紫陽花 1 時が止まったかのような空間。 誰もが息を詰め、【あの御方】を凝視する。 俺も例外ではなく固まったまま目が離せない。 整いすぎた美貌は冷たく、威圧的で。 無感動な目が教室を見渡した。 「…っ、」 息が詰まり、手が震え、足元が定まらない。 跪くものの前に立つ不可侵の王が、そこに確かにいた。 「……けいちゃん?どうしたの?」 カタリ、と椅子から立ち上がった花宮がぱたぱたと近寄っていく。 誰も寄せ付けないオーラを放つ【あの御方】に、きっと唯一近づける存在。 バカな俺でもそれくらいわかった。 「どこか、いたいの…?」 心配そうに見上げ、抱きしめるように手を伸ばす花宮。 「…じ、う。」 瞬間。 ふっ、と空気が揺れた。 あざやかに反転する世界。 花宮の声を、姿を、認めた王がやわらかく金色の瞳をすがめたのだ。 その姿はもう、後光が射しているのかと思うほど神々しい。 「慈雨。…大丈夫。」 そっと花宮の頭を撫でる姿が纏うのは、さっきまでとは正反対の空気。 そして、他の誰に向けられることも無いだろう微笑。 ようやく息をついた俺たちは、そんな王の姿にまたもや呼吸を忘れた。 [*前へ] [戻る] |