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裏夢
egoistic(トリブラ アベル)
※暗め・グロ系の為裏とさせて頂きました。

闇の中から現れた人影は小柄な体躯からは想像もできない力で衛兵たちを跳ね飛ばしこちらへ向かってくる。

「常駐戦術思考を索敵仕様(サーチモード)から殲滅戦仕様(ジェノサイドモード)へ書き換え(リライト)。戦闘開始(コンバット・オープン)」

それを撃滅する為に告げられた死神の言葉。

黒いコートを翻し、対峙した者の顔に動揺の声があがった。

「なんで…あなたが…アサヒさん」

銀髪の神父の声に、AX派遣執行官の肩書きを持つ少女は答えず、騎士に護られた女神を見据える。

「カテリーナ様、」

「アサヒ?」

普段の白い尼僧服とは一転して喪服のような黒一色の衣服を纏ったアサヒは、ガチガチと歯を鳴らす。

黒い瞳いっぱいに恐怖を浮かべ、とめどなく涙をこぼしていた。

異様ともいえる状態の少女の口から零れたのは敬愛する主への謝罪だ。

「カテリーナ様ッ…ごめっ…ごめんなさい。ごめんなさい…」

「アサヒ…あなたは…」

「ごめんなさいっ…」

泣きながら呟いた少女は、謝罪の言葉を囁きながら女神へと肉薄する。

一瞬の出来事に反応したのは攻撃体制を整えていた機械化歩兵だけだ。

彼の体が割って入ら
なければ美しい枢機卿の体は炎に包まれていたかもしれない。

ギチリと青年の腕に力がこもる。

逃げられないように左足と右手を捕まえられた少女の体は、宙で縫い止められていた。

「…シスター・アサヒ、卿の不可解な行動について回答を要求する。」

算出出来ない計算を続けた末、トレスは短い問を口にする。

「カテリーナ様…あなたは、あたしの世界の中心にいる方」

自らを捕らえる青年の背後に立つ女の動揺に満ちた瞳を見据えアサヒは答える。

「でも…、でも…お養父さんは、あたしに世界をくれた人なんだ。失いたくない。殺したくない。だから、だから、だから、あたし、あたしはっ…」

「ダメです!アサヒさん」

自由のきく左手をカテリーナに向けたアサヒにアベルは鋭い声を飛ばす。

アベルの声にいち早く反応したトレスは、小柄な尼僧の体を投げ飛ばした。

バランスを崩したアサヒは、なすすべもなく背中から壁に叩きつけられる。
「――――ッ」

ぐしゃりと地面に倒れ伏したアサヒは激しく咳き込みその口からは赤い血が零れ落ちた。
「アサヒさんッ」

駆け寄ろとしたアベルの足元へトレスは銃弾を吐き出す。

「トレス君!このままじゃアサヒさんが…」

「邪魔をするな。ナイトロード神父。」

「アサヒさんを殺すつもりですか?!」

「肯定(ポジティヴ)敵はすべからく排除しなければならない。」

「そんな事、絶対にさせません。」

鋭い声を出したアベルにトレスは感情のこもらぬ瞳を向ける。

「…ナイトロード神父、卿の行動は聖職服務規定違反だ。」

「知っています。でもアサヒさんは、仲間じゃないですか。」

「…アベル、ありがとう。」

柔らかい声が耳元で響いた瞬間、アベルの首筋に鋭いナイフが突きつけられた。

「アサヒさん…あなた、」

「こうするしか、ないの。早くしないと、お養父さんが…」

「落ち着いて下さい。アサヒさん。」

震えるナイフの輝きを見つめながらアベルは呟いた。

「ナイフを下ろして、トレス君…あなたも銃を下ろして下さい。」

「否定(ネガティヴ)それは出来ない。」

「銃を下ろしなさい。神父トレス。」

「しかし…」

「これは命令です!アサヒ、あなたも今すぐにその馬鹿げた真似をやめなさい。話を聞きましょう。あなたの処分はそれからです。」

カランと、ナイフが地面に落ち澄んだ音をたてる。

「カテ、リーナさ…ま」

かすれた声

痛々しいまでに充血した黒の瞳

目の下にはクマが出来、ひどい状態だ。

一体、何をすればあの明るい少女がこんな状態になるのだろう。

「助け…」

「何をしている。アサヒ…」

縋るような少女の声を澄んだ声がかき消した。

その声を耳にした瞬間、びくりと少女の体がはね力が抜けたようにぺたりとその場に座り込む。

「キミの仕事は、カテリーナ・スフォルツァを殺す事だろう?」

闇の中から這い出てきたような青年は、綺麗に整った顔をアサヒに向ける。

白髪の髪と濁った灰色の瞳の青年は、20代前半にしか見えない。

しかしその瞳は年老いた老人のような色を浮かべている。

「…博士」

かすれた声

「全く…お前は使い物にならんな。私の研究を邪魔した馬鹿どもを殺す事もできんのか?」

「…」

黙り込んだアサヒの顔は、暗く沈み…この男こそが全ての元凶であると物語っていた。

「私の温情も理解できぬ馬鹿者がッ…しかし、私も鬼ではない。これは返してやろう。」

そう呟くと博士と呼ばれた青年は手にしていた黒のトランクを放り投げた。

けたたましい音を立てて転がったそれは、アサヒの目の前で開き…中身をばらまいた。

「あ…あ…」

全身を赤で染めたアサヒの周りには、およそ生物とは理解できないほどに分解された肉塊が転がっている。

それが人である事を示すのは肉塊の所々に白髪混じりのグレーの髪が残っているからだ。

凄まじい血の匂い…、唯一、それが生きていた頃と変わらないものは、トランクからだらしなく溢れた白い白衣だ。…否、白い白衣であったものだ。

それはすでに変色しどす黒い紅色となっている。

「おっと、これを忘れていたな。」


わざとらしい口調で青年は呟くと懐から小瓶を取り出す。
カラカラと音を立てて転がった小瓶の中には、濃紺の2つの眼球がとろりとした液体の中に浮いていた。
「あ、あ、あ、あ…ああ――――ッ!」

言葉を忘れたかのように意味をなさない絶叫をあげた少女の嘆き

それに答えるモノはいない。

「あはっ…は、ははっ…」

黒い瞳からとめどなく涙を零しながら、笑い出した少女は壊れた人形のようだった。

「アサヒさん」

血にまみれたその身体を抱きしめれば、からりと小瓶が床を転がる。

「アベル…、お養父さん…死んじゃったんだ。死…死んで…死…」

「アサヒさん…」

すがりつく小さい身体

どうして彼女がこんな目にあわなくてはいけないのだろう。

もしも神がいるのなら、なぜ彼女を愛してくれないのか。

生まれながらに、『魔女』の烙印を押された少女は、何の償いの為にこれほどの痛苦を味わっているのだろう。

「…嫌だ。どうして…お養父さんが…、あたし、あた…し…」

震える手、声、
艶やかなはずの黒髪は、血にまみれ…黒曜石のような瞳は淀んでいる。

綺麗なハズの彼女を汚した男は、平然とした声で言い放つ。

「…アサヒ、なぜあの男が死んだのか理解できないのか?無知とは罪だな。大罪だよ。」
憐れむような声、

アサヒの視線がゆるゆるとあがる。

「あの男がお前を助けたからだ。わかるか?お前は、私の所有物だった。それをあの男は、くだらない正義感から奪いおったのだよ。お前だけじゃない。研究所にいたすべてのモノをだ。」

コツコツと男の足音が近づき、固い足音がグシャリと踏み潰す音へと変わる。

「動かないで。」

アサヒの視界を隠すように背に庇い、アベルは銃口を向ける。

「あなた…やりすぎです。私、本当に怒ってます。」

低い声

普段聞き慣れた暖かさの欠片も含まない冷たい声にびくりと身体がすくんだ。

「ほう…随分、威勢が良いな。お前、それに好意でもあるのか?やめておけ。それは、生き物の形をしているだけだ。」

男の言葉にアベルは美しい顔立ちに怒りを滲ませる。

「アサヒさんは、人間です。どこにでもいる普通の女の子です。あなたに彼女を傷つける権利なんてありません。」

ピシャリと言い捨てられた言葉に、アサヒはポロポロと涙を零した。

『お前は、人間だよ。どこにでもいる普通の女の子だ。』

お養父さん…

「…心配しないで下さいね。アサヒさん、私…あなたの味方ですから。」にこりと笑うアベルの顔が、養父の顔と重なる。

「ありがとう…アベル」

くしゃりと歪んだ顔、こぼれ落ちる涙が妙に暖かかった。



激しい銃撃

戦わなくちゃ

あたしも…

頭の奥で思うのに、身体が動かなかった。

まるで縛り付けられたみたいに…アベルたちと対峙するあの男を見つめるだけ。

床を染め上げる血の匂いに吐き気がする。

昔に戻ったようだ。

あたしは、やはり変われないのだろうか?

何時までも、研究所にいた頃と同じ

殺戮兵器のまま…

お養父さん…

ガラスの容器に浮かぶ2つの瞳は生きていた時と同じまま…優しい色。

どうしよう…

分からなく、なってきた。

血の匂いしかしない。

うまく呼吸できない。

立ち上がる時は、どうしたら良いんだろう。

離れていく戦いの音

それは彼らとの距離が遠くなったせいなのか…あたしの頭が聞く事を拒絶しているのか…判断がつかない。

どうしてこんな事になったのだろう。

ただ当たり前に生きていたいだけなのに…神様は、それさえ許してはくれないのだろうか?

視界の端で煌めいたナイフは、ひどく優しいものに見えた。

『終ワラセテアゲルヨ』

誘われるように手が伸びる。

『何モ怖クナイ。サァ、早ク早ク終ワリニシヨウ』

首でも心臓でも貫けばいい。

それで全て、終わる。

全て…

「アサヒ…」

手に触れた暖かさ…

「カ、テリーナ様」

ナイフを握るあたしを止めるあなたの優しい手。

「…アサヒ」

赤の法衣が広がる。

初めて見た時と同じ聖母の如き慈愛の微笑

細くしなやかな腕が背にまわる。

近くなる温度と心音

そして鋭い声

その声が、カテリーナ様の悲鳴だと認識し振り返った時には…自身の熱に焼かれるような痛みが襲った。

「―――――ッ」

顔の左半分を抑えたままアサヒは右の瞳で男を睨みつけた。

白い顔を染め上げる真紅の命は、ぽたりぽたりと彼女の顎を伝い床を汚す。

「アサヒさん!」

アベルが声を荒げた事と、トレスの愛銃が博士の両足を撃ち抜いたのは…ほぼ同じタイミングだったと思う。

「戦域確保(クリア)損害評価報告を…」

トレスの静かな声と反しアベルは血の気を失った顔であたしを見つめた。

「アサヒさん!アサヒさん…」

「アベル、あたしは大丈夫…カテリーナ様はご無事ですか?」

顔を覆ったまま振り返ればカテリーナ様も血の気を失った顔をしていた。

「アサヒ、あなた目を…」

「大丈夫です。」

にこりと…あたしはちゃんと笑えていただろうか?





「…馬鹿な。こんな事が、あんな馬鹿どもに私が捕まるだと?有り得ない。有り得ない事だ。」

ブツブツと護送車両の中で呻いた博士は忌々しそうに舌打ちを零す。

ガタンと大きな音を立て止まった事で博士は小さな隙間から外の景色を覗く。

「何だ…何故止まった?!」

目的地のまだ半分も進んでいないというのに…静かな夜の音だけが響き不安が大きくなる。

「イザーク…あの男が来たのか?」

今回の事を起こすにあたり協力を申し出た男の名を呟けば、グニャリと護送車の扉が歪む。

「なっ…?!」

言葉を失った男の前で人知を超える力でねじ曲げられた扉が甲高い音を立て外れた。

「お前はっ…」

宝冠めいた銀の髪を視界におさめた博士の瞳は膜をはり…その体からはしとしとと紅の雫がこぼれ落ちた――――。




「護送中のマラスキーノ博士が何者かに殺害されました。」

「…………。」

カテリーナの言葉にアベルとトレスは小さく肩をすくめた。

「口封じ、ですかね?マラスキーノ博士は、確かアサヒさんたち魔女を使った実験を行っていたと聞いています。」

「その通りです。神父アベル…彼の研究は決して公にできるモノでは、ありません。しかし、口封じに殺される必要があったとはとても思えないのです。神父アベル、何か心当たりはありませんか?」

カテリーナの言葉に美しい銀髪で光を弾いた男は苦笑した。

「すみません、何もありません。」

柔らかい口調で上司の問いに答えたアベルは、静かに執務室を後にする。

その背を見送る上司と機械化歩兵の顔には、形容し難い感情が浮かんでいた。





「…アサヒさん、目の調子はどうですか?」

アベルの言葉にアサヒは左右色の違う瞳を向ける。

強い意志を込めた黒の瞳と穏やかな濃紺の瞳が、微笑んだ。

「大丈夫だよ。片目の生活も大分慣れた。」

にこりと笑ったアサヒの濃紺の瞳に瞼の上から口付けを落としアベルは微笑んだ。

「綺麗な目ですね。」

「ありがとう」

アベルの言葉にアサヒも微笑む。

その笑みにアベルは顔をくもらせた。

「アサヒさん…本当にすみません。あなたを…こんな形で傷つけてしまって…私が…もっと…」

「あたしが油断してただけよ。アベルのせいじゃないわ。」

「でも…」

暗く沈んだ男にアサヒはクスクスと笑った。

「じゃあ…責任…取ってくれる?」

「は、はい…私に出来る範囲であれば…」

コクコクと頷いたアベルにアサヒはすっと手を差し出した。

「…これからは、あなたが導いて。片目のあたしが道を踏み外さないように。」

「…はい。」

「では早速、お養父さんのお墓参りに行きたいから案内よろしく」

にんまりと口のはしをあげて笑うアサヒの笑みはどこか歪で…泣きながら笑っているように見えた。

「…それでは、行きましょう。アサヒさん。」

握りしめた手は小さく…彼女の儚さを主張しているかのようだった。

今は、まだこの思いは告げない。

あなたの左目が真っ直ぐに私を見つめるまで…

私があなたの濃紺の瞳に私の姿を刻むまで…盲しいた左目に伝わらない思いを口付けで伝えよう。

『愛しています』

例え…あなたに伝える言葉が血にまみれたものだとしても…あなたに伝える言葉は真実だから。

あなたの光を失った左目を利用して…

私は血に濡れた愛を囁く



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


アベル夢ないな〜…と思い書き始めたらこんな事に(汗)

一応補足?説明

アベルはアサヒさんの事が好きだけど、アサヒさんはアベルを頼れるお兄さんくらいにしか思ってなく…それをアベルは自覚している感じ。

だからアベルの愛情は決してアサヒさんに伝わる事ないけど、アベルはアサヒさんが好きだからエゴめいた愛情で他人すら壊していく…
そんな話が書きたかったのですが、見事に失敗(キラリ)

余談ですがマラスキーノは、リキュールの名前です。トリブラヒロインの過去夢を書く機会があればまた出てくるかもしれませんが、とりあえず悪いヤツと判断して頂ければ問題ないかと(笑)


アサヒさんお付き合いありがとうございました。

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