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三十路の第一歩





「でぇ〜、何処に連れてかれんだぁ?」



『黙って着いて来なっ!』


「へいへい。」



銀さんは、あたしの隣を、原付を押しながら歩いている。



後ろに乗せてやるって言われたけど、断った。



原付になんかに乗ったりしたら、すぐに着いちゃう。



その場所に着くまでに、時間が欲しかった。



銀さんの気持ちに気付かない程、鈍くない。



でも、応えることは、出来ない。



違う……



気持ちを抑えられなくなるのが




怖いんだ…





『着いたよ。』



「おい、此処って…」



こんな所に連れて来られるなんて、思ってもみなかったんだろう。



いつもの、死んだような魚の目は、真ん丸く見開かれていた。



『あたしが、ココに初めて足を踏み入れた場所。』



そう。
ここは、死を選んだあたしが、21世紀から、
どーゆー訳か、転がり落ちた、この世界の河原。



「なんでまた…?」



『へへっ。ちょっと、座ろっか?』



あたし達は、河原の土手に並んで腰を下ろした。



『ここはね…あたしがココへ来た、第一歩を踏み出した場所なの。』



「あぁ…気が付いたら、ここに居たっつーてたな。」


『そっちじゃない。
銀さんが、ココでの第一歩を踏み出さしてくれた…
あの時、銀さんと出会ってなかったら…今度こそ死んでた。』



「オイオイ、物騒な事ゆーんじゃねーよ。それに、俺ぁ、何にもしちゃいねぇよ。踏み出す事を決めたのは名前じゃねーか。」



…バカ。


そーゆー、さり気ない優しさが、グッとくるんだってばっ!



『そだね…でも、あの時、銀さんが、あたしの手を引っ張ってくれたんだよ。
だから、ココで生きていこうって思ったんだよ。』



「なっ、何だっつーのっ?急に、そんな話しちゃって。アレか?誉めて落として楽しもうッテカ?!」



さすがに、勘が鋭いだけあって、銀さんは、話を逸らそうとしている。



『だから、これからも、手を引っ張ったり、背中を押してくれたりして欲しいんだ。もちろん、恩返しはするよ。
パフェおごったりとか、パフェおごったりとか、パフェおごったりとか……』



「パフェだけじゃねーかっ!!」



『銀さんとは、じじぃ、ばばぁになっても、そんな関係でいたい…』



ごめんね、銀さん。



あたし、ズルイよね……





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