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小説
秋の夜祭り(母娘)




カランコロンと、黒塗りの下駄が楽しそうな音を奏でる。
その音を夜道に響かせながら、手を繋いだサクモとカカシが月の明かりの下をゆっくりと歩いていった。




秋の夜祭り




「はい、おいで〜カカシ」

浴衣の裾を手で纏めながらサクモがすっとしゃがみ込んだ。
両手を伸ばすと、ぴたっと足を止めたカカシが嬉しそうに胸の中に飛び込んでくる。
その小さな身体を掬うように抱き上げて、サクモは赤提灯の揺れる石段を登り始めた。

今日は木ノ葉神社の年に一度の秋祭りだ。
去年は任務が入ってしまって来ることができなかったが、今年こそはカカシを連れて来ようとサクモは決めていた。

活気に息づく石畳に鮮やかな明かり、カカシにとって初めてのお祭りだ。

新しく卸した揃いの浴衣が夜風に踊る。
紺の布地を飾る紅の金魚が、まるでふたりの動きに合わせて泳いでいるかように息づいて見えた。

「すごい、ねー」
「そうね〜人がたくさんね」

サクモの肩に顎をのせたカカシが物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回している。
そんなカカシの髪をそっと梳きながら、サクモは柔らかな声音で尋ねた。

「カカシ、やりたいことある?それとも何か食べたい?」
「んー…あ、きんぎょ!!」
「金魚?」

カカシの視線の先には屋台の白熱灯の下に泳ぐ金魚の群れ。
それを指差したカカシは大きな黒い瞳を輝かせて、サクモの浴衣の金魚をぱふぱふと叩いた。

「おかあさん、おそろい、ね!」

まるで1番に気が付いたのは自分だと言わんばかりに、カカシが得意げな笑顔を浮かべる。
その愛らしい姿にサクモは目を細めて微笑んだ。
そして、とんとカカシの浴衣の金魚をつつく。

「カカシもお揃いよ?」
「おれも?」
「そう、カカシも」

サクモの言葉に目を瞬かせたカカシは、数瞬の間をおいて口を開いた。

「じゃあ、おれとおかあさんもおそろいなの?」
「そうよ」
「おそろい、うれしい、ね!」

舌足らずに紡がれた「嬉しい」という単語にきゅうと胸を締め付けられるような心地がして、サクモはカカシを抱く腕に力を込めた。

「うん、とーっても嬉しいね」
「うん!」

本当に嬉しそうにはしゃぎ声を上げたカカシが、サクモの首にしがみつく。
赤提灯の灯かりに、ふたりの銀髪が星屑のように瞬いた。

「これは…サクモさん?」
「あら、こんばんは〜」

ふたりの声を聞き付けたのか、ひとつの屋台からふくよかな男性が顔を覗かせる。

この柔らかな印象の巨漢は秋道の家人だろう。
何よりチョウザと一緒に居るのを見たことがある。

毎年、イノシカチョウの家人達が交代で屋台を出しているが、どうやら今年は秋道の家が当番のようだ。
店主に招かれるまま、サクモはその屋台に歩みを寄せる。

屋台に並べられていたのは、目にも鮮やかな沢山の林檎飴だった。
不器用な丸を描いたそれは、まるで宝石のように贅沢な紅を纏って輝いている。

「きれ〜い」
「本当、綺麗ね。食べようか?」
「うん!」

カカシを降ろしたサクモは、濃紺の巾着から小さな財布を取り出した。
その動きに合わせて、長い髪がさらりと零れる。

「まさかその子、カカシちゃんですか?この前生まれたばかりだと思っていたのに…いくつになったんだい?」
「…3つ!」
「そうかい、可愛いねぇ。こりゃお母さんにそっくりの美人になるぞ」

サクモの足に引っ付いて元気な声を上げるカカシに、店主は口許に皺をよせて笑った。
サクモはカカシの頭を撫でると、ぱちんと財布の留め具を弾く。

「全く…美人なんて。口が上手いのは奈良家の専売特許だと思っていたのに」
「本当のことを言うのに口の上手い下手は関係ないです。その浴衣もお似合いですよ。親子揃って可愛いらしい」
「…まあ、カカシのことを可愛いと言われて悪い気はしませんけどね」

くすくすと擽ったそうに笑ったサクモは、ふと気が付いたように屋台の中を覗き込んだ。

「そういえば、チョウザはお手伝いしないんですか?」
「あいつはシカク達と一緒に遊び回ってますよ。だいたいあいつが居たら商品がみーんな食われちまう」
「ふふ、よく食べる秋道の人は見ていて頼もしい限りです」

豪快に笑う店主に応えて、サクモは小さく輝く姫林檎を指差した。



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あきゅろす。
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