紫陽花
4
一目で、恵ちゃんの指す傘がどれかわかった。
「……かさ、」
「…あるだろう?」
昔っからだけどさ。
ほんと恵ちゃんって準備良すぎだよ。
完璧じゃんか。
「慈雨、帰ろうか。」
「…うん。」
あかるい空色の傘を僕に。
深い夜色の傘を自分に。
…ーカツン、カツン…
あ、やばい。
警備員さんの足音が聞こえてきた。
僕らはさっと電気を消し、教室を出る。
廊下は暗くて誰もいなかった。
雨のせいか、ちょっぴり寒い。
うん、…ひとりじゃなくてよかったかも。
「雨がひどいな…チーズケーキなら家にあるから、ケーキ屋に寄るのはまたにしないか?」
ん?
…チーズケーキ?
あぁっ、忘れてた…!!
「え、チーズケーキ…恵ちゃん家にあるの!?」
ぱっと顔を上げれば
「あぁ。」
暗くても、優しく微笑む顔が見えた気がした。
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