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三十路の第一歩
11





『びっくりするじゃない。何、怒ってんの?』



あたしは、平静を装った。



内心、かなりビビってるんだけどね…



だって、ダンディー土方も顔負けな程、瞳孔開いちゃってますよ?




「名前は、逃げてばっかりじゃねーですか…」



いつもより、トーンが低い総悟の声で発っせられた言葉は、
あたしの心の奥を突き刺した。




『…そだね』




「旦那からも、真選組からも。何に怯えてるんですかィ?」



『怯えてる?こんなに自由気ままに、生きてるのに?』




「俺には、そうは見えねー時々…寂しそうな顔してるんですぜ?気付いてねーとは思いますがねィ」




そうなんだ…




しかも、そんな顔、見られてたなんて…




『あたしね、人と深く関わるのが嫌なのよ。
なんか…面倒くさいからさっ。』




「俺も、そうやって逃げてやした。人と関わるのは、面倒くせーって…
でも、やっぱり誰かに助けてもらわねーと、生きていけねーもんなんでさァ
人間ってヤツァ…」




あたしは、返す言葉が見つからず、ポツリポツリと、言葉を繋ぐ総悟の声を聞いていた。




「俺には姉上がいやしてねぇ…死んじまいやしたけど」




そう言って、こっちを見た総悟は、ニコリと笑った。



とても悲しそうな笑顔だった…






「両親がいなかった俺にとって、姉さんは親代わりでしてねィ……」







総悟は、お姉さんが亡くなるまでに起こった出来事を話してくれた。




結婚が決まって、江戸に出て来た事。


その婚約者が、犯罪者だった事。


お姉さんが、病を患っていて、命の燈が消えそうになっていた事。





「姉さんには、苦労ばかり掛けやしたからねィ。せめて、結婚とゆー幸せを味あわせたかったんでさァ。
例え相手が犯罪者だったとしても…」





その考えを否定して、犯罪者を捕まえに行った、土方さん。


土方さんとお姉さんは、江戸に出て来る迄、想い合っていたらしい。


でも、土方さんは、お姉さんを受け入れなかった。


それでも、お姉さんは待っていた。


土方さんのことを…




すべてを許せなかった総悟




「でも、全部、俺の為だったんでさァ。それを気付かせてくれたのは、旦那でしてねィ」




今までうつむいていた総悟が、顔を上げて、あたしに目を向けた。






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あきゅろす。
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