紫陽花
全てが
恵side
いつも思っている。
「……恵ちゃんは、嫌い?」
見上げてくる黒目がちな瞳が綺麗だと。
なんとあざやかな黒なのだろうかと。
「いや、嫌いではないよ。」
周りの人間も、眼差しも、その感情も。
そう答えれば少し安堵したように息をつく姿が、ゆるむ目元が、
どうしようもなく…愛おしい。
「そっか、よかった…。」
確かに嫌いではない。
でもね、慈雨。
大切なことを忘れてるよ?
【嫌い】の反対側にいるのがいつも【好き】だとは限らないんだよ。
別に他人がどう在ろうとも構わない。
慈雨を傷つけないなら。彼の害とならないなら。
良くも悪くも、彼が関わらぬものにはそれほどの感情が動かないのだ。
つまり溢れかえった周囲の他者など好悪の対象にもならないということ。
「慈雨がこのままを望むのなら、それでいい。」
世界でひとり、俺の目にあざやかに飛び込む存在。
その、何より大切な君の望みならば。
閉じ込めても
縛り付けても
周りを壊しても
きっと君は悲しむだろう。
だから全てを俺のものになどとは思わない。
いつも思うのは。
せめて俺の全てが、ただひとりのためだけに在れたらと。
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