[通常モード] [URL送信]

俺様何様貴様様
5
「手伝ってくれたお礼です、一個好きなのどうぞ」

 本当は嫌なんだけど、我慢。
 白雪は言って、差し出す。

「いいの? それじゃあ……」

 ひとつ手にとって、半分に割る。

「はい、君も御苦労さま」

 さしだされたから、そのままぱくっと。
 和泉は少し驚いたが、やがて笑った。
 そして自分も残りを食べる。

「うまひ……」
「紗揺様のご実家のお菓子だね。これ一つ、最低でも500円くらいだったかなぁ」
「ごひゃ……」

 百円くらいだと思っていた白雪は、固まる。

「もう一つほしいなぁ、お礼」
「だ、だめ、残りは俺の!!」
「うん、こっちでいいよ」

 笑顔が近づいてきて、あ、これはと思った瞬間には唇が重なる。
 馬鹿みたいに開けていた口の中に遠慮なしに差し込まれる舌。
 和菓子の包があるから、手は動かせない。
 されるがまま。

「……おごちそうさまでした」
「手がないなら足があるぞ俺」
「え?」

 顔が離れて、気がついて、気がついたからにはやるしかない。
 白雪はどかっとそのまま蹴りを入れる。

「っ!!!」
「軽いのならまだしもしょっぱなからディープってどーよあんた!!」
「……痛い……ひどいなぁ……そんなに騒ぐと紗揺様、起きるよ」
「うあ……」

 そう言われてみると、騒ぎなんて気にしないほど爆睡中。
 余所見している間に復活した和泉は、ずいっとまた顔を近づけてくる。
 白雪は、とっさに身を引く。身を引いて、構える。

「もうしないよ」
「そう言う人ほどするんだよ」
「そうだね」

 和泉の手が伸びて、顎をつかむ。
 上を向かされて、じぃっと覗きこまれる。

「両手でもってる菓子、落せば反抗できるけど?」
「食いモン粗末にするのヤだ」
「そう」

 微笑みを凶悪だと感じる。
 また近づく顔。

「蹴るよ」
「蹴られないよ」

 睨んでも受け流される余裕が気持ち悪くて怖い。
 眉をひそめて、わざとらしく嫌そうな顔をしてやった。

「ブッサイク」
「そう思えるようにしてんだよ」

 ふ、と吐息がこぼれて、そしてこつりと額がくっつく。

「ごめんね、なんか甘そうだったから……ずっとこういうスキンシップばっかりだったから、うっかりしちゃった」
「はー?」
「君が、外からの子だって、わかってたけどわかってなかった、ごめん」
「よくわかんねーけど、謝ってんだよ、な」
「ごめんって言ってる」

 とりあえず離れろ、と白雪は言う。
 和泉は離れてくれた。するっと、なんの未練もないように。

「……別にもういいっす」
「よかった、ありがとう」

 ありがとう、許してくれて。
 もう一度そう言って、笑顔を向けてくる。
 眩しい眩しい、表も裏もない笑顔だった。

[前へ][次へ]

15/19ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!