[通常モード] [URL送信]

紫陽花
1

時が止まったかのような空間。

誰もが息を詰め、【あの御方】を凝視する。
俺も例外ではなく固まったまま目が離せない。

整いすぎた美貌は冷たく、威圧的で。

無感動な目が教室を見渡した。

「…っ、」

息が詰まり、手が震え、足元が定まらない。

跪くものの前に立つ不可侵の王が、そこに確かにいた。


「……けいちゃん?どうしたの?」

カタリ、と椅子から立ち上がった花宮がぱたぱたと近寄っていく。
誰も寄せ付けないオーラを放つ【あの御方】に、きっと唯一近づける存在。

バカな俺でもそれくらいわかった。


「どこか、いたいの…?」

心配そうに見上げ、抱きしめるように手を伸ばす花宮。



「…じ、う。」

瞬間。
ふっ、と空気が揺れた。

あざやかに反転する世界。


花宮の声を、姿を、認めた王がやわらかく金色の瞳をすがめたのだ。

その姿はもう、後光が射しているのかと思うほど神々しい。


「慈雨。…大丈夫。」

そっと花宮の頭を撫でる姿が纏うのは、さっきまでとは正反対の空気。

そして、他の誰に向けられることも無いだろう微笑。


ようやく息をついた俺たちは、そんな王の姿にまたもや呼吸を忘れた。



[*前へ]

23/23ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!