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俺様何様貴様様
2
「九条!!」

 がたっと椅子から立ち上がり、壱も睨んで声を上げる。
「シロ、大丈夫!?」
 壱に視線だけで大丈夫と伝える。
 水をかけられたくらいで怒る度量の狭さじゃない。
 でも。

「水かけたのはべつにいい。俺、飯食ってる時に邪魔されんの嫌い。怒るよ」
「怒ればいい」

 にやにや。
 いやな笑い。
 造作は整っているのに卑屈だ。
 白雪はしとしと濡れた髪を引っ張る。

「俺は白峰白雪。お前も名乗れ」
「九条恭衡(くじょう・やすひら)」
「九条な、お前最悪だ、本当に」

 それ以上の会話はなく、その場を恭衡は去る。
 残すのは視線だけ。
 食堂からいなくなるのを確認して、白雪は席につく。
 そして何事もなかったかのように、食事の続き。

「……シロ?」
「ん?」
「拭かなくていい?」
「いいよ、大した量じゃないしすぐ乾く」

 もう忘れた、そんな軽さ。
 それからの食事はなんとなく無言。
 ただあたりはすぐに元の喧騒を取り戻す。

「おごちそうさまでした」

 先に食べ終わったのは壱。
 壱はじーっと、食べる様子を見つめる。

「……そんな見られてたら食いにくい」
「気にしないで」
「努める」

 と、言っても白雪も分量的にはあと少し。
 すぐ箸をおいて、ごちそうさんと手を合わせる。

「さっきの奴、クラスどこ」
「隣の8組」
「ありがと、次あったらバケツで水ぶっかけてやる」

 真顔の言葉に、壱は噴き出して笑う。
 やっぱり、水かけられたことに怒ってたんじゃないかと、笑う。

「あそこで水かけたなっていったら挑発のったことになるから、それヤだったんだ」
「そっか、なんとなくシロの性格、わかってきた」

 表面はさらっと流すのに、根はきっと深い。
 下手な事して深い溝でも作れば、きっと惨事になるだろう。

「俺本当に普通の子だから」

 さて、と言って立ち上がる。
 食堂にもう用はない。
 空いた食器は自分でさげる、これは当たり前。

「おばちゃんおいしかったー! これからもよろしくー!」

 下げ際に、作ってくれた人に感謝の言葉。
 これも大事、と笑って白雪は言う。
 当たり前のようにある食事に感謝するなんて小さい頃はしたが今ではしない壱には新鮮だった。
 釣られて一緒に、ありがとうの言葉。
 すっとなんだか、いい気分。

「よし、今日はもう寝よう。多分きっと、俺疲れてる」
「そうしなよ、荷解きはいつでもできる。僕も手伝うから」
「やや、手伝いの心は嬉しいけど自分でする」
「見られてまずいもの入ってるの?」
「入ってる」

 それって何、と聞いても内緒、と言わない。
 壱は部屋に帰るまで、延々と白雪にそれを聞きまわった。
 答えは返らないのだけれども。

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