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夢小説(その他)
マスターと俺達(ボカロ)




俺のマスターには愛想というものがない。
というか表情がない。
初対面でマスターの表情を見たらほとんど人が、機嫌でも損ねてしまっただろうかと思うだろう。
マスターは顔は無表情で固められている。
それでも長く一緒にいれば・・・その微妙な感情を読み取ることが出来るようになるのだ。
それは長い時間を共にした俺だけの特権であったはずなのに。






「こんにちは、今日からお世話になる初音ミクです、よろしくお願いしまーす」

最初の訪問は緑色のツインテールの女の子。

鞄を一つ握り締めて彼女はそう呟いた。

マスターは少女の顔を見て・・・・かすかに眉を寄せ、「馬鹿兄貴が・・・死んでしまえ」と呟いた。

マスターのお兄さんは・・・マスターによく似た顔をしている。

マスターが男の人だったら、こんな顔になるだろうなぁとイメージした顔といっても過言じゃない。

唯一違うのは、マスターと違ってお兄さんはころころ表情が変わる。

表情と同じでココロも同じようにころころ変わる。

要するに・・・・熱しやすく冷めやすい・・・飽きっぽい性格なのだ。

そのくせ、その後始末を全部マスターに押し付けるから性質が悪い。

この部屋の所有物の大半はお兄さんがマスターに押し付けたものだ。

勿論、俺も含めて。

俺があの部屋を追い出された日に連れてこれた彼女がここにやってくるということは・・・間違いなく新しいモノに興味が移ったからだろう。

マスターは少しだけ考えるような仕草を見せてから、細く息を吐き出すと・・・すくっと立ち上がった。

挨拶を交わしたばかりの妹はきょとんとした顔のままマスターと俺の顔を交互に見て、首をかしげる。

マスターはそんな少女には何も言わず・・・俺のほうを一度ちらっと見ると奥の部屋へと消えていった。

ほんの少しの静寂の後、こくりと・・・妹がカップの中身を飲む音が響いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・私・・・・歓迎されてないですか?」

不安そうな声。

その言葉に、思わず浮かんでしまったのは・・・・優越感だった。

不謹慎だとは思う。

不安に感じている妹に対して浮かんだ感情がこんなものだなんて。

それでも嬉しかった。

自分には分かったからだ。

マスターが抱いた感情が。

「いや、そんなことないよ。」一言、そう否定をする。

「で、でもっ・・・」

今にもじわりと涙を浮かべそうな妹に・・・にっこりと俺は微笑んだ。

「マスターはちょっと感情表現が苦手なだけで、優しい人だよ。」

俺の言葉に妹は不安そうにうつむいた。






「マスターお帰りなさい!」

俺が一番最初に言おうとした言葉を、横から妹が掻っ攫う。

「ただいま・・・・」

ぼそりとマスターが聞き返したくなるくらい小さい声で答える。

あぁ・・・この挨拶は貴重なマスターとの会話だったのに、と妹を恨みたくなった。

「お帰りなさい」

遅れてしまった俺の言葉にマスターはこくりと頷いた。

さて、何を話そう・・と俺が頭をめぐらせた瞬間

「マスター、今日の夕飯は私が作ったんだよ!ほら早く手洗ってきて!」

ぐいぐいとマスターの背を押してからキッチンに走っていく妹にまた俺の言葉は邪魔されてしまった。

悪態の一つでもつきたくなるが・・・俺は一応お兄ちゃんだし・・・とその言葉は飲み込む。





「ねぇ、マスター、美味しい?」

「・・・・・・・・・・・・」

黙々と箸を勧めるマスターは、その言葉にぴたりと箸を止めて

「あぁ」

と短く呟いた。

「本当?!今日はちょっと味付け変えてみたんだー!ねぇ、どれが美味しい?」

「・・・・・・・・全部、美味しいよ」

ぼそっとマスターが答える。

あぁ・・・畜生。何だか自分だけ置いていかれたような気分になる。

この妹が来てからというもの・・・俺の調子は狂いっぱなしだ。

人のマスターを横取りしやがって・・・とすら思う。

無意識に箸に力を入れれば、マスターが俺の顔を見て

「・・・折るなよ」と釘を刺した。

その目は明らかに、「カイト、お前この前も箸を折っただろう」と言っていた。

多分名前は呼ばれてないだろうけど・・・いいんだ。俺のイメージだから。

あぁ・・・それにしても、最近俺とマスターの会話はこんなのばかりだ。

確かに以前だってそんなに会話が多かったわけじゃない。

でもこんなに会話を邪魔されたことはない。

当たり前だ、以前は二人きりだったのだから。

実に面白くない。そう思っていた。







「はじめまして、今度からお世話になるメイコです。二人とも仲良くしてねv」

にこっと笑った女性の言葉に、俺の顔は引きつった。

妹は露骨に嫌な顔をする。

「何よ二人ともその顔は。」

むすーっと不機嫌そうに眉を寄せる姉、メイコにマスターは・・・静かに目を閉じた。

ぼそりとその口元が動く

「馬鹿兄貴め、地獄に落ちろ・・・」

日頃感情が乏しいマスターが素直に感情を表すのは・・・こんな時だけだ。

ぱたぱたと部屋の掃除が始まる。

最近は住人が増えたせいで・・・一番奥の部屋はダンボールが積み上げられ・・・酷い有様になっている。

「マスター・・・・・これ、あの人に着払いか何かで送りつけちゃいましょうよ。」

思わず俺がそういえば、マスターは

「・・・・・・・・・・・・多分着払いで送り返してくるぞ。」と静かな声で呟いた。

こんな会話に、よしっ、今日は二人きりで話せた!なんて喜ぶ俺は・・・なんて悲しい生き物なんだろう。





「はじめまして、巡音ルカです。」

短い挨拶と共に現れた妹に思わず俺は不機嫌そうな顔をした。

妹は、ぎろりと低い位置からその少女を睨みつけ・・・姉は見下ろす。

多分全員の感情は一緒だろう。

ここにいるとそうなる。

誰にも、大事なマスターを譲りたくなくなる。

自分だけのものにしたくてたまらなくなる。

それは決して・・・前のマスターが最悪だったからじゃない。

ここは・・・凄く居心地がいいのだ。

マスターの紡ぐ緩やかなリズムが・・・自身の体に溶けていき・・・一つの音楽になっていくのが分かるのだ。

でもみんな分かっている。

自分だけのものに、なんてことが出来ないということが。

だから・・・・ぎらぎらした敵意を新参者に向けながら・・・ぎゅっと自身の指を噛み言葉に出来ない音を飲み込むのだ。

マスターは新たな少女の登場に「・・・・馬鹿兄貴が・・・呪われろ」と呟いた。





「はじめまして、鏡音リンです、こっちは弟の・・・「レンです。」

「「よろしくお願いしまーす!」」

元気いっぱいの少女と少年の声に俺は思わず舌打ちを漏らして、妹二人は「あらあら・・・可愛い妹と弟が出来たわぁ」」とココロにも思ってなさおうな声で呟いて姉はずずっとワンカップを煽る。

マスターは一言「馬鹿兄貴め・・・くたばれ」と呟く。

一気に人数の多くなったこの家。

部屋には正直限界というものがある。

マスターは無表情のまま・・・部屋の荷物を片付けだした。

「ここを使え」

マスターが新たにやって来た双子に提示したのは自分が使っていた部屋だった。

「えぇっ!マスターはどうするんですか?!」

俺の言葉に

「大丈夫だ」

大丈夫って言ったって物事には限界ってものがある。

ダンボールが山になっている奥の部屋はもう使用できないのと同じだ。

「マスター、ミクと一緒の部屋に「私の部屋でもいいですよ。」」

真っ先に主張したミクにルカが言葉を重ねる。

バチバチと火花を散らす二人の少女を横目で見ながら、メイコはさりげなく自分の意見を主張する。

こんな時、同性であると便利だと思う。

さすがに同じ主張は俺には出来ない。

したら、無言で殴られるだろう。

変なレッテルまで貼られてしまうかも知れない。

「いや、心配するな」

一言それで会話を終了させるとマスターは非常に少ない荷物を持って歩き出した。

ピタリとマスターの足が止まったのは、俗に言うサービスルーム。

窓もない、二畳のほどの広さの部屋だ。

一般的には物置として利用されることが多いだろう。

「ま、マスター・・・ここはさすがに・・・」

「人間、起きて半畳、寝て一畳・・」

ぼそりとそれだけ呟くとそそくさと荷物を入れてしまう。

小さな部屋はマスターの少ない荷物ですぐにいっぱいになってしまった。












一気ににぎやかになった部屋。

そこにいながらも、居場所がないような・・・なんとも言えない切なさを覚えるのは何故だろう。

ここの空気はにぎやかで、暖かくてでも寂しい。

涙が零れそうなくらい・・・酷く、酷く・・・苦しいんだ。

「マスター!!!」

ドスッと鈍い音を立て抱きつくというよりは衝突してきた少女に、マスターの体がガクンと傾いた。

ずるりとその足が床から離れ、鈍い音と共にその体が床に打ち付けられる。

「・・・・・リン、痛いからやめろ」

倒れたままのマスターからの忠告に、「だって、マスター遊んでくれないんだもん。」とぷくーっと頬を膨らませた少女の反応が返る。

「・・・・・・・・・・・・」

無言のマスターの表情に臆することなく、ちょこんとマスターのお腹の上を陣取って「遊んでー!!!」とせがむその姿に、ふーっと俺達のため息が重なった。

同時に目配せをして、もう一度息を吐き出す。

多分そのため息の理由は同じだ。

あぁ・・・こんなにも大人の体が恨めしいだなんて思ったことはなかった。

子供のようにマスターにせがんで、構ってくれと声を大にしていえたらどれだけいいだろう。

今の状況が不服なのか、と言われたら「いいえ」と答える。

相変わらずマスターは無愛想で、表情なんてものはない。

だけど何時だって傍にいてくれて、まるでこちらの欲しいものを見ているように無言で手を差し出してくれる。

そのあなたの優しさに不服なんて覚えるはずもない。

今の状況が不満なのか、と言われたら「はい」と答える。

もっと欲しい。もっともっと、欲しい。

差し出される手だけじゃ足りない。

与えられるものだけじゃ・・・ほんの少しも満たされない。

全部欲しい。他の誰かのものを奪ってでも、自分ひとりが満たされたい。

そんな感情が一つのため息に詰め込まれている気がする。

みんな同じだ。

みんなみんな、考えていることは同じなんだ。

マスターは無表情のまま、「わかったから・・・どいてくれ。」と呟いた。






「マスターと二人っきりで遊びたかったのに。」

不満そうなリンの声に「抜け駆け禁止」とレンの小さな声が届く。

シャッシャッっとトランプを切る静かな音が響く。

淡い色のついたカードが丁寧な仕草で配られるのを見ながら、みんなの不満がぽつぽつ零れる。

キッチンにいるマスターに聞こえないように、囁くように。

別に聞かれたくないわけじゃない。

ただ、それを伝えたらきっとマスターは・・・相変わらずの無表情にしか見えない顔に申し訳なさそうな表情を浮かべて、

「そうか・・・」って小さく呟くと思うから・・・。

そんな顔、誰だってさせたいわけじゃないんだ。

だから、聞こえないようにひっそりと・・・。

この機械仕掛けの胸に宿った思いを言葉に乗せるのだ。

俺がトランプを配り終えたのと、マスターが人数分のグラスを持って戻ってきたのは同じだったと思う。

無言のまま一色ずつ色の違う同じデザインのグラスを配る。

カランっと氷がグラスに当たって音を立てた。

一色ずつ違う色。

それは中身が違うから。

あぁ・・・・これだから。

あなたが好きでたまらないんだ。

独占したくて、仕方ないんだ。











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あぁ・・・・もうなんか、あれだ。

久しぶりに書いたら、自分でもわけが分からなくなった。

アサヒさん、お付き合いありがとうございました。









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