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俺様何様貴様様
乱れてる1
 扉を開けるとそこには恐ろしい笑顔の壱が立っていました。
 思わず白雪は扉を閉めました。
 当然のように扉は勢いよく再び開く。


「しいいいいろおおおおおお」


 地に響くような、声。


「な、何いっちゃん! こ、怖いんですけどっ!!」
「どこ行ってたの」
「よ、四階」
「ふーんへー、僕が知らないとでも、思ってるの」


 いっちゃん怖い!
 白雪は思っても口に出さない。その前に、なんで知ってるのと思う。
 ただ四階に友人がいて『比嘉んとこからお前の同室のやつでてきたぜー!』と速攻で連絡をもらっただけなのだが。


「何もされなかった!?」
「コーヒー飲ませてもらっただけ」
「本当に?」
「ほ、本当に」


 詰め寄ってくる壱は鬼気迫るようだ。
 目が鋭い。


「……ならいいんだけど。なんかされそうになったら逃げるんだよ、逃げるんだよ」
「了解。でもいっちゃんが言うほど悪い奴じゃないと思うけど……」
「僕はあいつの昔のイメージが強いから。今は、丸くなった後なんだよ」


 その言葉は苦々しげ。
 ああ、これ以上聞いちゃダメだなと思わせる。
 きっと、話したいときが来れば話してくれるお決まりのパターンだろうなと思う。
 だから触れない。
 気にならないとは言えないけれども。


「ふーん、色々なんだな」
「うん、色々」
「よし、わかった」


 何、どうしたの、と壱は言う。
 白雪の行動は時々、読めない。


「俺、いっちゃんと慶の間のことは何も言わない。だからいっちゃんも俺と慶の間のことには何も言わないってことでよろしく」
「……いいけど……本当に、本当にああこれヤバイって思ったら、逃げるんだよ」
「なんかされそうになったら逃げるんだよな」
「そうそう、キスも駄目だからね」
「……俺結構いっぱい、いろんな奴とちゅーしてるけど、他の奴はいいの?」


 その言葉に壱はぶふっと吹き出す。


「え、え、ちょっと待って。待ちなさい白雪君。話がすごく違うことないけど違う方向に、飛んだ気がしますが」
「ああ、うん」


 どういうこと、と壱は問う。
 休みの間、始終一緒にいたわけでもない。
 何があったか、毎日事細かく話をしてるわけでもない。
 初めて知った事実。


「や、こっちきてから何回か迫られみたいな事があって、でー、まぁ妥協っつーか、なんつーか……そんなんで」


 大体話せば、友達で終わって何事もないんだけど、と付け加える。


「あと、ちゅー別に、いやじゃなかったから、同意ありなら良しってことで」


 結構っていうかかなりしてる。
 きっぱり。


「いっちゃーん」


 ふらり。
 がしっ!
 壱は倒れそうになり、そのまま壁につかまる。


「……シロってば、なんかなじみ始めてるね、ここに」
「や、全然まだまだ」
「……じゃあ、僕がしようっていったら、シロはキスするってこと?」
「い、いっちゃんとはない。絶対ない、本当に、そのー……恋愛感情がどっちも生まれない限り、ないよ」


 だって、いっちゃん女の子だし。
 男とはばしばしできても女の子とはできない恥じらい。
 謎だ、と壱は思う。
 でもだからこそなんだとも思う。
 そしてまだ信じてるのかと笑ってしまう。


「僕が男なら、するってこと?」
「それもわかんない。好きだから、できないかもなー。あれだ、淳とはうげぇ! とおんなじ感じ。あ、ものすごく違うけどなんかそんなイメージ」
「……よくわかんない。立って話すと長くなりそう……座ろう」


 ぐいっと引っ張られて共有スペースに。
 そこに座りなさいと命令。もちろん白雪はおとなしく従う。


「今まで誰としたの」
「いっぱい」
「名前」


 ばし、と目の前の机を叩いてきっと睨まれる。
 逆らっちゃダメだ!
 本能がそう言って、しぶしぶと白雪は名前を告げる。

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