紫陽花
5
靴箱を抜け、階段を上ろうとすると踊り場で手摺りにもたれた恵ちゃんがいた。
目が伏せられ、寝ているようにも見える。
珍しいなぁ…周りに誰もいないなんて。
彼の確かな存在感は、必ず目にとまるのだけれど。
「……けいちゃん?」
近づいて小声で呼べば、綺麗な琥珀色の瞳がすぅっと開いた。
「…慈雨、」
「ん?」
「…やはり、嫌いか?」
ーーーーはい?
突然、きらいって?
ちょっ、優しいのに声が冷たいよ、恵ちゃん。
…それって一番怖いんだよ?
「……ぇ、と?なにが?」
「先程の、」
あぁ、と納得した。
恵ちゃんの言葉を遮るように曖昧に笑ってみせる。
「嫌いなわけじゃないよ、ただ…こう、どうしても慣れないというか居心地が悪いからさ、」
本当だよ。
恵ちゃんへの挨拶も視線も、その持ち主達も、嫌いなわけじゃない。
居心地悪いから逃げてるだけ。
でも、それが彼にこんな目をさせるなら……、嫌だなぁ。
恵ちゃんの瞳は綺麗だから。
冷たい、拒絶の色を湛えているのはもったいないでしょ?
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