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夢小説(トリブラ)
雨(トレス片思い)
厚い雲に覆われた空からポツポツと滴が落ちてきた。

あっという間に本降りになった空に、誰かのため息が聞こえる。

小さな店の軒先、雨宿りをしていた数人は諦めたように荷物を胸に抱え走っていく。

しばらく止むのを期待して待っていた者も、一人また一人と雨の街に消えてゆく。

濡れる事に抵抗があるわけではない。

寧ろ、風邪すらひく事のないこの体に何の問題があるだろう。

「イクス神父」

ふと耳に入った聞き覚えのない声に振り向く。

白い尼僧服を纏った少女が傘を片手に立っていた。

「良ければ一緒に…」

赤い傘が雨の中で咲く。

その言葉には答えず少女から空へと視線を移す。しばらく少女は黙っていたが小さいため息をつき赤い傘と消えていった。






どのくらい時間がたったのだろう?

酷くなるばかりの雨を見つめ、トレスはゆっくりと足を踏み出した。

大粒の雨が体を叩き褐色の髪を濡らす。

僧衣の隙間から服の中まで雨が入り込んだ。

しとしとと降り続くは止む気配もなく、聴覚センサーに入ってくるのは煩わしいくらい大きな雨音と自分の足音だけだ。

こんな時、人であれば寂しいと感じるのだろうか?

雨の音

水の跳ねる音

自らの足が地面を踏む音…

決して無音ではないといいのに、無音と感じてしまうくらい静かな空間

そこに響いたのは、中枢演算機構を揺るがす声


「あたしは大丈夫。だから使っていいよ。」


誰かにそう伝える声、パシャンという水を踏む音

雨の中こちらへ走ってくる少女の名を呼んだ。

「シスターアサヒ」

「トレス、こんな大雨の中何してるの?」

驚いたようにアサヒが自分の名を呼ぶ。

それだけで、思考ルーチンに乱れが生じた。

「卿こそ何をしている。」

「ケイトのお使いが終わったから今から帰るところ。一緒に帰ろう」

「肯定(ポジティヴ)」




雨の音

水の跳ねる音

自らの足が地面を踏む音…

そこに加わったのは、アサヒの明るい声


「…トレスあのさぁ、そんな遠くにいたなら傘買えば良かったのに」

話を聞くなり呆れたような口調でアサヒは呟く、

「必要ない(ネガティヴ)俺は機械(マシーン)だ。」

「いや、そうかも知れないけどかなり異様な光景よ?」

そう言う彼女の尼僧服も水滴が滴るほど濡れている。

「まぁ、あたしも人の事言えないケド」

そう呟く彼女の傘はお使い先で出会った幼い兄弟の手の中にあるらしい。






「…ねぇ、トレス。雨の中を歩いているとさ、自分以外の音が消えた気がして寂しくなる時ってない??」

ポツリと呟かれたアサヒの言葉を聴覚センサーは漏れなく拾う。

「否定。俺は人(マン)ではなく機械(マシーン)だ。俺に感情はない。」

「んー…そうかなぁ。トレスは自分で思っている以上に人間らしいと思うよ。」

思案するように間を置いてから、アサヒは答える。

「卿の発言は意図が不明だ。」

返ってきたお決まりの台詞にアサヒは小さく笑う。

儚げな微笑

視覚センサーが捉えた情報に中枢演算機構に乱れが生じたのがわかった。










「あたしの歩調に合わせたから無駄に時間かかったでしょう?ごめんね」

申し訳なさそうに目を伏せるアサヒにトレスはガラス玉のような瞳を向ける。

「否定、俺は無駄な時間だったとは思わない。」

トレスの言葉にアサヒはニコッと笑うと小さな声で

「ありがとう」と答えた。

「それじゃあ、また明日」

くるりと踵を返すアサヒ

放っておけば雨に溶けてしまいそうなほど小さい体がゆっくりと離れていく。

離れていくその背中に向かってトレスは抑揚を欠いた声を出した。

「シスターアサヒ、」

「ん?」

名前を呼ばれアサヒは振り返る。

黒曜石めいた黒い瞳がトレスを見つめた。

「シスターアサヒ、卿の姿を見ると俺の中枢演算機構に乱れが生じ、思考ルーチンに異常が発生する。」

「…」

トレスの言葉をアサヒは黙って聞いていた。

「人間の言葉で言うなら、俺は卿に好意を持っているのだと判断される。」

「…ありがとう」

にこりと笑うその笑みに機械化歩兵の精一杯の告白はかき消される。

訪れた沈黙にアサヒは微かに微笑んだ。

「お休み」

優しい微笑と声で会話に終わりを告げるとアサヒはもう一度くるりと踵を返すと振り向く事なくその姿を消す。

それを見送る、トレスの僧衣からはポタポタと滴が落ちた。

全身を濡らした雨は、髪を伝い頬を滑り落ちていく。

それは、決して流す事の出来ない機械化歩兵の涙のようだった。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


悲恋で片思い…?
何か微妙(汗)

補足するなら、主人公はトレスが嫌いなわけではないです。好きとか嫌いの概念が自分の中になくて、カテリーナという主に全て判断を依存している状況。
そんな感じ(余計に意味不明…)

アサヒさん、お付き合いありがとうございました。


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あきゅろす。
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