[携帯モード] [URL送信]

裏夢
チョコレート(D灰 リーバー)

「リーバー班長、もう無理です。死なせて下さい。」

書類に埋もれた机に突っ伏してアサヒは情けない声をあげた。

無言のまま励ますように机に置かれた珈琲が恨めしい…

温かい湯気をあげるカップを見つめ、アサヒは叫んだ。

「この忙しい時に、室長はどこ行ったんですかぁ!」

すでに徹夜2日目

肉体的にも精神的にも辛い時間帯だ。

真向かいの机では、ジョニーが真っ青な顔をして机に顔を乗せている。
頬にベッタリとついているのはインクだろうか…

「リーバー班長、ジョニーが死んでます」

死んだ魚のような目を向け呻けば、部下の体調に気づいたリーバーが悲鳴をあげた。
何時ものようにタップに背負われていくジョニーを見ながら、アサヒは欠伸をかみ殺した。

「顔、洗ってきます…」

とだけ告げ席を立つ。
トイレの手洗いでザバザバと顔を洗えば疲れた表情の自分と目があった。

目には生気がなく、正直年頃の娘とは思えない状態だ。

自室戻って寝ようかな…そんな甘い誘惑に首を振り渋々、科学班へと通じる廊下を歩む。

「あ〜…今寝れるなら死んでもいいや」

科学班の合い言葉となってしまった言葉を呟きながら誰もいない廊下を進む。

カツカツという靴音が静かな空間に響き渡りなんとも不気味だ。

幽霊でも出てきそう…

そう考えてアサヒは首を振る。

いくらなんでも今想像するのは良くない。怖すぎる。いや、寧ろ出てきてくれれば…恐怖で目が覚めるだろうか…?

そんな事を考えていたアサヒの目に、人影が写った。

見慣れた白い服と帽子

「こんなところで何してるんですか。コムイ室長」

「アサヒくん、随分疲れた顔をしているね」

「そう思うなら休みを下さい。」

半眼で呻くと、コムイは小さく笑みを浮かべる。

「はい」

ポケットから何かを取り出し、アサヒに握らせた。

カラフルな包装紙に包まれた1粒のチョコレート

「疲れた時は、甘い物が欲しくなるからね」

「お菓子より休みを下さいよ」

そう愚痴りながら、一口大のチョコレートを放り込む。

口の中で独特の甘さと苦みが広がった。



先ほどより幾分かスッキリした頭で仕事を開始して30分ほど経った頃、それはおきた。

「暑い…」

体の内側から火照るような感覚…

ネクタイを外し、シャツのボタンを開ける。

「熱でも出たかな…風邪?」

じわりと額に滲んだ汗を拭い、書類に向き直る。
…暑さのせいか全く頭に入ってこない。

暑さを自覚してから、10分も経った頃には机に額を押し付けたまま、動けなくなっていた。

『おい、アサヒ大丈夫か?』

同僚の声が遠くから聞こえる。

『班長、アサヒの様子がおかしいです!』

慌てたような声は誰のものなのか、判別もつかない。

「アサヒ、どうした?」

熱に浮かされたような頭にもはっきり聞こえた声。

「リーバー班長…」

ゆっくり目を開くと心配そうな顔をした男の顔が見える。

「顔が赤いな…熱でもあるんじゃないのか?」

ピタリと額に冷たい手が触れた瞬間、ゾクッとした感覚が伝わる。

「ぁっ…」

こぼれた声は、ひどく熱に浮かされていて、自分のモノではないみたいだ。

あたしの声に驚いた表情を浮かべたリーバー班長が、同僚に指示を出す。

指示が行き渡ったのを確認してから、アサヒに声をかけた。

「アサヒ、とりあえず医療班に…」

慌てたようなリーバーの声に答えたのは、のんびりとしたあの声だ。

「心配しなくても、病気じゃないよ」

「室長…あんたアサヒに何かしたんですか?」

怒気を含んだ声を出したリーバーを手招きし、コムイは周りに聞こえないように声を出した。

「チョコレートを一つ」

「チョコレート?」

怪訝そうな顔をしたリーバーにコムイは慌てる事なく答える。

「チョコレートといえば、有史以来、媚薬の代表だよね。通常のカカオに僕なりのアレンジを加えてみたんだけど…」

「あんた自分の部下に何てモノを与えてんですか!」

リーバーの怒声にコムイは軽く肩をすくめるとそっと耳打ちした。

「君がいつまでもそんな調子だから手伝ってあげたんだよ。ほら、自室に運んであげて…」

コムイの言葉にリーバーがピクリと反応を返した。

恐る恐るアサヒを見ると、痙攣するように体を震わせている。

「アサヒ…もういい。部屋に戻れ」

リーバーの声に、浅い呼吸を漏らしながらアサヒはのろのろと立ち上がる。

「大丈夫か?」

状況を知らない同僚たちが心配そうな声を出す。
今にも倒れ込みそうなアサヒの体を支えようとタップの手が触れた瞬間、アサヒは嬌声のような声をあげて座り込んだ。

「…?」

自分に何が起きているのか理解出来ない。そんな顔でアサヒは周りを見上げた。
熱に浮かされたような瞳と赤く染まった頬が何とも扇情的で情欲を誘う。
見つめられた者の中には顔を赤らめ背を向ける者も多い。

「あのままだと、色々マズいんじゃないかなぁ…」

呑気な声を出したコムイを睨みつけ、リーバーは部下たちに仕事に戻るよう指示を出しアサヒを背負う。

「んっ…リーバー班長…?」

耳元で熱い吐息をもらされ、かすかに体が反応するのがわかった。

「黙ってろ」

短い言葉にアサヒは頷き抱きつくように手を回す。

まるで悪い夢を見ているようだ、とリーバーは深くため息をこぼした。





数回訪れた事のあるアサヒの部屋がまるで違う場所のように感じた。
部屋のすみに置かれた簡素なベッドにアサヒの体を横たえる。

『チョコレートといえば、有史以来、媚薬の代表だよね。』

ふとコムイの言葉が浮かんだ。
その言葉の後に浮かんだ考えを否定するように髪をかき乱す。
いくらなんでも、正常な判断ができなくなっているアサヒに…やる事じゃない。
視線を向ければ辛そうに眉を寄せるアサヒの姿
普段は隙なく着込まれたシャツとネクタイがだらしなく緩められ、今にも柔らかい膨らみが見えそうだ…。

ちょっと待て。落ち着け、それは上司として…寧ろ人として越えてはいけないラインだ。

「リーバー班長…」

急に名を呼ばれ、ビクリと心臓が跳ねる。

「アサヒ…?」

名前を呼び返すと、虚ろな瞳がこちらを向く。

まるで自分の浅ましい考えを読まれそうで、リーバーは視線を逸らした。

「…何で、あたしを見てくれないんですか?」

呟かれた声はひどく小さいモノだったが、静かな部屋では十分すぎる声量を保っていた。

泣き出しそうな顔でアサヒは、ぎゅっとリーバーの白衣の裾を掴む。

「もっと…頑張りますから…認めて下さい。」

「俺は、お前に助けられていると思うよ」

優しい言葉に、アサヒの顔に笑みが浮かぶ。
ひどく緩慢な動作で起き上がるとリーバーのネクタイを引いた。
必然的に体が傾く。

「んっ…」

熱いものが唇に触れたと自覚した瞬間、口内に柔らかい何かが侵入する。

アサヒの顔が近い

「――――っ?!」

驚いたようにアサヒを見ると気づいたのか目を開く

「…珈琲の味がする」

悪びれる様子もなく呟かれた言葉にリーバーの顔が赤く染まった。

「思っても報われないのなら…こんな時くらい好きにさせて下さいよ」

ネクタイを掴んだまま額から、瞼、頬とキスを落としていく彼女の言葉を考える。

それは、『好きです』という意味だろうか?
部下に…それも年下の女の子に先に言われてしまうなんて、情けない…

名残惜しそうに唇を離したアサヒと視線を合わせるようにベッドに腰掛ける。
少しだけ近くなった距離にアサヒが笑ったような気がした。

狭いベッドに押し付けられたところでハッとする。

これ、逆じゃ…?

今更のように気づき、自分の上にいるアサヒの顔を見つめる。

アサヒは、小さく笑い返すだけだった。

耳元から首筋を辿るように舌をはわせ、時折噛みつくようなキスを贈られる。

器用に左手でネクタイを解き、ボタンを外す。ベルトを外す音の後に、黒いズボンが部屋の隅に放られた。
黒の下着に包まれたしなやかな身体が晒される。

ごく、と喉がなる。

それに気づいているのか、アサヒはクスクスと笑い声をこぼすとリーバーのベルトを外しはじめた。

「リーバー班長」

名前を呼ぶ声は、艶めかしく優しい。

「気持ちよくなって下さいね」

娼婦のような言葉を口にしながらアサヒは妖艶な笑みを浮かべる。
日頃、科学以外に興味のなさそうな彼女は、こんな顔も出来るのだと呑気な事を考えた。

「ふっ…んっんん」

ぎゅっと目を閉じたまま、差し出された身体は酷く熱い。

「あっ…ぁあ…リ、バー班ッ長ぉ」

腰を揺らすアサヒは、切なそうに眉をよせながら快楽を貪っているようだった。
「な、まえっ…呼んでっ…下さいぃ」

縋るような声が耳を打つ

「アサヒっ…」

快楽にクラクラする頭で必死に言葉を紡いだ。

「ぁっあ…」

徐々に大きくなる嬌声。

「ダメっ…いっ…あっあ、あ−っ!」

一際大きくアサヒが鳴き、その声に呼応するように熱いモノを放つ。
彼女は身を痙攣させながら全てを受け入れていた。


事切れたように眠ってしまった彼女の身を清め、そっとキスを落とす。
証をつけるように強く吸えば、アサヒは微かに身じろぎをした。

「愛してる…」

呟いた言葉は、誰の耳にも入らなかった。



「んっ…あれ、いつ帰ってきたんだっけ?」

見慣れた部屋の光景に首を傾げながら、衣服を纏う。

「それにしてもリーバー班長を襲う夢なんて…欲求不満なのかな…」
鏡を見ながらネクタイをしめていると、首筋に赤い点が浮かんでいる事に気づく。
痛みや痒みはない。訝しげながら、鏡を見つめていると時計が目に入る。時計が示す時刻に慌てて自分のデスクへと急いだ。

「すみませんっ!いつの間にか寝てたみたいでっ」

謝罪と共にドアを開くと、心配そうな同僚の顔

「体調は、もういいのか?」

「体調…?」

怪訝そうな顔をすると同じような表情が返ってきた。

「昨日、体調崩してリーバー班長に背負われただろ?」

同僚の言葉に納得。通りで、あんな夢を見るわけだ。
となると…リーバー班長にはお礼を言わなければならない。
デスクにかじり付いた姿を見つけ駆け寄る。

「おはようございます。リーバー班長、遅刻してすみません。それから、昨日はご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
そう告げれば、リーバー班長は耳まで赤くしてこちらに向き直る。
「アサヒ、その昨日の事なんだが…」
「何ですか?」
「…」
首を傾げると、リーバー班長は複雑な公式を解く時みたいな顔をした。
たっぷり30秒ほど黙り込んでから口を開く
「まさかお前…覚えてないって事はないよな?」
「は?…えーっと、すみません」
リーバー班長の顔が赤くなったり青くなったりする。

「あたし、何かしましたか?」

「いや、何でもない。気にするな」

ガックリと肩を落とした背中には哀愁が漂っている。

「リーバー班長、あの…」

少し言いにくそうに、視線を逸らしながらアサヒはそっと耳打ちした。

『好きです』




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「あんた自分の部下に何てモノを与えてんですか!」
と言わせたくて書いたものの…何とも言えない内容に…(汗)
お付き合いありがとうございました。

[次へ#]

1/21ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!