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裏夢
フラグが立ちました(NHKへようこそ 山崎)




「山崎の部屋ってさぁ…何と言うか凄いね。」

部屋中に並んだ大量のフィギュアとゲーム、そして壁のクロスを隠す勢いで張られた美少女アニメのポスター…。

狭い室内にところせましと並べられた彼の言葉を借りるならお宝の数々へ視線を向けアサヒは呟く。

「本もたくさんあるんだね…。」

カラフルな背表紙を見ながら呟けば、キッチンでお茶の準備をする青年が答えた。

「あんまり触らないで下さいよ。」

という家主の発言には耳を貸さず、アサヒは本棚の中から一冊の本を引き抜く。

愛らしい感じの女の子のイラストが表紙を飾っている本をパラパラとめくれば、それに気づいた山崎が声を荒げた。

「ちょっ、やめて下さいよッ!」

「心配しなくても汚したりしないよ。漫画好きだし…………エロ本か。」

本の中盤あたりには、あられもない格好の少女が描かれていた。

「山崎ぃ、もしかしてここにある漫画って全部エロ本?」

ぺらりと本を開いて見せれば山崎の白い顔が赤く染まった。

「『あっ…イヤっ…優しくして…ぷぷっ……』」

クスクスと笑い出したアサヒに山崎は目をつり上げる。

「人の家でエロ漫画音読って何の嫌がらせですか?!もう帰って下さいよ!」

「遊びに来いって言ったの山崎じゃん。」

「遊びに来いとは言ったけどそんな事誰も頼んでませんよ!」

「『山崎くんッ!お願いやめてッ…』」

「だからやめろって!」

山崎の男にしては高い気弱な声が部屋に響く。

「返せよッ」

座っているせいで余計に縮まった距離。

ぐいっと体を反らし本を遠ざければ、幼い子供のように彼の手が本へと伸びる。

「返せッ」「『イヤっ…乱暴しないでッ』」「お前ふざけんな!」

泣きそうにも見える山崎の顔が可愛くて、ついつい悪ふざけが過ぎてしまった。

山崎にのし掛かられゴチンと後頭部を床に打ちつけたのと、彼が本に手を伸ばしたのはほぼ同時で…隣の住人が迷惑な声に怒鳴り込んできたのは、そんな最悪のタイミングだった。

「山崎ぃ、テメェさっきからドタバタと…うるせぇんだ、よ…!」

怒鳴りつけるような声が徐々に小さくなり…やがて静かになった。

逆さまの視界の中でバツの悪そうな顔をした青年と視線があう。

多分、彼の視界には若い男女がある種の行為を始める瞬間に見えたかも知れない。

完全に言葉を失っている

「あ、さ…佐藤さん、こ、これは違うんです。」

慌てたような山崎の声

ここで泣き出せば山崎はどんな顔をするかと考えて自分の悪趣味な考えを自嘲した。

「いや、あは…あははははっ。お、お楽しみのところわ、悪かったな。」

視線を泳がせ佐藤と呼ばれた男は上擦った声で呟く。

「そ、それじゃあ…」

引きつった顔のまま固まっている山崎を置いて佐藤さんとやらは、パタリと扉をしめる。

数十秒間の沈黙の後

『ふざけんなよ!なんだ、あのエロゲみたいな展開ッ!山崎のくせに、山崎のくせにィ!』

そんな怒声が壁越しに響きアサヒは思わず罰の悪そうな顔をする。

「アサヒさん、もう帰って下さい。」

「いや、調子に乗りすぎたごめん。きちんと誤解をときに「話がややこしくなるので大人しく帰って下さいッ!」

山崎はそうと隣の部屋へと走っていく。

『違うんですよ、佐藤さん。アサヒさんは僕の学校の友達で…』

山崎が事情を説明する声と問い詰める佐藤さんの声が壁越しに響く。

「山崎のバカ、鈍感、エロオタ野郎、死んでしまえ!」

ボスっとベッドに座り勝手に人の枕を壁に投げつける。

ぽてんと大したダメージもなく落ちた枕を拾い上げアサヒは呻く。

「我ながら、本ッ当…可愛くないな…。」

枕を拾い上げ、壁際に腰掛ければ隣の部屋の音が響く。

『……そういえば、お前が貸してくれたこのゲーム、どうなってんだよ!この子、攻略しようと思ってたのに途中から出てこなくなっちまって!』

『クリムちゃんは、エクレアちゃんとクレープちゃんの好感度が高すぎても低すぎてもいけないんですよ!』

『はぁ?!意味わかんねぇ!』

『だからクリムちゃんをいきなり攻略するなんて無理だと…』


「男2人でエロゲ談議かよ…バッカみたい…」

あいつが馬鹿なら、そんなあいつに好意を抱く自分は大馬鹿だ。

膝を抱えたまま、アサヒは小さなため息をつく。

本当に馬鹿だ、と。





「あ〜…もう、アサヒさんのせいで酷い目に、」

ぶつぶつと呟きながら部屋に戻った山崎の目に飛び込んできたのは、部屋のすみでうずくまった人影。

てっきり帰っていると思っていた少女は猫のように体を丸めすやすやと寝息をたてている。

時計をみればゆうに2時間は経過していて、山崎は確認するようにまばたきを繰り返した。

寒いのかアサヒは無意識に縮こまる。

その際、少し捲れたスカートからすらりと伸びた足が顔を出した。

目の毒だとばかりに山崎はアサヒの体にバサリと毛布をかける。

「人の家で爆睡とか有り得ないだろ…」

そう呟いてもすでに夢の住人であるアサヒには欠片も届いていないだろう。

「………そんな事よりゲーム製作!佐藤さんがいつまでたってもシナリオあげないから先に進まないんだよなー…」

そんな言葉を呟きながら、山崎は愛用のパソコンの前に座る。

「僕ができる事はしたし…キャラでも考えようかな、えっと…」

スケッチブックに鉛筆を走らせながら山崎は呟いた。

「設定は、ありきたりだけど同級生で…」

鉛筆が紙を滑る音が響く。

呪文のようにキャラ設定を呟きながら山崎は鉛筆を動かし続けた。

「よし、完璧。名前は〜…………アサヒ。うん、似合う……って何やってんだァ!」

スパァーンとスケッチブックを床に叩きつけ山崎は頭を抱えた。

「名前、アサヒって…アサヒって…違うだろ。っていうか、これまんまアサヒじゃん!?」

スケッチブックの上でにこりと笑う少女のイラストは、髪形や服装などからいっても部屋の片隅で爆睡している少女をモデルにしているとしか思えない。

「僕は頭がおかしくなってるんだ。現実に萌えvなんてあってたまるか!?日本の文化は夜這いと見合いなんだよ!愛?恋?そんなもんあるわけないだろう!!現実の女なんて公害だ!ゴミ以下の下等生物だ!」

山崎の声にアサヒは煩いのか顔をしかめる。

「僕には、可愛い可愛いぷるりんちゃんが!ハッ…ぷるりんちゃん限定抱き枕がない!」

おろおろと視線をさまよわせればアサヒの頭の下に探していたものを見つけ山崎はぐいっと枕を引っ張った。

「僕のぷるりんちゃんになんて事してるんですか?!」

ズルッとアサヒの下から愛しい彼女を救出すれば代償とばかりに眠っていた少女の頭は床に落ちる。

ゴチっという鈍い音と衝撃にアサヒはゆっくり目を開いた。

「あぁ〜良かった。」

そんな言葉を口にしながら枕を抱き締める山崎にアサヒは寝ぼけ眼を向けた。

「アサヒさん、僕のぷるりんちゃんになんて事するんですか!」

「う〜…ごめん、寝ちゃった。」

ゴシゴシと目をこすりながらアサヒは呟く。

「寝てた事じゃなくて、僕のぷるりんちゃんを下敷きにしていた事を怒ってるんですよ!」

「んー…ごめん。それから、お休み」

ぺこりと頭を下げてからアサヒはぎゅむっと山崎の体に抱きつくと目を閉じる。

「はぁ?ってかあんたまだ寝るつもりですか?!」

「うぅ、煩い。」

「煩い…って、ここは僕の家ですよ!何寝ぼけてるんですかァ?!」

山崎の抗議なんてなんのその。

すぐに寝息を立て始めたアサヒに山崎は固まる。

「ってか近い!近いから!」

ばたばたと拘束から逃げようともがけばむにゅっという奇妙な感触

「こ、これはまさか…」

そろりと視線を向ければ案の定、女性特有の柔らかな膨らみが体に押し付けられていた。

「し、所詮、しっ、脂肪の塊じゃないですか?!別にどうって事ないですよ…」

抱き枕代わりにされた自身の自制心を保つ為、そんな言葉を繰り返せばアサヒの体がますます密着する。

「ちょ、アサヒさん!アサヒさーん。」

起きてーと悲鳴をあげればそれに答えたのはすやすや眠っているアサヒ、ではなく隣のニートこと佐藤

「やかましいッ!ってか山崎テメェ何が同級生だァ!いちゃいちゃしてんじゃねぇよ!」

「ちっ違います!佐藤さん、た、助けて下さいぃ」

山崎の声に佐藤はすやすや眠っているアサヒと山崎を交互に見る。

「助ける?むしろ変わってやりてぇよ!同級生に胸押し付けられておっ立ててんじゃねぇ!この童貞野郎!」

「ワケわかんない事言ってないで、助けて下さいよ!佐藤さん!!」

「何だよ、何だよ、アニオタのくせに同級生に迫られるって羨ましいぞ!テメェ」

「ロリコンニートのあんたに蔑まれたくないですよ!」

「穢れを知らない青い果実の愛らしさなんてお前にはわかんねぇよ!」

「逆ギレですか?!」

「だいたい、ぷるりんちゃん萌えーとかあり得ねぇから!ぷるりんちゃんとか現実にいないから!」

「はぁ?僕、現実(リアル)の女に興味なんて…」

「ないの?」

突如乱入した高い声に山崎と佐藤は言葉を失う。

「アサヒ、さん…」

恐る恐る名を呼んだ山崎にアサヒはずいっと詰め寄った。

「現実の女は嫌い?」

「いや、あの…アサヒさん…」

「そんなに、その子が好きなの?」

じっとこちらを見つめる2つの目玉

「ぼ、僕は…」

視線をさまよわせた山崎をアサヒは真っ直ぐ見据え、その先に転がるスケッチブックを見つめた。

「あれ、何?」

細い指先が指し示すものに山崎は顔色を変え慌ててスケッチブックを閉じる。

「なっ、なっ、なんでもないですッ」

真っ赤な顔の山崎とほんのり紅色のアサヒの顔

ゲームだったらフラグが立ったと喜ぶポイントかもしれない。

「あ〜…うん、あの…帰るね。」

「は、はい。」

ぎこちないアサヒの言葉にぎこちなく山崎は答えた。

「山崎、お休み。また明日」

靴をはきながらアサヒは呟く。

「くっ、暗いから気をつけて!」

視線を下げたままの山崎の言葉にアサヒは笑い頷く。

「うん、迷惑かけてごめんね。」

そう答えてからアサヒは扉を開いた。

外に出てから振り返り居心地悪そうな佐藤と困ったように笑う山崎をみつめる。

「山崎、あのね…僕はキミの事が好きだよ!それじゃあ」

バタンと閉まった扉に向け山崎と佐藤は顔を見合わせ呟いた。

「「まさかの僕キャラ?!」」








『僕ね、キミの事が好きだよ。だから、キミの為ならどんな事だって…』

アサヒは頬を染めて呟いた。

ゆっくりと外れるボタン。

制服の白いブラウスの下にはたわわに実った果実が淡い色彩の下着に包まれ…

「って書けるかァ!なんで俺が知りもしない女子を(妄想とはいえ)凌辱せにゃならんのだ!」

「佐藤さんがシナリオ担当だからです。」

佐藤の叫びに山崎は冷静な回答を返す。

「いやいやいや、やっぱり無理。」

「何言ってんですか。僕キャラ萌えーって佐藤さんも言ってたじゃないですか。」

「あぁ、言ったさ!」

「じゃあ、書いて下さい。」

「わかったよ」

舌打ちしながらそう答え、佐藤はパソコンに向かう。

「えーっと…

制服の白いブラウスの下にはたわわに実った果実が淡い色彩の下着に包まれていた。

小さな音を立てて落ちたスカート

日にさらされることのない太ももの白さが際立つ。

赤く染まった頬

大きな瞳には涙さえ浮かべアサヒはゆっくりと自分の手で…


ごめん、ごめんよアサヒちゃん!俺にはこれ以上、知りもしないキミを凌辱するなんて真似は到底できないッ!」

「あぁ、もう佐藤さん煩いですよ!」

「だってあんな真面目そうな子の服を脱がせて『ねぇ、僕のここ…もうこんなになっちゃったんだよ』とか言わせるんだぜ!非道だよ、鬼畜にもほどがあるだろ?!」

「リアルにアサヒで想像するのやめて下さいよ!アサヒは僕の……」

「僕の、何だよ」

「こ、恋人ですよ!」

「自分の彼女をエロゲーに登場させんじゃねェ!」

佐藤の突っ込みが木霊した。




―――――――――


やってしまった。

NHK夢

読む人いるのだろうか?

アサヒさんお付き合いありがとうございました。

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