紫陽花
2
恵ちゃんはどこにも行かない。
どこにだって行けるのに、行かない。
だからこそ、不安だった。
恵ちゃんは優しいから。
彼に頼りっぱなしの僕を放っておけなくて、他所へ行きたくても行けないんじゃないか…って思いだしたら止まらなくて。
だけど。
…その通りだ、って言われるのが怖くて恵ちゃんには言えなかった。
でも恵ちゃんが今もここにいることは、少なからず僕にも関係あるんじゃないかなって思うんだ。
ただの自惚れかもしれないし、勘違いかもしれない。
でも、何もないならずっと同じとこに通える訳がない。
一回しか会ったことはないけど…恵ちゃんの御祖母様は並大抵の理由じゃ、普通の学校に大事な後継ぎを通わせるなんてことを許してくれないだろうから。
いくら専属家庭教師を雇っていても、もっと名のある学校に恵ちゃんを通わせたいって思ってるはず。
昔から大人びてた恵ちゃんの考えなんて、僕にはちっとも分からないけど。
大切だから。
たったひとりの幼なじみだから。
「……負担にはなりたくないなぁ…。」
彼の可能性をもし僕がつんでしまうなら、それは悲しい。
小さな声とため息は、部屋の空気を微かにふるわせ、まだ明けない空にひっそりと溶けていった。
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