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夢小説(トリブラ)
世界の構造(教授)


カテリーナ様があたしの世界の中心。それ以外は何もいらない。そう思っていたのに…。




「ユーグ、すまないがこれを出してきてくれ。ついでにトレス君にメンテナンスの予定を入れるように伝えてきて欲しい。それから…」

次々と出てくる用件を聞きながら、出された紅茶に口をつける。
温かい湯気をあげていたそれはすっかり冷めてしまっていた。それくらい長い時間ここに座っていたのだと改めて思う。

用事を頼まれたユーグが部屋を出れば、今度は教授の奏でるペンの音が響く。


帰ろうかな…
空になったカップを見つめて思う。
少しでも長くいるための口実にちびちびと舐めるように飲んでいた紅茶もなくなってしまった。
何より、こんなに忙しそうにしている人のそばでティータイムなど嫌がらせ以外の何物でもない。
きっと教授は、気にしなくて良いと笑うに違いないけれど心の中まではわからない。空気の読めない人間ベスト3にランクインしてるかも…。そう考えると絶望的な気分になる。

ひっそりとため息をつくとせわしなく動いていたペンが止まった。

「アサヒ君、おかわりはどうかね?」

口のはしをあげ、教授は微笑む。

「いやっ、大丈夫です。すみません、忙しいのに、お邪魔しましたっ…」

空になったカップを置くと、教授は無言のまま立ち上がり部屋のすみに置かれたティーポットを手にとる。

「遠慮はいらない。」

新しく差し出されたカップに並々と注がれた紅茶と教授の顔を見る。

「あの、あたし…戻りますから、」

昔は何の躊躇いもなく差し出された紅茶を受け取れた。
教授にどう思われているかなんて、興味もなかった。
なのに、なんで…

「アサヒ君、ゆっくりしていきなさい。」

押し付けるように渡された紅茶は白い湯気と花のような甘い香を立ち上らせていた。

ユーグみたいに教授のお手伝いが出来れば良いのに…。

誰かがいると早く2人きりになりたいと願うのに、2人になると居心地の悪さに逃げ出したくなる。

泣いてしまいそうだ。

視線を下げて俯くと、優しい声が耳に届く。

「ところで、アサヒ君僕が毎回紳士として相応しくない行動をしている事に気づいているかな?」

その言葉に視線をあげると優しく微笑んだ教授と目があった。

「アサヒ君、この部屋について何か気づく事はないかい?」

教授の言葉に部屋を見渡す。

教授は悪戯を思いついた子供みたいな顔で笑う。

「ヒントを出すなら、この部屋に入ってきた人の反応だよ」

眉をよせて考えると教授はあたしの手からカップを取り上げ、あたしの目の高さに持ち上げた。

「この暑い日に僕たちは何故こんなモノを飲んでいるのだろうねぇ」

「それは、この部屋が…あ、室温ですか?」

そこまで答えてようやく気づく。

「正解」

教授は嬉しそうに笑った。

「でもそれは…」

「確かに僕は以前こう答えたはずだよ。『研究機材が熱に弱いから室温を低くしている。』とね」

出来の悪い生徒に教えるような口調で教授は答えた。

「しかし、アサヒ君。この部屋にそんな精密機器があると思うかい?」

苦笑しながら教授は、カップを置くとパイプを取り出してくわえる。白い煙がぷかぷかと浮かびゆっくりと消えた。

「それに、僕は君が猫舌である事を知っている。本来ならば、ほどよく涼しい部屋でアイスティーをご馳走するべきだろう。でも僕は、あえて…室内をこんな状態にまでして熱い紅茶を出した。その理由がわかるかい?」

それは、期待しても良いのだろうか?

教授はにっこり笑うと、あたしの頭を尼僧帽越しに撫でた。

「紅茶が冷えてしまうまで僕はキミを独占できるだろう?それにこんなに寒い部屋には誰も寄り付かないからね」

パチンとウインクをすると教授はアサヒを見つめる。

「さて、アサヒ君。キミは以前僕に自分の世界はミラノ公で構成されていると語っていたが…どうだろう。そこに僕を加える気はないかい?」

こんな時、どんな顔をしたら良いんだろう…

嬉しいような切ないような、笑いたいのに泣きだしそう。

縋るように教授を見れば、一瞬驚いたような顔をして穏やかな笑みを浮かべる。

愛しむように抱き寄せられると、甘い紅茶と紫煙の香りがした。

自分より高い位置にある教授の顔。

距離が近くなったせいで余計に身長差を感じて、妙に恥ずかしい気持ちになった。

「アサヒ君…僕の世界はアサヒ君で構成されていると言っても過言ではないよ。」

多分、あたしの顔はリンゴみたいに真っ赤になっていると思う。

「教授、こんな時あたしはどんな顔で何と答えたら良いでしょう?嬉しいのに切なくて、泣きそうなのに笑いたくて…自分の気持ちがわからないです。」

「うん、素晴らしい回答だね。アサヒ君、それは遠まわしな『YES』だと僕は判断するけれど問題ないかな?」

「答えになってないですよ」

嬉しそうな教授にそう不満を零せば、教授は笑みを深めた。

「僕としては、好きな女性には常に笑顔でいて欲しいと思うよ。だから笑ってくれたまえ」

教授に言われた通りに笑うと、教授の顔が近くなった。

知的な色を宿す碧眼がすぅっと閉じられ長い睫毛が目に入る。

綺麗…

近くなったその顔を見つめているとゆっくりと教授が目を開く。

澄んだ青い瞳が楽しそうな色を宿す。

離れていく熱を惜しむように見つめれば、教授は生徒に教える教師の顔で呟く。

「アサヒ君、こういう場合目を閉じるものだよ。」

もう一度落ちてきた熱に目を閉じる。

暗闇の中で甘い紅茶と紫煙の香りに包まれた気がした。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


アンケートに希望があった教授夢
甘々…か微妙ですが今までの中では甘夢だと思います。


アサヒさんお付き合いありがとうございました。

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あきゅろす。
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