俺様何様貴様様
2
「サユんち今度行きたい」
「別にいいけど」
「やった! 羊羹の家!!」
「本当に甘いもの好きだよなぁ」
「幸せになれんじゃん、なんかよくわかんないけど」
イライラしてても甘いもの食べればちょっと落ち着くだろ、と言ってどれにしようか迷っていた和菓子を一つ食べる。
「サユんとこの家の子になれば毎日こういうの食えるのか……」
「売れ残ったり失敗して店にだせねぇやつはな」
「羊羹……そうだ、羊羹つくれるならサユ作れよ」
「いやだ」
白雪はお手軽ぱっぱと作れるイメージしかない。
けれども紗揺のところで作る羊羹の量は小鍋一つレベルではなくて重労働。
「……お前、今度羊羹作れ、一度体験してみろ」
「やりたい!」
「やってくれ」
あの暑い部屋での重労働をかわってくれ。
紗揺は切実にそう思う。
「楽しみだ! うっは!」
「それも渡したし……寮に帰るか」
「あ、もう帰るんだ」
「眠いし疲れてるんだ。頭もぼーっとしてる」
鍋かき回して。
「俺もっとぐだぐだここでするのかと思ってた。てか膝枕でもしてやろうかー、この前足置きになってもらったし」
「いや、いい……頭がすって落とされたりしそうだし、ここよりベッドがいい」
「しないのにー。俺の膝枕なんて最初で最後かもしんないんだぞー」
にやにや。
する、絶対にする、と紗揺は思う。
なんだその、にやにや顔。
ちょっと不細工だ。
「……おかしいな」
「何が」
「なんでもない」
自分の気持ちの高揚を感じて、紗揺は少し戸惑う。
疲れて眠くて、けれどもテンションは高い。
気持ちが、ざわつき、嬉しく落ち着かない。
顔を見てから一層ひどくなるそれ。
「やっぱり、そうなんだろうなぁ……」
「……んー? 何?」
「なんでもない」
「さっきもなんでもないだったけど、本当何」
ずずいっと近くに寄ってくる顔。
怪訝そうに眉はひそまっている。
顔が近いなぁ、と思うのと、更なる眠気が同時。
これは眠くて、ボーっとして、妙な気分だったから不慮の事故だ。
不慮の事故に、する。
出来心。
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