《E》
とんとんとん…。
「…はぁ…、」
今、俺は晩御飯作り中。
「きゃははっ」
聞き覚えのない、幼い笑い声にまな板から顔をあげる。
「ねぇ、先生っ!お花、好き?」
『ん─?好きだよ─♪お花、綺麗で可愛いからねっ』
リビングでは、先生の膝の上に乗っかって 先生とじゃれあってる悠一。
いつもなら、ご飯作ってる時も"紅、こーうっ"ってうるさいのに、
今日は違う。
先生は子供に付きっきりだ。今だって俺の方なんかみてくれてない。
そりゃ。
子供を預かってる訳だし…
子供に付きっきりならなきゃいけないのもわかってる…、
けど…っ
「………」
どうしてだろう。
同じ家の中に居るのに、
凄く寂しいのは。
俺だけ、一人な気がする…。
そして、包丁を使っているのに違うことを考えていたからだろうか。
いつもと違う切り方をして。
「……ぎゃッ…!」
突然左の人差し指に鋭い痛みが走って。
…やべっ、
指を切ってしまった。
傷は結構深い様で途端に血が溢れてくる。
『紅…!!?』
俺の変な声に気づいたのか、先生が悠一を膝の上から退けて、駆け寄って来てくれる。
とりあえず、このままでは食材を汚してしまうので、急いで近くにあった布巾で指を覆った。
『紅ッどした…!!?』
「あ─…ちょっと指切っちゃっただけ…」
『…平気!!?どれ…見せて…、』
俺の指を包んでいた布巾を先生がゆっくりと外すと、先程のように、切り口から血が溢れ出していた。
『うぁ─っ…深そうだなぁ…平気?病院…』
「え!?やッ…平気!!大丈夫!!すぐ止まるよ」
猛烈な拒否に、
俺の顔を覗き込んだ、先生の綺麗な瞳が少し揺らいだけど。
病院、嫌いなんだ…俺。
『そう…?なら、ちゃんと消毒しないとね!』
先生は困ったような顔でにっこりと笑った。
*******
『うん!我ながら上出来☆』
きゅっと指に巻かれた包帯の端と端を結んで。
血も大分止まってきた。
今は心臓が指にもあるみたいに、どくどく脈を打っているけれど。
とりあえず、病院に行くようなことにならなくてよかった。
『じゃあ、晩御飯はオレが作るから♪』
「…あ…ごめんね…」
『そんな謝んなよっ!
いーのいーのッ』
と、俺を励まして、おでこにキスをくれた。
『じゃあ紅は、ユーイチの面倒見ててあげてね?』
先生は、俺の頭をガシガシと撫でてから、
救急箱を片付けてキッチンに向かってしまった。
「…………」
「………」
そっと悠一の顔を覗き込むと、さっきまで笑っていたのが嘘のように無表情でソファーに座っている。
俺はとりあえず、
「…つか…お前っていくつなの?」
と、聞いてみた。
「………」
む…無視か…
なんなんだよコイツ…
「…おい、お前いくつなんだよ?」
「…………」
超☆ムカつく!!
さっきまで機嫌良さげにしてやがったのに…。
「………。はぁ…、センセー、コイツの歳いくつかしってる─?」
『ん─、知らないや。ユーイチ、いくつなの?』
「9さい」
コイツ…ッ
先生の質問には即答かよ…!!俺こいつになんかしたか!?嫌われる様なことしたか!?
『へぇ。9歳だってさぁ』
「み…みたいですね…」
結局、そのあと先生がご飯を作り終えてリビングに戻ってくるまで 悠一との会話は全くなかった。
.
【*前へ】【次へ#】
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!