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夢小説(その他)
直径30mmの恋人(ZONE-00 白狐)

「ただいま〜…」

ほんの少し疲れを滲ませたキミの声に耳をすませる。

ほんの少し何時もと違うアサヒの声に心臓がドキリとなった。




「アサヒクン、何があったの?」

アサヒが言うには何もかも見透かしそうな瞳を向ければアサヒは困ったように眉をよせた。

「いや〜…子供って生き物は手加減ないね。」

からからと笑うアサヒは泥で真っ黒で、おまけに彼女の利き腕は、奇妙な位置でなくなっていた。

まるで、荷物を運ぶような自然さで彼女は途中からぷつりと切れた利き腕を握っている。

「あ、糸で繋ぐから大丈夫」

真っ青な顔をしている僕に、何てことないと笑うキミは酷く残酷だ。

そんな風に笑われたら、僕はキミになんと言えばよいのだろう。




「今日、公園でお昼寝してたらね…小学生くらいかなぁ、男の子が来たのさ。」

自身の糸で切れた利き腕を繋ぐアサヒの話を僕は黙って聞く。

「遊ばれてるうちに腕取れちゃって…なくならなくて良かったよ。」

ぷつりと糸を噛み切り、アサヒは繋がった腕を動かした。

「む、ちょっとぎこちないかも…」

そんな言葉を呟きながら、アサヒは自身の腕を見つめた。




「また、取れた。」

お風呂から上がったアサヒの第一声はこれだった。

繋いだ場所から綺麗に千切れた腕をアサヒは再度繋ぐ。

「動かさない方がいいよ。」

僕の言葉にアサヒは頷き、繋ぎ直した腕を見つめた。

「………………そうする。」

長い沈黙の後にそう同意したアサヒは慣れない手つきで箸を掴む。

まるで初めて箸を握ったようなぎこちなさで料理を口に運ぶアサヒに笑えば、不謹慎だとばかりに鋭い瞳がこちらを睨む。

「そんな顔しないの。」

そう答えながら、箸で挟んだおかずを彼女に差し出す。

実に複雑そうな顔をして、観念したようにアサヒは口を開いた。

小さな口にひょいとおかずを投げ込めばアサヒはムグムグと口を動かす。

「美味しい?」

「美味しい」

「良かった。」

「…………お母さんってこんな感じなのかな?」

ポツリと呟いた言葉に思わずため息がこぼれたのは、僕らは所謂恋人ってやつだからだ。

「アサヒクン、せめてお父さん…いや、それも微妙だけど…」

と眉を寄せれば、申し訳なさそうにアサヒは笑う。

あぁ、もう。

キミがそんな顔で笑うから僕は言うべき言葉を忘れてしまうんだ。





翌日、帰ってきたキミはずるずると左足を引きずって帰ってきた。

「子供は元気が一番だよ。」

そう笑う彼女に腹が立つ。

魔物である彼女は人よりずっと回復が早い生き物だけど、痛みは感じるのだ。

「ねぇ、アサヒクン。何でそうなるって分かっていて子供の相手なんかするのさ。」

誰の手も届かない高い高い場所に巣を張ってくれれば、僕はこんな不安を感じる事はない。

「…………ん、勉強だからだよ。命の尊さを知る為には、生き物を傷つける事も必要だからね。」

プチリと切れた糸

動かさないのは、キミが昨日の失敗から学んだから。

「だからって…」

「幸いな事にあたしは魔物だから、そう簡単には死なないし〜…」

あっけらかんとした物言いに怒鳴りたくなるのは、それだけ彼女を強く強く想うから。

それに気づかないハズはないのに、彼女は平気な顔をして僕を傷つける。

だから雨の日は好きだ。

そう朝から降り続く天の恵みに囁く。

誰もいない公園で雨を凌ぎながら仲間と話す彼女を傷つける者はいないから。

ずっとずっと降ればいい。

それで誰かが息絶えてしまうとしても、延々と降り続けばいいと…。

そう願う僕の醜い心を暴くように日はさして…翌日は、唾を吐きかけたくなるような快晴。

何一つ思うようには動かない事に腹を立てれば、いつの間にかアサヒの姿はなく…

また子供の無邪気な探求心で傷つけられる体を思えば自然と足はあの場所へ向かう。

すでに片腕を失った蜘蛛は8つ瞳で子供を見つめ、くすりと笑う。

細く幼いその指を切り落とす事など容易いハズ。

なのに彼女は自らへ与えられる苦痛を黙って受け止めるのだ。

彼らは忘れてしまうのに。

優しい君が己が身体を傷つけてまで教えた命の尊さを。

人間なんて、キミが救う価値もない。

キミが教えた事も忘れて食いもしないのに殺し合う、馬鹿な生き物に何を説く?

彼女を傷つける悪意なき加害者の指先を軽く払い僕は彼女へ手を伸ばした。

何時ものように戸惑って、小さな小さな恋人は僕の指先にひょいと乗る。

「虫を虐めちゃダメだよ。」

そう子供に伝えた僕は間違いなくお人好しだ。

地面に落ちた小さな彼女のピースを拾い、家へと足を向けたなら小さな恋人が笑った気がした。

アサヒの怪我は治り、また彼女は公園へ行く。

今度は僕の隣を歩きながら。

見覚えのある小さな背中。

真剣な眼差しで見つめた先の生き物に少年は笑い横から伸びた幼い手を叩く。

「いじめたらダメ!」

その言葉を聞いたキミが嬉しそうに笑うから僕は嬉しくて笑うんだ。

キミの教えが小さな彼に届いた事が嬉しくて、優しい恋人を持った自分が幸せだと笑うんだ。

雨の日は好きだ。

キミを傷つける者がいないから。

晴れの日が好きだ。

キミが幸せそうに笑うから。



―――――――――


鴉は小さい頃、よく虫と遊んでいました。田舎育ちなんで。
蜘蛛を捕まえてみたり、トンボを捕まえたり。蝶を捕まえて、蜘蛛の巣に設置したり…(残酷)
今は勿論しませんし、小さい頃のトラウマ(笑)からか虫全般苦手になりましたが…あんな体験も必要だと思ってます。
と真面目に語ったところで

茶々さんリクエストありがとうございました。

アサヒさんお付き合いありがとうございました。

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あきゅろす。
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