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夢小説(その他)
あなたに似合う顔のハナシ(ZONE-00 叢雲)
※主人公が死体の上に似非中国風に話します。苦手な方は観覧注意


大熊猫(パンダ)飯店

ひっそりと通りの片隅で営業するその店は、異色極まりない店主と様々な問題を抱える看板息子が有名な中華料理店である。

「五目そばお待ちね」

たんっと席で待つ男性客の前に料理を差し出した彼女がこの店の店主 アサヒ。

昔大ブームを起こした映画のキャラクターさながらの衣装と血の気のない青白い肌がチャームポイントの彼女は所謂キョンシーという存在だ。

キョンシーになって○百年と豪語するアサヒは、普通の人間と遜色ない。

映画や物語で語られるキョンシーのように日光を避ける事もなく、硬直した体故に両手を伸ばし飛び跳ねて移動するキョンシー特有の動きもない。

申し訳程度にペタリと帽子の縁に貼られたお札は、ない日の方が圧倒的に多いと専らの噂である。

そんなキョンシーらしからぬアサヒが経営する大熊猫飯店の看板息子がコレ、サクヤ

愛らしい黒と白の模様にふくふくとした毛並み。

まん丸の瞳がキュートなそれは小型犬サイズだが、間違いなく動物園の花形だ。

小さな鞠と戯れるサクヤを持ち上げて叢雲は呟いた。

「アサヒ、お前こいつどこから連れてきた?」

「それ、パンダ違うある。ぬいぐるみね」

いけしゃあしゃあと発言したアサヒの回答に叢雲の額に青筋が浮かんだ。

「ほう、イイ度胸だ。」

「叢雲サンに誉めて頂けて光栄ある」

ひょいっと叢雲の手からサクヤを取り上げアサヒは笑う。

「後ろにファスナーついてるね、電池で動くよ」

「んなもん、なかっただろうが!」

吠えた叢雲にアサヒはとんでもない事を聞いたとばかりに目を丸くして

「叢雲サン、サクヤのファスナー見えないか?コレ心の綺麗な人にしか見えないね」

と呟いたあと、嘆かわしそうに首を振る。

この野郎…………

そんな言葉を飲み込んだ叢雲にアサヒはにんまりと笑う。

「気にする事ないね、叢雲サンが良い人だとワタシはよく知ってるある」

トンっと自身の胸元を叩いた少女に思わず言葉を失う。

生前のアサヒなど知るよしもないが、おそらくこんな風に大勢の人間が悪意のない言葉に騙されたに違いない。

そう思い至り、深い深い溜め息をつけばアサヒはちょこんと叢雲の真向かいの席に座る。

時計を見れば、お昼休みを少し過ぎた時刻。

あれほど騒がしかった店内にはすでに客の影すらない。

改めて狭い店内に2人きりなのだと認識すれば妙に気恥ずかしい気持ちになる。

目の前に座るアサヒにそう伝えたなら

『サクヤもいるから三人ね!』

と頬を膨らませ抗議するに違いない。

その様がありありと想像出来て思わず叢雲は吹き出した。

そんな叢雲に間髪入れず

「人の顔見て笑う失礼よ」

とアサヒが呟く。

生きている者と何一つ変わらない。

冗談を言い、笑い、怒り、涙だって流す………。

にもかかわらず、その体には脈打つ鼓動も、熱い血の一滴さえもありはしない。

すでに死者の列に加わった冷たい躯。

どんな気分なのだろう。

人として生まれ、人として死にゆくはずの己が、『人(ひと)』でも『魔物(もののけ)』でもなくなってしまう事は………どれほど苦痛に満ちたものなのだろう。

「意外とワタシは満足してるある」

ポツリと呟いたアサヒの言葉が自分への回答だと理解するまでに少し時間がかかった。

もしやと思い慌てて口を塞げば、目の前の少女はケタケタと笑う。

「図星だったか?ワタシ、死者になって長いね。生者の考えなんてお見通しある」

ふふんと自慢げに答えるアサヒの顔には何の苦痛も浮かんでいない。

「人生楽しくがモットーよ。嘆いていたら目玉が溶けるね!幸いにも二度目の生があったある。楽しまなきゃ損というものね」

ぴしりと細い指先を叢雲に突きつけアサヒは笑う。

「今更、墓の下に戻るなんてお断りよ。意外にキョンシーは楽あるぞ、テストも勉強もないね」

ヒヒッと意地悪く笑うアサヒだが、それは学生に言わなければ意味がない。

呆れたような顔をする叢雲にアサヒは満足そうに頷いた。

「叢雲サンは、その顔の方が似合うね!無駄に悩む、よろしくない」

うんうんと自分の言葉に聞きほれるアサヒだが、普通は笑顔の相手にかける言葉だ。

「……………って事は何か?俺は笑顔より、呆れ顔の方が似合うってか?」

口の端をあげて笑えば

「叢雲サン、笑うと悪代官のようよ」

と失礼極まりない回答が帰ってくる。

引きつりそうになる顔を必死に笑顔のままキープすれば

「ジョーダンね!でも本音のハナシ、叢雲サンはヤタガラスの次男坊に振り回される姿が似合ってるよ、頼りになる男は大変あるなぁ」

口元を幅の広い袖口で覆いアサヒはクスクスと笑う。

「尤も頼りになる男たる叢雲サンが、幼い隠し子を孕ませて刺された聞いた時は、ワタシもちょっと今後の付き合いを考えたある」

「……………は?」

突然の………しかも予想もしていなかアサヒの言葉に叢雲の脳内が凍る。

「それで、認知はしたあるか??いい加減、男なら腹括るね」

「おい、ちょっと待て…………。なんだその、畜生にも劣る話は?!」

「自覚あったか?魔物とはいえ、自制は必要よ」

アサヒの真摯な眼差しが叢雲を射抜く。

そこには、一点の曇りもなく穏やかな水面なようにも見えた。

吸い込まれそうな瞳というのは、こういうものに違いない。

見つめているうちにしてもいない事柄さえ「私がやりました。」と口にしてしまいそうだ。

世迷い事だと首を振り叢雲はアサヒを見つめ返す。

静かに瞳がかち合う短い時間、先に口を開いたのはアサヒだった。

「…………心配しなくてもワタシは叢雲サンがそんな事するなんて思ってないある。」

くくっと喉を鳴らすアサヒの表情からからかわれた事を悟り叢雲はあからさま眉をひそめた。

軽く肩を竦めとりなすようにアサヒは続けた。

「ただ、そういうハナシが出回っているのは事実ね!気をつけるよろし、人の口に戸はたてられない。」

心配そうなアサヒの言葉に軽く頷き叢雲はゆっくりと息を吐いた。

掴みどころのないアサヒは雲みたいだ。

ふわふわと形を変えこちらの興味を引いては薄れ、消えてゆく。

女心というものは、あまりに移ろいやすくて男には到底理解出来ないのだと誰かが言った言葉を思い出した。

「でもちょっと羨ましい話ね。」

ぽつりと呟かれた言葉が悲哀の色を浮かべる。

曖昧に、そして切なそうな笑みを浮かべてからアサヒはゆっくり息を吐いた。

「ワタシ、子供産む事なく死んだある。兄弟もいないからワタシの一族は絶えてしまったね。」

アサヒの口から漏れた言葉は、あまりに似合わなくてつい

「お前も子供が欲しいとか思うのか?」

と口にしてしまった。

「子連れのお客サン見るとちょっと考えるね。ワタシはサクヤを我が子と思ってるけど、血の繋がりは無論ないね。ワタシと繋がりを持つ者はいないある。それが時々寂しくなるよ。」

力なく笑うアサヒに言葉を失えば慌てたようにアサヒは明るい声を出した。

「時々よ。叢雲サン、頭悩ます似合わないね!」

遠まわしに馬鹿にされ、叢雲はますます眉間の皺を増やす。

そんな叢雲にアサヒは

「叢雲サン、ホント良い人ね。ワタシの言葉に悩んでくれる。だからキョンシーはやめられないよ。」

「は?」

と間抜けな声を出した叢雲に

「死にようがないから何時までも一緒にいれるある。」

ニィと口のはしをあげアサヒは答えた。

頭を抱えながら

お前が子を成す事なくキョンシーになって良かったよ。好いた女のガキを見るなんざゴメンだと伝える上手い言葉を探す。

死者と生者って結婚出来んのか?

そんな疑問にますます皺を増やせば

「叢雲サン、知恵熱出るよ。無理する、よくないね」

なんて呑気な回答が返ってくるからますます眉間に皺がよる。

俺を振り回してるのは、問題ばかりの次男坊ではなくお前だと伝える言葉を飲み込み叢雲は眉間に皺を寄せたまま深い深いため息をこぼすのだった。


―――――――――


初、女郎蜘蛛以外の主人公。で、よりによってキョンシー(死体)という鴉のセンスの悪さに乾杯+キラリ

甘々というよりほのぼの?夢
当サイトの叢雲サンは悲恋率高いので珍しい感じですね………最初は志萬クンで書いてたハズなのになぜ叢雲サンになったんだろ(我ながら謎)

匿名さん、アンケート参加ありがとうございました。

アサヒさんお付き合いありがとうございました。

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あきゅろす。
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