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紫陽花
1


「けーぃちゃんっ、お待たせー!!」

ぱたぱたと走り寄れば、いつもと変わらず塀に体をあずけていた彼は少しだけ笑った。

……うわぁー、まぶしっ!!
恵ちゃんはどれほど自分の微笑みが貴重か知らないんだろうなぁ…

学園の人が見たら卒倒しそうだなんて考えて、それが普通に起こり得る学校であることに頭が痛くなった。

…普通じゃないよね。


「早く行かなきゃ、電車に遅れるよっ、」

急ごうよと袖を引けばすっと恵ちゃんの手が差し出された。

…やっぱ、

「……走るのは…駄目?」
「駄目。」

断固とした声に仕方なく従っておとなしく鞄を渡した。仕方なく、だよ。
こんな時の恵ちゃんには誰も逆らえないんだからさ、きっと。



「…すっごく恥ずかしいんだけど。」
拗ねて、ふぅっと頬を膨らませる。


なんでかって…?

そりゃあ今…恵ちゃんの自転車の後ろに乗って、二人乗りしてるから。学校の子なら泣いて喜ぶような席だけど…、僕には恥ずかしすぎるって。


「…恵ちゃんー?僕が漕ぐのはー…?」

「駄目、というより…慈雨には無理だろ。たどり着かない。」

そ、即答?

「…えぇー、それくらい出来るって!!」

むきになって言えば器用にも前を見つめたままの恵ちゃんに頭を撫でられた。

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