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小説
泡罠(ミナサク)




まるでスローモーションのようにゆっくりと、真っ白な泡がタイルに弾ける。
湯煙の中で驚いたように見開かれた湖底の瞳を、俺は一生忘れることができないだろう。




泡罠




清々しく晴れ渡った空を見上げたカカシは、うんと窓の外へと身を乗り出した。
未だ夏の暑さを孕んだ風が煌めく銀糸の髪をさらって、舐めるように頬を撫でていく。
待機所は人もまばらだったが、それぞれ報告書をまとめたり、武器の手入れをしたりしながら各々の空き時間を過ごしていた。

ただ、ある一カ所だけは避けるようにしながらではあったが。

カカシが深く長い溜息をついた矢先、報告書を出し終えた自来也がひょっこりと顔を覗かせた。
カカシに向かって、ひょいと片手を上げてみせる。

「よぉ、カカシ、久し振り…だ…の…ォ」

そして案の定、その一点を見つけた自来也は驚いたように目を瞬かせた。


「…はあああ……」


待機所の椅子に蹲って、この世の終わりのように暗い溜息を吐き出したのは、カカシの師匠である波風ミナトだ。
普段は目映ゆいばかりの金髪も今は心做しかくすんで見える。

「…ミナトの奴は一体どうしたんだ?」

カカシの頭をぐりぐりと撫で回しながら、自来也が不審そうに眉を顰めた。
若干困ったように肩を竦めたカカシは、自来也の袖を引っ張って小声で耳打ちをする。

「…母さんとかち合ったらしいんですよ、風呂場で」
「それは…サクモがミナトの湯浴みに?」
「いえ、逆です」

ほぅ、と自来也が感嘆に近い息を漏らす。
そして合点がいったとばかりに指を鳴らした。

「ああ、それで嫌われたとか、そういうやつかの!あやつもわかってないのォ!そういうのは」
「それが…」
「?」

逆にそっちの方が良かったかもしれないなぁ、と呟いたカカシはかりっと頬を掻いた。

「母さんの反応が、まるで子供でも相手にしてるような感じだったらしくて」
「それは…全く相手にされなかったと?」
「ええ、まあ」
「そりゃあ…サクモらしいっちゃサクモらしいが…何というか、気の毒にのォ」

その言葉を聞き咎めたのか、ミナトの頭がぴくりと動く。
そして少しだけ恨めしそうな視線を自来也に送ると、すぐ元のように頭を抱えた。



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