夢小説(トリブラ)
こどものじかん(トレス)
※ 虐待っぽいシーンがあります。苦手な方はご注意下さい。
その場に集まった一同の反応は様々だった。
微笑ましそうに笑うもの、唖然とした表情を浮かべるもの、
そんな彼らの中心にいたのは5歳前後の子供だ。
ここが剣の館(パラツツオ・スパーダ)、しかも国務聖省長官であるカテリーナ・スフォルツァの執務室である事を考えれば異様な光景であった。
「教授(プロフェッサー)他に方法なかったんですか?」
物珍しそうに子供を見つめたアサヒに教授は心外だ。とばかりに肩をすくめた。
「何を言うんだ。アサヒ君。
先の任務でトレス君の損傷は激しく修理には時間を要するのだよ。」
「だからって、これはないでしょう?」
「動けない事はストレスになるからね。かと言って、動き回らても問題だ。子供サイズなら無茶はできないだろう」
ぐりぐりと頭を撫で回され、トレスは不愉快そうに教授を見る。
「無茶できないように任務に関する情報にガードをかけたら感情面が甘くなったようでね…まぁ、普通の子供と何ら変わりはないよ。」
「こうなっちまえば拳銃屋も可愛いもんだな。」
面白そうにレオンが笑う。
「しかし、子供ならば尚更誰かが見ておかなければ危ないのでは?」
ハヴェルの言葉に教授は仰々しく頷いた。
「その通り、皆に集まってもらったのはトレス君の修理が終わるまでこのミニトレス君の面倒を見る者を決める為だ。猊下の前でなら嫌とは言えないだろうしね…」
最後の言葉は間違いなくあたしに向けられているのだろう。
それを自覚しながら一同の顔を見る。
子供の面倒を見るならケイトやハヴェル、レオンが適任かな。アベルは虐められそうだし、ユーグが子守する姿は想像できない。
あたしは、子供の世話なんてしたことないし…何より研究所で幼少期を過ごした自分に一般的な面倒など分かるワケがない。
関係ないかと決めつけて、トレスに目をやれば何故かあたしの真ん前に立っている。
その小さな手はしっかりとあたしの尼僧服を握りしめていた。
視線を合わせるように屈み引き剥がそうと尼僧服を握る手を掴めば、ますます強く握りしめる。
困惑しながら見返せば大きな茶色の瞳がこちらを見つめてくる。
「ふむ、トレス君はアサヒ君が良いんだね?」
「肯定(ぽじてぃぶ)」
何時もより舌足らずな声が明るい返事を返した。
「えぇっ!あたしっ?!無理、絶対無理です!」
全力で拒否すると幼い顔がくしゃりと歪み茶色の瞳いっぱいに涙が浮かぶ。
ヤバいと思った時にはサイレンのような泣き声が響き渡った。
泣き喚くトレスの姿に脳が凍りついたが、必死に幼い頃泣いた時にされた対応を引っ張り出しその中で最もソフトなモノを選んで実行した。
一度大きく息を吸い込んでから
「泣くなぁー!」
あたしのに怒声にますますトレスは泣き声を大きくする。
「アサヒ、泣いている子供を怒鳴っても仕方ないでしょう?」
呆れたように言われても、正直戸惑う。
幼少の頃、泣いたあたしに向けられた反応の一つだったからだ。
「アサヒさんが泣いた時にしてもらった事をすれば良いんですよ」
にっこりと笑ったアベルの言葉に頷いてから、レオンが机に置いていたタバコを取り加え指先で点火した。
肺に入った煙に数度咳き込んでからトレスの腕を取る。
そこでレオンとアベルに取り押さえられた。
「アサヒさんっ!そんなにトレス君が嫌いなんですか!」
「テメェがそんなに薄情だとは思わなかったぜ!」
同時に怒鳴られついでに非難めいた視線に困惑する。
「…ち、違うの?あたしが泣いた時はこうされたけど…」
2人の剣幕に戸惑ったような声が出た。
そんなあたしを見て2人は微かに顔を歪め
「悪い」「すみません、怒鳴ったりして…」
と、同時に謝られた。
2人の態度からあたしの行動がいかに逸脱したものだったか分かったが、どうして良いのかわからなかった。
とりあえず、間違えたなら謝罪するのが筋だろう。
怖い思いをしたに違いないのにしっかりと尼僧服を握ったまま泣いているトレスと再度屈む事で視線をあわせ、その頭を撫でる。
「怖い思いをさせて、ごめんなさい。」
ぐしぐしと未だ涙のあふれる目をこすり、トレスは涙声で答えた。
「否定(ねがてぃぶ)」
「怖くなかったの?トレスは強いね」
こくんと頷く様は、普段の姿から相当かけ離れていたが、愛らしいものだった。
「アサヒ君、研究所で育った君には難しいかもしれないけど、トレス君も懐いているし頼まれてくれないか?」
教授の言葉に反論しようとしたあたしに、カテリーナ様はにっこりと微笑んだ。
「アサヒ、これは命令です。」
貴女に言われたら、快諾するしかありませんよ。カテリーナ様…
トレスの修理が終わるまで面倒を任されたものの、何をしたら良いんだろう…?
わからない事があれば聞きにおいでと言われたものの、皆仕事中なワケで正直申し訳ない。
「トレスは何したい?」
膝の上でこちらを見つめる小さい存在に声をかける。
「…」
いや、そんな困惑した顔をされても…。
遊んであげればよいんですよ。とケイトに言われたものの子供の遊びがわからない。
「あたし…本当に何も知らないのね。」
改めて、自分の幼少期の異常さに気づく。
それに気づいても、何の役にもたたない。
そういえば、以前、子供にお菓子を与えている親を見た気がする。
「トレス、ここで待っててね。すぐに帰ってくるから。」
トレスを椅子に座らせ、席を立つ。
甘党大王のあの男なら何か持っているだろう…
「…なるほど、わかりました。で、肝心のトレス君は?」
キョロキョロと視線をさまよわせながらポケットからキャンディやらクッキーやらを取り出すアベルに、お礼を言ってから答える。
「部屋に置いてきた」
「は?今なんと?」
「いや、だから部屋に…」
「アサヒさん!ダメですよ。目を離したりしたら!」
「え、そうなの?」
「急いで戻りましょう!」
アベルの口調に、また不適切な事をしたのだと悟り後悔した。
それ以上に後悔したのは、扉を開けた時に小さい姿がいなかった瞬間だ。
「…トレス?」
「私、向こうを探してきます」
アベルが慌てて部屋を出て行く。
どうしよう…もし、もし何かあったら…嫌な事ばかりが頭をよぎる。
不安ばかり頭に浮かんで、何も思いつかない。
「シスターアサヒ、あの、大丈夫ですか?」
「エステル…」
「あたしも探しますから、」
「ありがとう…」
「シスターアサヒ、大丈夫。大丈夫です。」
根拠のない励ましが苦しい。
こんなに外は良い天気なのに、どうしてこんな…
中庭に目をやったところで泣き叫ぶ子供を肩に担いだ男の姿が目に入った。
「あっ、」
それに気づいたエステルも声をあげる。
「あたし、行ってきます」
隣でエステルがそう呟いたのが聞こえたが理解するより早く体が動いた。
「ちょ、シスターアサヒ…ここ、3階…いやあああぁ!」
窓の外へ飛び降りたあたしにエステルの悲鳴が届いた。
幼少期の遊びがこんな所で役立つなんて思わなかった。
研究員に無理強いされた遊びだったが、体は覚えていたのか軽やかな音と共に、草を踏む感触がした。
「ペテロ待ってっ!」
エステルの悲鳴のおかげで硬直していた男がハッとしたようにこちらを見る。
彼に担がれていたトレスは一瞬で笑顔になると短い手足をばたつかせた。
彼の肩からトレスを受け取り、ぎゅうっと抱きしめる。
「トレス、良かった。本当に良かった…」
ボロボロ泣きながら小さい体を抱きしめると、幼い仕草で頬に触れる。
「慰めてくれるの?」
トレスはニコニコと笑っている。
「ありがとう。トレス、大好き」
柔らかい頬にキスするとくすぐったそうにトレスは笑った。
「トレス君、不具合はないかい?」
「…肯定(ポジティヴ)」
教授の言葉に、感情を欠いた平坦な声が答える。
しばらく稼動を確かめるような動作をしてから最後に最優先データとして保存されたメモリを確認する。
『ありがとう。トレス、大好き』
データとして保存された優しい声と暖かい感触…
無意味なデータだ。
最優先順位をつけるほどの価値はない。
保管する必要もない。
そう思いながら、そのデータを削除する事は出来なかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 終
魔女として育ったたら、きっと虐待されただろうな。という偏見から生まれました。
アサヒさま、お付き合いありがとうございました。
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