三十路の第一歩 7 「でぇ〜、何処に連れてかれんだぁ?」 『黙って着いて来なっ!』 「へいへい。」 銀さんは、あたしの隣を、原付を押しながら歩いている。 後ろに乗せてやるって言われたけど、断った。 原付になんかに乗ったりしたら、すぐに着いちゃう。 その場所に着くまでに、時間が欲しかった。 銀さんの気持ちに気付かない程、鈍くない。 でも、応えることは、出来ない。 違う…… 気持ちを抑えられなくなるのが 怖いんだ… 『着いたよ。』 「おい、此処って…」 こんな所に連れて来られるなんて、思ってもみなかったんだろう。 いつもの、死んだような魚の目は、真ん丸く見開かれていた。 『あたしが、ココに初めて足を踏み入れた場所。』 そう。 ここは、死を選んだあたしが、21世紀から、 どーゆー訳か、転がり落ちた、この世界の河原。 「なんでまた…?」 『へへっ。ちょっと、座ろっか?』 あたし達は、河原の土手に並んで腰を下ろした。 『ここはね…あたしがココへ来た、第一歩を踏み出した場所なの。』 「あぁ…気が付いたら、ここに居たっつーてたな。」 『そっちじゃない。 銀さんが、ココでの第一歩を踏み出さしてくれた… あの時、銀さんと出会ってなかったら…今度こそ死んでた。』 「オイオイ、物騒な事ゆーんじゃねーよ。それに、俺ぁ、何にもしちゃいねぇよ。踏み出す事を決めたのは名前じゃねーか。」 …バカ。 そーゆー、さり気ない優しさが、グッとくるんだってばっ! 『そだね…でも、あの時、銀さんが、あたしの手を引っ張ってくれたんだよ。 だから、ココで生きていこうって思ったんだよ。』 「なっ、何だっつーのっ?急に、そんな話しちゃって。アレか?誉めて落として楽しもうッテカ?!」 さすがに、勘が鋭いだけあって、銀さんは、話を逸らそうとしている。 『だから、これからも、手を引っ張ったり、背中を押してくれたりして欲しいんだ。もちろん、恩返しはするよ。 パフェおごったりとか、パフェおごったりとか、パフェおごったりとか……』 「パフェだけじゃねーかっ!!」 『銀さんとは、じじぃ、ばばぁになっても、そんな関係でいたい…』 ごめんね、銀さん。 あたし、ズルイよね…… [*前へ][次へ#] [戻る] |