紫陽花
3
窓から離れ、机上に放られた鞄を引っつかむ。それから優しい彼に、にこりと笑んで
「じゃあ恵ちゃん、またあしたーっ。」
元気よく、ご挨拶。
そのまま走り出……
「………慈雨、」
だ…出せなかった。
強く鞄を掴む手を辿ると……けいちゃん。
「ぇ、…どした?」
首を傾げて見上げる。
ってゆーか、この身長差ってかなり悔しいな。
いや、僕が小さいんじゃなくて恵ちゃんが高すぎるんだけど。
「…傘だろう?
大丈夫、傘ならあるから。」
……うん?
「かさがある?…ぇ、…二本?」
びっくりしてると、蜂蜜色の瞳が柔らかく細まった。
「……ほら。」
恵ちゃんが、廊下の傘立てを指す。そんな些細な動作も洗練されて流れるようだった。
「…あ、」
その指の先をたどれば…綺麗に立てられた、二本の傘。
それは折れたビニール傘や持ち主不明らしい傘の中にきちんと並んで、使われるのを待ってるみたいだった。
ひとつは、青空みたいな傘。
ひとつは、夜空のような傘。
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