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若者たち
22
「いっずみぃっ!!みてみてみてっ!!俺今回赤点ないのっ!!こんなん初めて〜っ!!」

ものっすごい笑顔で点数表をヒラヒラしながら俺の席へと駆け寄ってくるのはいつものウザい男。ほらーっと言いながら細長い紙切れを目の前につき出してくる・・・・・・・・あ、数学負けてる。

「…良かったな。次郎に礼言っとけよ」

「もー言った!今日どっか寄って帰ろっ!!」

「・・・ヤダ」

「なんでっ!?いーじゃんテストも終わって気分もスッキリじゃんっ!!あーそぼっ」

俺だってテスト明けぐらいは発散してーよ・・・最近はこいつが近寄ってきても別に平気…っつーか慣れた?学校では次郎の次に・・・いや、もう同じくらいかもしんねー…それくらい一緒に過ごしてりゃイヤでも慣れる。かなり不本意だけどなっ!!

でも、やっぱりいろいろと思うとこもあるんだよなー・・・まして相手がこの藤原恵介だと。今日は、少しだけそれを思い知らされてしまった。




「木村くんって最近恵介と仲良いよねー」

「…へっ?」

化学実験室、出席番号が俺の次で実験のときだけ同じ班の幸田さんに突然言われた。派手グループに属してて、その女子たちの中でも割とリーダー格っぽい。巻き毛で化粧濃い明らかなギャル系で俺はあんまり近寄りたくないタイプ。

「いやー・・・仲良いわけじゃねーけど」

「まー恵介が勝手にかまってんのは見てて分かってんだけどさっごめんねー」

・・・・・・なんだ?なんか知らんけどイラッときた。別にあんたに謝られなくたっていーんですけど。むしろあいつ自身からいつも迷惑かけてスミマセンって一言ほしいわ。
肘をついてプリントにグリグリと落書きしながら笑ってる彼女に少し眉を寄せてしまった。

「みんな寂しがってんだよね。恵介が最近全然遊んでくんなーいってさ」

だからなんだよ。しらねーよそっちの奴らのことなんか。

「彼女もつくんないしさー女遊びもぱったりだし」

あいつ・・・やっぱ女遊びとか普通にやってたんか。ほんっとしょーもないヤツだな。

「恵介狙いの子とか、近寄っても軽くあしらわれるーって怒ってた」

怒んのかよ・・・ヘコむとか泣くとかなら分かるけどさぁ。あいつのまわりの女ってこえー。

「でね・・・・・木村くん聞いてる?」

「あっハイ、聞いてます」

思わず敬語になってしまった・・・だって、なんか幸田さんの目が恐かったんだよね。目の周り黒いしまつ毛すっげぇ長いから、凝視されるとマジで恐い。もともと美人そうだからそこまでしなくても良いのに…
まぁそんな顔されたらなんとなく分かる。この子は藤原狙いなわけね・・・そんで、あいつにじゃなくて何故か俺に対してお怒りなわけですね。

「・・・・でね、木村くんから恵介に言ってほしいんだけど」

「なにを?」

「たまにはアタシたちの相手もしてって。ってゆーかアタシの」

言うとあははっと笑って髪の毛をいじくり出した。なんだこの女・・・うぜー。好きなら自分からいけっつーの本当に好きなんかよ。所詮顔いいから一緒に連れてたいだけなんじゃねーのか…もっと中身見ろよ趣味わりーな。
でも・・・幸田さんみたいな子は他にもいっぱいいるんだろーなぁ…やだな。俺敵意とか向けられ慣れてないんだよなー・・・・・それに、もしかしたら本気で藤原のこと好きだっていう純粋な子もいるかも。そしたら俺が藤原に接近するタイミング奪っちゃったりしてるんだろーなー・・・なんか悪いよな。

「ねー木村くんお願いねー」

隣からなんか言ってる高い声はとりあえず聞こえないふりをして、珍しく藤原について考えこんでしまった。




「えっ!?やだよ意味わっかんねーしっ!!」

だよなーお前ならそう言うと思ったよ。幸田さんの言ってたことをチラリと藤原に言ってみた。ちなみに、今前に俺が拉致られたファミレスに来ている。ドリンクバーだけ頼んでぐだぐだやってる・・・・・なんか普通の友達みてーじゃね?無駄に。

「なんでイヤなんだよ。お前女の子大好きだろ」

「別に・・・・大好きじゃないし」

ほぉー――――・・・まぁ、今更過去のあの事を出すのは俺も男として小さいと思うから何も言わないでおいてやる。

「あんまり俺の相手してるとさ、彼女できねーぞ?顔はいいんだからよ」

「・・・・・・・・・・泉水、俺のことカッコイイって思うんだ?」

アイスコーヒーをストローで吸いながら上目づかいでこちらを見てくる。あー…ストロー噛んでるよ…どこまでもガキくせぇなー。

「まぁ・・・カッコイイんじゃねーの」

ムカつくけど・・・顔だけは規格外なんだよねコイツ。神様ってほんと不公平だ。
そう言ってやると、満足気に笑ってコーヒーを一気に飲み干した。最後のズズッという音がやけに目立つ。

「うれしー♪泉水もかっこいーよっ」

「てめーイヤミかっ!?・・・・・まぁ俺ばっかり相手してんなって話。お前は人気者だからな」

「・・・・俺が誰と一緒にいよーと俺の勝手だし」

それは正論だな。でもなぁー・・・

「俺が泉水と一緒にいたいって思ってるからそーしてるだけだし。俺ずっと一緒にいるって言ったっしょ?楽しくさせるって」

あぁ、言ったな。えらいでっかい声で・・・すっげー恥ずかしかったよ。っつーか、こいつは・・・

「なんでそんなに俺に執着すんの?」

「・・・・・えっ?」

藤原が目を見開いて俺を見つめる・・・・と思ったら急に眼が泳ぎ出した。

「俺ってふっつーじゃん。こんなヤツいっぱいいんじゃんか。なんで俺?」

「え?…んー―――――・・・・それはだねぇ…うん…」

なんだよゴニョゴニョしやがって。なんか理由があると見たね。

「言えよ。言わないと一生口きかねー」

「んなっ!!??それはイヤだっ!!」

「じゃあ言え」

あーこいつ相手だとなんか上から目線になれて気持ちいいわ。いっつもこの役は次郎の役だからなぁ。俺が腕を組んでふんぞり返っていると、藤原は未だにもじもじしながら何かブツブツと言っている。

「あ・・・・あのですねー・・・」

「んー?」



「俺が泉水と一緒にいたいのはー――――・・・その、あれだよ…泉水のことが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スキだからです」



・・・はぁ?何言ってんだコイツ。

「そうか・・・で?」


「・・・・・・・・・・・はっ!?」

俯いていた顔をいきなり上げる。なんか・・・異常に顔が赤いんだけどコイツ…しかも涙目。熱でもあんじゃねーの。

「お前が俺のこと好きなのはイヤでも知ってるっつーの。無駄に近寄ってくんだから・・・なんでかって聞いてんの」

俺もカルピスを一気に飲み干す。次はオレンジジュースとミックスしよっかなぁ。
空になった藤原のグラスも取りドリンクバーへ行こうと席を立とうとすると、藤原が肩を震わせ始めた。・・・・・と思ったら、急に両手で顔を覆って…

「こ・・・・これ以上は勘弁してくださいっ!!」

「はぁっ!?・・・って、おい藤原っ!?」

藤原は顔を覆ったまま、席を立ちトイレの方へと走って行ってしまった・・・・大丈夫かアイツ。
呆然とトイレの入り口を眺めていると、

「泉水のきちくー―――――っ!!!!!」

という叫び声が聞こえてきた・・・・・意味わかんねーし。正真正銘のバカだな…ってか店中に響いたんだけど…ここ来づらくなんだろ。
思わずため息をついてしまったけど、覆った顔の隙間から見えた耳が真っ赤だったのを思い出してなんだか変な笑いがこみ上げてきてしまった。


まぁあいつが誰と一緒にいようが確かにあいつの勝手だし、好きにさせてもいっか。
そう思ってしまった俺は、藤原と一緒にいるのがほんのちょっとだけ楽しくなってきてしまったことに気づいて、なんだが胸が少しむず痒くなった。

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あきゅろす。
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