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夢小説(トリブラ)
空と闇色(教授)

※主人公が、長生種設定です。



「うむ…む、こうか…いや、待てよ。こうかも知れん」

道のど真ん中でアサヒは呟いた。

闇を溶かしたような黒い瞳が一枚の紙を見つめている。

「…むぅ」

ぶつぶつと独り言を呟きながらアサヒは手の中にある紙をくるくると回した。

愛らしい顔立ちに情けない表情を浮かべ首を傾げる。

端から見ても、彼女が迷子である事は明らかだった。

「そもそも、余はどの道を通って来たのかや?」

地図を回しに回したせいで、完全に理解できなくなった彼女の地図は、現在逆さまになっている。

「…なんという様か。陛下に顔向け出来ぬ。」

ガックリと肩を落としたアサヒの背には、黒い影が落ちているように見えた。

哀れにも見える少女に対し、男は穏やかな声をかけた。

「失礼だが、レディ。その地図は逆さまではないかね?」

男の言葉に振り向いた少女は、まるで迷子が母親を見つけたような表情を浮かべた。







クツクツと可笑しそうに喉を鳴らした紳士に目の前の少女は怪訝そうな顔をする。

「ウィリアム、何か面白い事でもあるのかや?」小首を傾げた少女に紳士は穏やかな笑みを浮かべる。

「いや、キミと出会った日の事を思い出してね。」

その言葉を聞くなりアサヒの頬が朱に染まる。

「仕方なかろう!あの時、初めて外(アウター)に来たのじゃ。昔の話を持ち出すなど良い趣味とは言えぬぞ…」

最後の方は消え入るように呟きアサヒは、ウィリアムを睨んだ。

「今日も迷って逆さ地図を提示したのは、どこのレディだったかな?」

その言葉にアサヒは、俯く。

耳まで真っ赤にした少女にウィリアムは口元に笑みを浮かべた。

「ウィリアム、汝は余より遥かに年下ぞ…短生種(テラン)には、年上を敬う風習はないのかや。」

プイッと明後日の方向を見ながら呟かれた言葉にウィリアムは笑みを深めた。

「…ふむ、僕としたことがいささか礼儀を欠いていたようだねぇ。」

からかうようにも聞こえる言葉にアサヒは、少し眉を寄せた。

愛らしい顔立ちが、不愉快そうな色を宿す。

「さて、冗談はここまでにして…本題に入ろう。今回は、どんな用件かね?」

くわえたパイプに火を入れた紳士の問いかけにアサヒは、拗ねた子供のような声を出す。

「用がなければ会いに来てはいけないかや」

その言葉にウィリアムは実に複雑そうな顔をした。

ここが、剣の館の一室である事を考慮すれば彼女の問いに対する答えはイエスだ。

その心情を読み取ったアサヒの顔が曇る。

「…汝が悪いのじゃぞ。一向に会いにもこぬから…」

「…行きたい気持ちはあったのだが…どうも都合がつかなくてね。」

申し訳なさそうな男の言葉にアサヒは小さく鼻を鳴らす。

「汝が長生種(メトセラ)なればこのような気持ちにはならぬのだろうがな…あいにく、汝は脆弱な短生種ゆえいつ墓の下に入るかわからぬ。余は、墓に語りかける趣味はない。」

「…まぁ、随分と顔を合わせないうちに可愛気のない性格に歪んだものだねぇ…。以前は、『余を愛しておるか?ウィリアム』と語尾にハートマークまでつけて囁いてくれたものだが。」

嘆かわしそうに首を振った紳士にアサヒが真っ赤な顔で反論する。

「余はそのような戯れ言を口にした事などないわ!」

「おや、そうだったかね?」

惚けてみせた紳士にアサヒはわなわなと唇を震わせる。

「ウィリアム…汝は余に喧嘩を売っておるのかや?汝を殺す事など意図も容易いのじゃぞ!」

言葉の端々に憎悪を込めアサヒは呻く。

「まさか。キミに喧嘩を売るほど暇ではないよ。」

ふっと冷笑を浮かべてみせた男にアサヒの瞳に怒りの炎が宿る。

「ウィリアム…。汝は余が思うておったより随分と頭が悪いようじゃ…。」

「未だに逆さ地図を提示するキミに言われたくはないねぇ。」

「まだ言うか!」

真っ赤な顔で叫んだアサヒにウィリアムは眉をひそめる。

「アサヒ…、もう少し静かにしてくれないか?騒ぐには遅い時間だ。」

「汝が言わせておるのじゃ。」

ふんっと鼻を鳴らし、アサヒはチラッと古びた懐中時計を取り出し文字盤に目を走らせる。

確かに騒ぎ立てるには遅すぎる時間だ。

夜に愛された自分はまだしも、短生種である彼が活動するには相応しくない時間帯。

「ウィリアム…汝、そろそろ帰らねばならぬのではないか?」

心配そうに呟かれた言葉に、ウィリアムは肩をすくめる。

「この状態で帰宅出来ると思うかい?」
机に堆く積まれた書類に目をやり、アサヒはしゅんと俯いた。

「すまぬ…」

あぁ、どうして自分はこうなのだろう?

彼の顔が見れれば良かったハズなのに、仕事の邪魔ばかりして…これでは、どちらが年上なのかわからない。



「ウィリアム…余に何か出来る事はないかや?」

悩んだ末に呟けば目の前の紳士は、口元に笑みを浮かべる。

「アサヒ、キミにしか出来ない事をお願いしよう。」

その言葉にピクリとアサヒが反応をしめす。

「うむ、何でも言うが良い」

にんまりと笑ったアサヒにウィリアムは不敵な微笑を浮かべた。








「ウィリアム…手伝いとはこれかや?もっとこう…」

「いや、これも大切な事だ。」

普段は上から聞こえる声が下から聞こえる事に少し違和感を覚えながらアサヒは困ったように眉を寄せる。

「短生種の考えはよう分からぬ。狭くはないのか?」

「最近の僕のベッドはここでね。しかしながら、寝心地は最低だ。枕すらないのだから、当然と言えば当然だがね。枕があれば、多少寝心地も変わると思うのだよ。」

部屋のすみに置かれたソファーに座るアサヒの膝に頭を乗せたままウィリアムは答える。

「…ふむ、よう分からぬが、汝が良いなら構わぬ。ゆっくり休め」

黒褐色の髪をすいて呟けば青い瞳に穏やかな色が宿る。

「アサヒ、」

「何じゃ?」

「お休み」

「うむ」

目を閉じた男の髪を梳きながら、アサヒは穏やかな寝息をもらす顔を見つめる。

「ウィリアム…汝が死んだら余はどうなるのじゃろうな?墓に語りかける趣味はないが…汝の眠る土地で灰になるのは良いかも知れぬ。」

答えはない。

「…汝の瞳と同じ色の空は美しかろうな…。」

今は見る事も出来ない、空に思いをはせる。

「せめて…汝の色を見る事が出来たなら良かったのに…」

寂しそうに呟きアサヒは目を閉じた。

ゆっくりと時を刻む時計の音に耳を傾け、アサヒは深いまどろみの中に落ちていく。

アサヒが夢の世界に落ちた事を確認してから、ウィリアムはゆっくりと目をあけた。

青い瞳で、穏やかな寝息をたてる少女を見つめる。

「あぁ…確かに僕は幸せだね。キミと同じ闇色を常に纏い、キミのように穏やかな夜に包まれる。それも…この命が終わる刹那の瞬間まで。」

にこやかな笑みを浮かべウィリアムはゆっくりと再度目を閉じる。


穏やかな2つの寝息

夜明けは間近…






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


リクエストを頂きました長生種主人公夢。

話し方めちゃくちゃですがご容赦をっ!

リクエストを下さったアユミさんありがとうございました。

アサヒさん、お付き合いありがとうございます。


余談
今回は、AX側ではないのでウィリアムで通しました。

アポカリプス・ナウでカーヤとカテリーナの会話に
「博士の気位の高さは繊細さの裏返し、自分の優しさを他人に見せるのが苦手」
という部分をイメージして書きましたが、失敗しました。ごめんなさい。



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あきゅろす。
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