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若者たち
20
「おじゃましまぁすー」

「お、案外広いじゃん。狭山ーここ喫煙可ぁ?」

「不可。ベランダ行け」

ちぇーと呟きながらベランダへ向かう吉岡。煙草吸うのか…地味にショックなんだけど。

金曜日の学校が終わり、俺たちは予定通り来週の中間テストの為の『合宿』を行うべく次郎の部屋へと来ている。俺は学校からそのままここに来たけど、二人は一度帰ってから次郎の家に集合した。まさか本当にこの二人も来るとは・・・・つーか8畳の部屋に男4人ってどーなの?ムサいわっ。
いつもと違う雰囲気に戸惑いながらも、俺は定位置のベッドの横にあるクッションに座って二人が入ってくるのを見ていた。でっかいクリーム色のビーズクッションで、俺の上半身なら簡単に包み込んじゃうヤツ。ちょー気持ち良くて、次郎はほとんど使わないから俺専用になっちゃってんだよね。

次郎は二人を部屋へ通すと、キッチンへ向かい冷蔵庫の中を見てなにか考え込んでいる様子だ。今日は何すんだろーなー・・・人数多いから大変だろうに。じゃー手伝えって?俺が手伝ったら逆に邪魔だってぶん殴られるんだよねーいつも。次郎から目を離すと、ほけっとつっ立って部屋をキョロキョロ見回している藤原が目に入る・・・やめろよガキじゃないんだから見苦しい…

「なにやってんだよ。座れば?」

「んー・・・なんか自分の家みたいな言い方するんだね」

じとーっとイヤな目で俺を見ながら隣に座ってくる。なんでそこなんだよっ?他にスペースあるだろーがっ!色々言ってやりたかったが、かまったら逆に喜ばせるのは学習済みだ・・・俺は何も言わずにテレビをつけ、ゲーム機の電源ボタンに手を伸ばしたんだが・・・

「おい、いず…お前今日は何しにここに来たのか忘れたんじゃねーだろーなぁ?」

ピタリと俺の動きが止まる・・・ってか恐くて動けません。背中におっそろしいオーラを感じるんですけどっ!ご飯の準備してるんじゃなかったんですかジローさんっ!?

「藤原もだぞ・・・お前ら今回の趣旨忘れんなよ」

「・・・・・はぁーい」

素直だな・・・まぁ次郎に睨まれりゃ言うこと聞かねーわけにはいかないのはすごく良く分かる。腰に手を当て凶悪な顔で俺ら二人を見下ろす姿はまるで鬼か悪魔…いやもう悪の大王だよ・・・・エプロンしてるけどな。

「お前ら二人はゲームも漫画も禁止だからな」

「えっ!?吉岡はっ!?」

「ヒロは頭良いんだよー…あいつも今日は教える側」

しょぼくれ顔であぐらをかきながら、未だにベランダでぷかぷか煙草をふかす吉岡を見やる藤原。マジかよー・・・俺と藤原が同類な感じがしてなんか…なんかヤダ。

「とりあえずー…飯すぐ出来るからそこ片づけてろ」

「えっ!?早っ!!今日なに?」

「人数多いから鍋」

鍋っ!!だから準備早かったのか!すっげー季節はずれだけどいいねっ!!俺大好きだっ!!




「・・・・って、何でキムチ鍋なんだよっ!!??」

「どーしたんだよ木村?ちょーウマイじゃん・・・あ、でっけぇネギ発見!大好きなんだよなー俺」

俺の向かいに座り額にじんわり汗をかきながら吉岡が笑いかけてくる。ご飯大盛りの茶碗を片手に鍋をつついている・・・・すっげウマそうな顔して食うのな。俺だって鍋は大好きだけどキムチって…俺辛いのダメなんですよ。食べれないことないけど・・・汗めっちゃかくし舌痛くなるし、ウ〜ッッ!ってなるじゃん!!っつーか次郎知ってるはずなんですけど?

「次郎のバカッ!!意地悪っ!!」

「あ?文句あるなら食うな」

「食うっ!食いますけど!!」

食わなきゃこれからの勉強地獄に耐えらんないしっ!!くっそ〜・・・と俺が何から食べようか悩んでいると、藤原が隣でイソイソと鍋から豚肉を取り出しふぅふぅと息を吹きかけている・・・つくづく平和な男だな。呆れ顔で見ている俺に気づくと、ニコニコ笑いながら肉を持った箸を俺の顔に近づけてきた。

「泉水ー俺が食べさせてあげようか?お肉でいい?はい、あーん♪」

「はぁっ!?お前な・・・むぐっ」

もぐもぐもぐもぐ・・・・・ごっくん。
こいつ…たまに強引になるのなんとかなんないのか・・・。

「泉水おいしー?」

次郎が作ったもんがまずいわけねーだろ。でも・・・・・・・・・・辛っ!!
やべー辛いっ!超辛いっ!!次郎今日加減してないよっ!?なんでこいつら平気な面して食ってられんのっ!?イケメンは味覚がマヒしちゃったりしてんのかっ!?一口食っただけなのに体がどんどん熱くなってきてんですけどっ!!

「み・・・・水っ・・・」

口を押さえながら藤原の前に置いてあるペットボトルに手を伸ばすと、いきなりヤツに手首を掴まれて阻止される・・・・・てっめぇっ!!俺は今口の中が火の海なんですよっ!!超水を欲してるんですよっ!!

「泉水・・・・・・」

なんだよっ!?声にならない俺は手首を掴まれたままヤツを睨みつける。しびれを切らして文句を言ってやろうとした瞬間…

「その顔たまんねー・・・・・もっと食べな?」

「っ!?」

今度は問答無用で俺の口に豆腐が入ってきた。
・・・・・・こいつ後で絶対殺すっ!マジで容赦しねーっ!!




辛さに悶え苦しむ俺を、愛おしそうに見つめる藤原。
その藤原を見て、俺に同情の顔を向ける吉岡。
そんな俺たちを見て、でっかいため息をつく次郎。
必死に水を飲む俺は、3人のその様子に気づくことはなかった。





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