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てのひら
夏休み

「川でスイカ冷やすとか、やったことある?」

 ペタペタ、どうやったらそんな風にだらしなさそうな音がたてられるのか不思議なくらいだらしなく、ユタカが歩く。
 斜め後ろを歩く俺には、 ユタカの制服の裾が、べろりとあかんべえをしてるのまで見てとれて、ため息をつく。世話を焼く義理もないのに、なんとなく気になる。 尋ねられたことに対しては、短く、ねえよと答えた。

「やりたくない?」
「ねえよ」
「えーなんで?」

 心底不思議そうに、ユタカが振り向く。

「食いもん冷やせるようなきれいな川はこんなとこにはねえよ」
「えー。皮だけじゃん、中身は平気だろ?」
「俺はその皮を触った手でものを食いたくねえよ」
「えー。肝っ玉が小さいよタカちゃん!」
「うるせえよ!!」

 かなり本気で怒鳴る。明るく無邪気に人のコンプレックスを指摘するな馬鹿野郎。

「そもそもスイカ好きじゃねえし」
「じゃあトマトとか」
「皮さら食うじゃねえかよ!」
「あー、そうだった」

 ユタカはあははーと間延びした声で笑った。結局、つられておれも笑った。

「……何でいきなり川でスイカ?」

 とりあえず、大前提を尋ねてみる。

「気軽に手軽に夏気分したくて」
「……」
「受験勉強しなきゃだし。俺の頭じゃタカちゃんと同じ大学無理だし。遊べんの今年だけじゃん」
「そもそも遊んじゃダメだろ……」

 そうだけどさあーと、ユタカは粘る。ゆったり穏やかにのんびり喋るくせに、意外としつこい。
 だからいつものように、おれが折れる。

「……川でスイカはイヤだけど、他のことなら遊んでやるよ」
「きゅうりとか?」
「ふざけんなよ!」
「嘘だよ怒るなよぉ」
「一人で川で食ってろよ、そんで腹でも壊せよバーカ」
「タカちゃあん」

情けない声でユタカがおれを呼んだ。おれは無視してユタカの前に出る。追いすがる足音は、やっぱり、だらしなかった。

「タカちゃん待ってよー俺が悪かったよー!」

 先に立って上がった坂の上、真っ青な空と入道雲が、夏を告げていた。

20130809
三題噺「スイカ、川、夏」

即興で短く、を目標に書きました。


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あきゅろす。
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