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裏夢
2人分の思い(ZONE-00 紺之介・白狐)

街中が様々なイルミネーションで飾られるこの時期は、気持ちもうきうきしてくるものだ。

クリスマス独特の軽快な音楽に耳を傾けてくてくと道を歩きながらアサヒはそう思った。

世界中が魔法にかかったみたいに浮き足立ったかと思うと、パッと世界は色を変え…年末独特の忙しさと年始独特のよそよそしさが世界を満たす。

実に人間とは興味深い生き物だ。

「ただいま〜」

明るい声をあげながらアサヒは店のドアをくぐる。

どうやら主は不在らしい。

客間に上がり込むと、アサヒはいそいそとコンビニの袋からアイスクリームを取り出した。

「ん〜っ、寒い日にあったかい部屋の中で食べるアイスクリームは最高ッ!」

パクリと口に含むなり大絶賛してから、ゆっくりとスプーンを動かす。

「それにしても…白狐はどこに行ったんだろう…」

きょろきょろと視線をさまよわせたアサヒに答えるようにガタリと大きな音が響く。

「…………白狐かな?………もしかして、泥棒?!」

不安になりながら恐る恐る音の響いた部屋に近づく。

音は白狐の部屋から響いていた。

ガタリ
「白狐〜…いるの〜?」

そぉーっと声を出せば、急に部屋の中が静かになる。

「開けるよ〜…」

ゆっくりとドアを開けたアサヒの目に飛び込んで来たのは巨大な箱。

人一人が隠れられそうなサイズのそれは、大きなリボンで飾られている。

そこにはでかでかと

『マイ・スゥイートハートアサヒへ』

とアホ丸出しの文字が飾られていた。

「カタカナだし…」

そう突っ込めばガタリと箱が揺れる。

こんな馬鹿げた事をする人物は一人しかいない。

間違いない。

紺之介だ。

となると…するべき事など決まっている。

しゅっと銀糸を箱に放りアサヒはそのまま出てこれないように、がっちりと蓋と箱を固定する。

外の不穏な気配を感じたのか、ガタンガタンと箱が揺れるがあとの祭りだ。

「さて…どうしてくれよう。」

ニタリと笑ったアサヒの後ろで計算されたようにバサリと何かが落ちる音が響いた。

「ん?………何これ」

床に落ちた分厚い冊子をアサヒは拾い上げ達筆すぎて逆に読みづらい文字を読み上げる。

「アサヒぷろじぇくと…うわ、頭悪いネーミングセンス…。しかも今度はひらがなだし…」

悪態をつきながら冊子を捲る。

計画

プレゼントを部屋の前に設置

アサヒが開けたところを襲う。


パチパチとまばたきを繰り返してからアサヒはペラペラと冊子を捲る。

計画書は最初の一枚で…後半は全て白紙だ。

突っ込みどころは様々あるが、とりあえずこの箱ごと処分するべきだろう。

「燃やすか、斬るか…いっそ海に沈めるか?」

アサヒの言葉に激しく箱が揺れた。

「真冬の海はきっと素敵でしょうね」

愛らしい口調で呟くとアサヒは、そっと箱に触れる。

その瞬間、世界が反転した。




「捕まえたぞ、アサヒ」

ニヤリと笑う狐の言葉をアサヒはなかなか理解する事が出来なかった。

そばでは未だに箱がガタガタと音を立てている。

しかし中にいるはずの人物は、アサヒを見下ろし笑っていた。

「紺、之介…?」

名前を呼べばそっと、額に温かいものが触れる。

小さな音と共に離れた唇に目を白黒させたアサヒに紺之介は喉を鳴らして笑う。

「静かにしておかねば聞こえるぞ」

そっと耳元で囁き、紺之介はぺろりとアサヒ耳に舌を這わす。

「〜〜〜〜〜〜ッ」

突然の出来事にアサヒの口は言葉の代わりに奇妙な音を発する。

その動揺した姿に紺之介は満足そうに笑うばかりだ。




熱い舌が触れる度、冷えた空気の冷たさが身にしみる。

ギリリと指を噛み締めれば、青い瞳が煌めく。

「アサヒ、」

名を呼ぶ声が自信家な男の者とは思えぬほど弱々しく、アサヒはゆっくり視線を向ける。

ぼやけた視界で神々しささえ感じさせる男の存在に目眩がしそうだ、と思った。





涙を浮かべた瞳に、自分はどのように映っているのだろうと不安に思う。

畏怖か、嫌悪か、憎悪かと考え…何一つ好ましい対象にいない事を想像すれば嫌悪感に吐きそうだと思った。

こんなにそばにいるのに、何故気持ちはうまく伝わらないのだろう。

構って欲しくて道化てみせれば、自分の気持ちさえ隠れてしまう…。

長き時を生きた狐が幼い蜘蛛に翻弄されるなどと誰が想像しただろう。

「アサヒ」

名を呼ぶ。

ゆるりとこちらを見つめる瞳

彼女の全てが愛おしいのに、それを伝える言葉を知らない。

どれほどの言葉をかき集めてもこの感情を表現する事は出来ず、せめてこの狂おしい気持ちが伝わればと願い口付けた。



ぐらぐら揺れる世界の中…文字通り熱に浮かされた思考を働かせアサヒは眉をひそめた。

静かになった箱

この中には誰がいるのかと考えれば目の前にある狐の顔が歪む。

まるで自分だけを見ろと言わんばかりの表情に息を吐き…アサヒは目を細めた。

脳内をかき乱す信号に持っていかれそうになる意識に縋れば余計に今の状況を認識し…目眩がする。

行為が終わりに近づくに連れ、アサヒはぷつりと意識が途絶える音を聞いた気がした。






ハッと目を覚ました時には、心配そうに覗き込む青の瞳が目の前にあった。

「おはよ、アサヒクン」

「紺…白狐…?」

「無理させてごめんね。」

細い指先がアサヒの髪を梳く。

母親を思わせる優しい手つきに目を閉じればふわりと熱が額へ落ちてくる。

「……ねぇ、アサヒクン。順序が逆になったけど…」

目を伏せてから白狐は続けた。

「どちらの僕も愛してくれる?」

青い目をした狐は月並みな台詞に溢れ出しそうな想いを載せ囁く。

僕じゃなくて、儂でもなくて…2人で1人なこの身を、あなたが愛してくれますように。

真っ赤な顔で頷く君が愛おしくて2人分の想いをのせ深く深く口付けた。







おまけ

「……………あぁ、そうだ。アサヒクン、少し早いけどクリスマスプレゼントだよ」

先ほどガタガタと動いていた巨大な箱を指し示し白狐は笑う。

「え………」

引きつった表情を浮かべたアサヒに白狐はクスクスと笑う。

「心配しなくても変なものじゃないよ。」

そんな白狐の言葉に自身が紡いだ糸を解き、アサヒはパカリと箱を開けた。

巨大な箱には不釣り合いなくらい小さな箱が収められている。

そろりと箱を取り出し開くと小さな箱の中には、指輪が一つ

「君への思いが大き過ぎてそんなに小さな箱では収まりきらなかったんだ」

照れもせずにクスクス彼が笑うから、あたしは真っ赤な茹で蛸みたいに顔を染める事しか出来なかったんだ。



―――――――――


時間がかかってしまいました(汗)にも関わらず何となく不完全燃焼な内容に…。

華さん、アンケート参加ありがとうございました。

アサヒさん、お付き合いありがとうございました。

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あきゅろす。
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