうね。と一人頷く。

気の良い彼の目には、くたびれた会社員がまさに身投げしようとしている瞬間にでも見えたんだろう。

慌てて止めに入るなんて、彼の気質は相変わらずらしい。

それで力加減を誤って二人とも川に落ちるなんてのは、彼くらいのものだろうが・・・

「とりあえず、帰ろうか。風邪引くと困るし。」

今にも泣きながら土下座でもしてきそうな男にそう声をかければ、

「・・・・・・・・・・・ここからうちが近い。服を貸そう」

そんな言葉が穏やかな微笑とともに返ってきた。










普通に断って帰れば良かった。

有り難いけど、迷惑だっただろうに・・・・そんなことを、促されるまま頂いてしまった湯船の中で考える。

「アサヒちゃん、ここにタオルとかお洋服置いておくから使ってね。女の子のお洋服ないから、うちの子達のものだけど・・・・」

浴室の外から、優しげな女性の声が届く。

「あ、何から何までスミマセン!!」

咄嗟に答えたこちらの返答におばさんはクスクスと楽しげに笑った。

「いいのよ、うちの馬鹿ニートがゴメンナサイね。」

「いえ、私が紛らわしくてカラ松君にはご迷惑を・・・・」

そんなこちらに言葉に返ってきたのは優しそうな笑い声

「風邪引かないようにちゃんと温まってから出なさいね」

なんて子供に言うような言葉を口にしながら、声が遠ざかる。

パタンと閉まる扉の音が聞けば、なんとなくものかなしい気持ちになった。

「・・・・・・・・・・・・こういうの久しぶりだなぁ・・・・」

思わずそう呟くと、なんとなく実家が恋しくなった。

ガシガシと粗雑にタオルで髪を拭いながら、渡された衣服を見る。

「使わせて貰います。」

と一人でお礼を呟き、貸して貰った衣服を纏う。

髪を乾かし、きちんと身支度を整えたところで、軽いノックの音が響いた。





彼シャツってのがいい・・・・ってそんな話を兄弟としたのは何時だったか。

所詮妄想の域を出なかった話が、有り難い事に現実のこととして目の前にある。

正確にはシャツではなくパーカーだが・・・。

指先まで隠れそうな袖と全体的にだぼっとしたシルエット。

「洋服、有り難く借りていくね。クリーニングして返すから・・・お風呂も有難う。」

自身の衣服を少なからず好意のある女性が着るというのは、実にいいものだ。

思わず頬が熱くなるのを自覚しながら、慌てて目線をそらす。

なんとなく見てはいけないものを見ている気分になるのは何故だろう。

「あ・・・・・いや、マミ・・・じゃなくて、母さんが夕飯食べていけって」

「え?!いや、さすがにそこまでは迷惑かけられないよ。」

慌てた様な彼女に「でも、もう準備しているし・・・・」と答えれば、申し訳なさそうに眉が下がった。

「あぁ、じゃあせめてお手伝いを。」

長い袖を触りながらアサヒが答える。

「やはり大きかったな、大丈夫か?」

さり気なく自分の衣服であることをアピールすれば、アサヒはニコニコと笑った。

「大丈夫、汚さないようにだけ気をつけるね。ってか、これカラ松の服か。・・・・うん、確かにカラ松の匂いがする・・・・・気がする?むしろ、松野家の匂いがするのかな。」

実に自然な仕草で袖口を顔に持って行き、すんと鼻を鳴らしたアサヒに思わず目が泳ぐ。

「じゅ、柔軟剤の匂いじゃないか?」

明後日の方向を見ながら答えれば、

「あぁ、そうかも。いい匂いだねぇ。いいなー・・・・」

のほほんとした彼女の物言いに思わずごくっと喉が鳴った。

こういうやり取りになれていない自分にはあまりに刺激が多すぎる。

「そしたらお手伝いしてきます。お風呂、ごゆっくり〜」

パーカーの袖をまくりながらぱたぱたとアサヒがかけていく音が響く。

その言葉に思わず良からぬ事を想像したのは、童貞ゆえと言い訳したい。










「美味しい、」

心底感激したような声で、アサヒは湯気をあげる夕食に笑みを浮かべた。

「んな、大げさな・・・・」

思わずそう突っ込んだおそ松にアサヒは半眼で呻く

「うっわ、この有りがたさが分からないなんて贅沢者ね・・・・。食事が出てきて、洗濯して貰って、掃除して貰えているなんてのが当たり前って思ったらいつかバチがあたるわよ。」

ご尤もな指摘を「はいはい」と流しながら、おそ松は自分のおかずへと箸を伸ばす。

もぐっと口の中に放り込んでから、「ところでさぁ、なんでアサヒがいんの?」と今更過ぎる問いかけを口に出した。

「んー・・・・簡単に説明すると、川に落ちたところをカラ松に助けられた。」

「はぁ?馬鹿でしょ。何やってんの?」

思わずツッコミを入れたチョロ松に、あはははとアサヒは暢気な笑い声で答える。

「何してたら大人が川に落ちるんだよ。」

呆れたようなおそ松の言葉に、カラ松が慌てた様な声を出す。

「いや、実は・・・」

それを奪うようにして、

「カラ松がアサヒちゃんを落としたのよ。」

とお茶を運んできた母が事情を説明する。

「はぁ?カラ松、お前何やってんの?」
「落ちるなら一人で落ちろよ。」
「おいクソ松、アサヒに謝れ。」
「えー、兄さんアサヒを落としたの?なんで?酷くない?」
「うわ、女の子川に落とすとか最低−」

全員に責められ、思わずうぐっと言葉を飲み込んだカラ松にアサヒは相変わらず、のほほんとした調子で答える。

「私が橋の上でぼけーっとしてたからね、身投げするように見えたんだよ。」

その助け船の言葉に思わず、「す、すまない・・・」と改めて謝罪を口にすれば、

「いやいや、本当にこっちこそ紛らわしくてゴメンね。」

という優しげな答えが返る。

あっけらかんと笑っているが、端から見て身投げするように見える会社員って相当ヤバイ状態なのではないだろうか。

一同のそんな心情を代表するように、

「アサヒちゃん、お仕事大変なの?」

そんな優しい声が母、松代の口から零れた。

「あ−・・・・・私要領が悪くて、仕事に集中するとどうしても実生活の方が疎かになっちゃって・・・・仕事っていうより家事とかそっちの方がダメですね・・・」

あはははと気恥ずかしそうに笑う辺り、出来ていないことに対する後ろめたさがあるらしい。

「それって女性としてどうなの?」

呆れたようなチョロ松の言葉にアサヒは、うーんと小さい声で唸る。

「まぁ、分かってる。世の中にはちゃんと両立出来てる人もいるって。でもそういうのは私には無理と分かったから、最近は諦めて・・・・素直にお嫁さんを探す方向で頑張ってるわ。」

「・・・・・・・・・・いや、嫁とか無理でしょ。」

「ふふふ、実はいるんだな、これが。私がどんなに遅く帰っても文句も言わず、温かいご飯を提供してくれる美人さんが。」

「マジかよ、なんで女のお前に彼女が出来て俺には出来ないんだよ!?」

不服そうなおそ松の言葉に、アサヒはニヤっと口の端をあげて笑った。

「そりゃ、ニートと会社員の圧倒的なまでの収入差でしょうよ」

ご尤も過ぎるその指摘に思わず言葉を飲み込んだおそ松に、アサヒはニコニコとしたままスマフォを差し出した。

「見たい?」

「まぁ、ちょっと気にはなるよね。」

悔しげなおそ松の代わりに、チョロ松が答える。

「はい、」

差し出されたスマフォを受け取り、チョロ松が「は?」と間抜けな声をあげる。

その言葉に、興味を刺激された一同が次から次に画面をのぞき込む。

「・・・・・・・・・・・・・炊飯器じゃん。」

ぽつりと呟いたトド松に、アサヒはニッコリと笑い

「炊飯器の米子さんだよ。」と答えた。

「その圧倒的なまでのださいネーミングセンス、どうにかならなかったの?」

「え、分かりやすくない?」

「分かりやすいけども。」

「お米さえ仕込んでおけば、あとは自動的に炊いてくれるし・・・夜中帰ろうが、朝方に帰ろうが、文句も言わずご飯を出してくれる・・・・優しい。」

「そりゃ、炊飯器ってそういうモノでしょ。」

呆れたようなトド松の声に、アサヒはふっと明後日の方向を見て笑った。

「まぁ、最近はお米すら炊いていないわけだけども・・・・・」

「え、そのレベルで家事してないの?やばくない?」

「まぁ、所謂女性としてどうなのさ、ってのはこの際置いておくとして・・・・家事しなくても死なない!は根底にあるよね。お金さえ払えば、大概のことはどうにかなるし、何よりさ・・・・一人分作るのって結構面倒くさいんだよ。それならお弁当買って帰る方が楽・・みたいな。」

言いたい事は分からなくもない。

「以前、反省して自炊しようとしたんだけど・・・・結局食材ダメにしちゃうパターンが多くて・・・・やめたんだ。まぁ、朝ご飯くらいは用意するけど・・・それもパンと珈琲くらいですませちゃう事が多いから結局お米は炊かないという・・・。」

「不健康だなぁ・・・・」

そうぼやくチョロ松に、アサヒはへらへらと笑う。

「えーでも、私みたいな人は多いと思うよ〜。あとはそれこそ結婚でもして、本当の意味で嫁さん貰うしか解決法は、ないんじゃない?」

「自分が嫁に行くじゃないんだね。」

そう突っ込んだ一松に、「あぁ、そういう選択も有ったね。」

とアサヒは今気づいた様子でけたけたと笑った。

「でもとりあえず、今は仕事が可愛い恋人かなー。時々手に余るけど」

楽しげに囁かれた言葉を聞いた母の

「ニート達、今の言葉聞いた?見習いなさい。」

そんな返しがなければ、少し甘い音色を含んだ声にドキリとしたかも知れない。

ざっと6人が6人、一様に明後日の方向を向いた事に大きなため息をつきながら松代は目元を覆った。

「ホント、情けないったらないわ。」

嘆かわしそうに呟いてから、

「アサヒちゃん、もしお嫁さんの候補が誰もいなかったら、是非うちの子を。確かにうちの子はどれも馬鹿でニートだけど、基本みんな優しい子だから。必要なら家事スキルはたたき込むから。」

がしっと余所様の娘の手を握り、熱く熱弁する母にアサヒはニコニコと笑うばかりだ。

もう一押ししておこうとばかりに口を開く母を止めたのは、甲高い電話の着信音だった。

「あ、すみません。私です、ちょっと失礼・・・」

そう一言断りを入れながらアサヒが電話を取る。

「はい、天野です。え・・・・・今から?えぇ、ちょっと待って・・・・何したの?」

居間の時計を見ながらアサヒが首をひねる。

しばらく黙って、相手の話を聞いていたアサヒの口から零れたのは、

「・・・・なんでそんなことに・・・・・・手伝うのは吝かじゃないけどさ。とりあえず、準備してすぐ行くからそれまでに状況の確認とか必要なモノ準備しといて貰えたら・・・・は?あぁ、別にいいって。大丈夫、大丈夫。あははは、知らないの?電話一つ掛からない夜間の時間は作業に集中出来る神の時間なんだよ。」

なんだかとんでもない言葉が聞こえた気がするが、気のせいだろうか?

ぼんやりと人の電話を聞き取る一同の前で、アサヒは楽しげに笑ってから

「え?何心配してくれてんの?大丈夫、大丈夫。とりあえず、すぐに行くからそれまでにお茶でも飲んで落ち着いて、作業確認してして貰えると助かる。はいはーい、じゃあまた後でね〜」

状況はよく分からないが、とりあえず彼女が今から仕事をしに出勤するのは分かった。

もうすぐ20時を過ぎるというのに・・・。

「アサヒ、本当に大丈夫か?」

心配そうなカラ松の言葉に、アサヒはクスクスと笑ってから、

「あー・・・・・そうね、正直話を聞く限りだと21連勤になりそうな予感がするわ。放置している家事が怖い。」

と応える。

「21・・・・連勤・・」

ぞっとするその数字に、アサヒはのほほんと笑う。

「あ、私食事と睡眠が取れる分の連勤は割と平気なんだー。徹夜は苦手だけど。」

「お前、ホントいつか体壊すぞ。」

「そういうけど、健康診断の結果は悪くないんだよ。それじゃ、お邪魔しました。今度洋服とか返しに来るから、またね。」

ささと手早く荷物をまとめると、

「後片付けの手伝い出来なくてご免なさい。」と律儀に謝ってから颯爽と居間を出て行く。

その姿に

「これが・・・・社畜・・・。」

ぼそりと十四松が呟いた。









打ち出したデータのミスがないことを確認してから、アサヒはぐーっと猫のように大きく伸びをした。

ぎしぎしと悲鳴をあげる体が伸びた事で、奇妙な心地よさと痛みが脳に信号となって流れる。

翌日の会議で使用するデータを誤って削除した、と聞いた時はどうなることかと震えたがまぁ、なんとかなるものだ。

と翌日の夕方までしっかり仕事をしながらアサヒは暢気に笑う。

「無事終了、やぁ、一安心、一安心。」

そう誰もいない社内で一人呟いて、大きなあくびをかみ殺す。

「あー・・・・・お腹すいた。何かあったかなー・・・」

ごそごそと鞄を漁れば、放り込まれたままのチョコレートが一つ。

「ラッキー、そういえばお土産で貰ったんだった。」

楽しげに一人で呟いて封を開ける。

若干溶けて歪な形になっているが、まぁ、味に変化はないだろう。

口の中に放り込めばじんわりとした甘さが体にしみこんだ。

ゆっくりと溶けていくのを楽しみながら、早々に助けを求めてきた同僚が帰った事実を思い出す。

泣きそうな顔をしながら、デートの約束なんて語られたら「自分の失態なのだから、責任持て」とは言えなかった。

きっと楽しみにしていたのだろうし、これが原因で婚期を逃したなんて言われても責任なんて取れないし、とお人好しにも程があると怒られそうな対応をして、貴重な休日をまるまる仕事で潰したわけだ。

引き替えに放置した家事を思い出して、少しだけ頭が痛くなったがその事実に目をつぶり、

「ま、部屋が多少汚くても死にはしないし、」と親が聞いたら泣きそうな事を言い出す。

そういう事はあとから考えよう。

とりあえず当面の問題は、チョコレート一つでは残念ながらおさまらないこの空腹感だ。

お腹はすいたが、今更食事を作るのも面倒くさい。

どこかで食べて帰るかな、と脳内で考えたところで昨日の出来事を思い出す。

本当に嫁でも娶れば、家に帰る頃には温かいお風呂と美味しいご飯が出来ているんだろうか。

誰かが『お帰りなさい』と言ってくれる生活か。

「やっぱ、実家っていいよなぁ、羨ましい。」

思わずそんな言葉が零れる。

無論一人暮らしの気楽さというものは何ものにも代え難いものであるし・・・実家に戻れば、その気楽さが愛しくてたまらなくなることはたやすく予想できるのだが・・・。

「本当に嫁でも娶るかねぇ」

そう誰に言うでもなく呟けば、なんとなくそれも良いような気がしてきた。

とはいえ、わがままな恋人に振り回される毎日にそんな時間の余裕もあるはずがない。

くだらない事で脳の容量を食ったせいか、余計に空腹を訴えてきたお腹を撫でながらアサヒはもう一つあくびをして「何か、美味しい物でも食べよう」と明るい声で呟いた。






日々の残業やら、出張やらと可愛いけれど手の掛かる恋人に振り回されるうちに訪れるのが遅くなった松野家にようやく足を向けた頃には、松野家の状況は大分変わってしまったようだった。

通された居間で、お茶を頂きながらクリーニング済みの衣服と申し訳程度のお茶菓子を渡したところで、

「えっと何があったの?」

と問いかける。

ちゃぶ台に突っ伏したまま動かない友人にそう声をかければ、死にそうなうめき声が返ってくる。

何かあったことは想像できるが、何があったのか全く想像出来ない。

よほどショックを受ける出来事でもあったのだろうか、と首をひねれば居間でぺらぺらと求人誌を捲っていた三男がこちらを向いた。

「あー・・・・・・カラ松だけ、親の扶養に入れなかったから。」

「・・・・・・・・・・・・・・え、いや・・・・扶養って・・・・入れるでしょ?」

「条件的な話じゃなくて・・・・話すと長くなるから簡単に説明すると、この前うちの両親が離婚するって話しになって・・・・」

「そりゃまた随分と急な話だね」

「まぁ、それ事態はなんとか回避出来たんだけど・・・・その時に、松野家扶養家族選抜会が開かれてね・・・その結果、おそ松兄さんと、一松、トド松が母さんの、僕と十四松が父さんの扶養に入ることが決まってカラ松が溢れたんだよね。で、近々独り立ちすることになった、ってわけ。」

扶養選抜って何だ・・・・、そんな顔を一瞬してからアサヒは状況を理解したとばかりに頷く。

「ま、まぁ、カラ松。考えようによっては良い機会であると言えるし、最初は色々と不安もあるかも知れないけど仕事ってのは楽しいものだよ。」

にっこり笑って、精一杯のフォローをするアサヒだが、先日20連勤なんて宣ったアサヒに言われても何の説得力もない。

恐らくそんな一同の心中を察したのだろう、アサヒは少し声音を高くして続ける。

「そ、それにさぁ、やっぱこういうことは・・・・率先して、お兄ちゃんが見本にならないとね。さっすが松野家次男、カッコイイぞ!」

ヨイショッっと持ち上げながら笑うアサヒに、ぴくっと突っ伏したままの次男の体が動く。

「本当にそう思うか?」

半べそをかいたような顔でそう問い返した男にアサヒは大きく頷いた。

「そりゃあ勿論、私に兄弟はいないから所謂兄弟の関係性というのは想像だけど、やっぱり尊敬出来るお兄さんっていうのは良いよねぇ?ね??」

同意を求めるようにこちらに振り返ったアサヒだが、

「いや、尊敬出来るかと言われると・・・・カラ松兄さんは別に尊敬は出来ないよね。」

そんなトド松の意見を筆頭に

「クソ松に尊敬出来る部分とか・・・・あるはずがない。」

「ない、ない、全くない。」

なんて言葉が一松、チョロ松から飛び出す。

「えぇ・・・・・・」

その言葉にアサヒの口から、信じられないとばかりに小さい声が零れおちた。

「ぼくはカラ松兄さんのこと好きだよ。」

場の空気を読むように明るい十四松の声が響く。

「だよね、ほらほら十四松もこう言ってる事だし!」

無理矢理、尊敬の話題を「好き」へとすり替えたアサヒの言葉を台無しにするように

「でも、尊敬はしてないっす」

と薄情な言葉が後を追う。

若干引きつった顔をして、

「・・・・長男としてはどうよ?頼りになる次男がいるとやっぱりいいよねぇ。率先して就職してくれるなんて、凄くいい刺激に・・・・」

「アサヒ、それ本気で言ってるぅ?カラ松だよ、絶対長続きしないって!ま、でも扶養選抜から漏れた以上仕方ないじゃん?やっぱ世の中は厳しいわ」

たーははは、と声高らかに笑うおそ松にアサヒは、はぁ・・・と呆れたようにため息をついた。

応援する気ないな、こいつら・・・・そんな言葉を顔面で語り、アサヒはカラ松に向き直ると話題を大きく変える。

「あ、でもでも無職から社会人にランクアップしたら『可愛い彼女』も出来るかも知れないよ?楽しみだね!」

「カラ松に彼女?それこそ無理無理!こいつのイタさ知ってるでしょ?!」

ケタケタと笑う長男に、アサヒは

「なんでそう、人のやる気を削ぐことを言うかな、キミは!!」

と嘆くように答える。

「いや、だってアサヒが無理なことばっかり言うんだもん。」

「そんなことないって、よぉく思い出してみて!学生時代は、それなりにモテて・・・・モテ・・・・うぅん・・・・」

「そこで黙るなアサヒ!!余計に傷つく!!」

目元を覆い黙り込んだ、唯一の味方の陥落に、カラ松が叫ぶ。

「ま、まぁ、何はともあれ・・・・案ずるより産むが易しって言うじゃない?仕事の愚痴ならいくらでも聞くから、ね?」

「いや・・・・アサヒ、多分カラ松は仕事の心配しているわけじゃないと思う。」

チョロ松の言葉にアサヒはきょとんとした顔をして首を傾げた。

「え?」

「コイツの場合、フツーに働きたくなくて悩んでいるんだと思うんだけど・・・・」

「あ、そっち・・・・」

あっけにとられたようなアサヒに言葉に、話題の主であるカラ松が高らかに声を上げた。

「なぁ、アサヒ、オレを養う気は無いか?!」

がしっとアサヒの両手を握り叫ばれた言葉に、アサヒはうーんと何かを考えるように視線を動かした。

「クソ松、何人様に迷惑かけようとしてんだテメェ!」

鋭い一松の指摘を皮切りに、呆れたような兄弟から叱責が飛ぶ。

「何、気安くアサヒの手を握ってんの?っていうか、どの面下げて養ってって今言ったの?信じらんない!」

「おい、クソ松、諦めてとっとと就職しろ、このバカ」

「さすがにそれはどうかと、お兄ちゃん思うわ」

「兄さん、それはアカンやつ・・・」

遠慮の無い物言いに「そ、そこまで言わなくても・・・」と次男が怯んだところで、アサヒが声を出した。

「んー・・・・と、それがご両親のように養ってくれって意味ならまぁ、普通に無理だよね。」

アサヒの言葉に、ほらな、とばかりに冷たい視線がカラ松に刺さる。

「でも、それが専業主夫として家のこと全部するから養ってくれって意味なら、別にいいよ?」

「本当か?!」

「え、まじで?!アサヒそれ本気で言ってる?」

おそ松の確認に、アサヒは本気なんだか、冗談なんだか分からない顔をして頷く。

「いや、丁度嫁を娶ろうかと真剣に検討していたところだったし・・・・人並みに家事が出来るなら私は別に構わないけど?」

アサヒの言葉に、一番に反応したのは母の松代だった。

スパーンっとあっけにとられる息子達をはね飛ばし、がしっとアサヒの両手を握る。

「アサヒちゃん、親の欲目もあるかも知れないけど・・・・カラ松は、ニート達の中では一番、家の事をしてくれるから家事については心配しなくても大丈夫よ!必要があれば、私がたたき込むから!!」

「まぁ、一番してるというより・・・・一番押しつけられている、だけどね。」

そう指摘したチョロ松の顔面に一発入れて、松代は改めてアサヒに向き直る。

「力もあるし、まぁ、ニートで童貞だけど・・・・良い子で優しいし・・・、こんなだけど自慢の息子だから!!是非是非、アサヒちゃんさえ良ければうちの子を嫁に!!いや婿に!!!」

そう熱く語る母の目に「孫」の文字が浮かんで見えるのは気のせいだろうか・・・。

そんな言葉を、息子たちは飲み込んだ。

そんな母の眼差しには気づいて無さそうなアサヒが、カラ松に向き直る。

「・・・・・・取り合えずお試しって事で、しばらくうちで生活してみる?」

「自分で言って何だが・・・・本当にいいのか?」

あまりにとんとん拍子に話が進んだ事で、怖じ気づいたようにカラ松が答える。

「んー・・・・まぁ、とりあえず試用期間ってことで。こっちが良くても、カラ松が嫌だって思うかも知れないし・・・、何にせよこれもいい機会なんじゃないの?」

「オレは願ったり叶ったりというか、有り難いの一言なんだが・・・・・、というか、これってつまり・・・・」

状況を認識するにつれ、思わず顔が赤くなる。

そんなこちらの心情を知ってか、知らずか・・・・アサヒは暢気に笑った。

「本契約の際は、左手の薬指に永遠を誓うリングを贈ってもいいわ」

プロポーズにも聞こえるその言葉に、思わず熱が上がる。

丁度良くなった電話のベルがなければ、倒れ込んでいたかも知れない。

「もしもし、天野で・・・・・あぁ、その件なら手伝えると思うよ。・・・・ちょっと待ってすぐ会社に戻る。」

仕事の電話を切るなり、アサヒは素早く片手をあげて荷物を取る。

「じゃあ、そういうことで。私は仕事に行ってきます。」

「お前、退社してきたばかりじゃないか。」

そんなカラ松の言葉に、アサヒは楽しげに笑った。

「恋人の呼び出しにはすぐに応じるのがマナーでしょ。じゃあ、詳細についてはまた後日。お邪魔しました。」

颯爽と去って行くアサヒの姿が見えなくなってから、母・松代は呟いた。

「カラ松、頑張りなさい。アンタが一番、孫に近いわ!」

「永遠のリングを贈られても、永久の恋人に勝てそうにないんだが・・・・」

「それはそれ、これはこれよ。早速花嫁修行に入るわよ、まずは胃袋を掴むのが先決ね!」

嬉々とした母の声を聞きながら、はたと気づく。

「・・・・・・・・・というか、男としてリングを贈られるのはどうなんだ・・・・?」

「この際男としてのプライドなんて捨てなさい、あんたのプライドなんて何の価値もないわ。」

どこまでも、母の言葉は厳しかった。






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最近、今更のようにおそ松さんにはまりまして・・・・・

書いてみたいな〜で書いてみました。

楽しかったです。

アサヒさん、お付き合いありがとうございました。




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