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CHILD GARDEN
does not want to leave yet 1

 わかってたはずだった。
 将高が好きなのは、私じゃないって。
 ずっと、わかってたはずだったのに。
 ――ずっと甘やかされてただけだったのに。


Because we had hoped that it does not want to leave yet.



 春休み。
 受験生になろうという、春休み。
 三人で
映画にいこうよ、と、圭司は言った。いいよ、何か観たいのあるの、と、私が答える。それは、私が好きな映画とはちょっと違ったけれど、男の子は好きかもしれないと思う映画だった。圭司と将高と出掛けられるんなら何でもいいという気持ちもあったし、どんな映画でもそこそこに楽しめる自信もあるから、私はいいよと答える。男の子向けな感じはするけど、別にいいよ、と。
 じゃあ甲斐、塾の時に将高誘っといてよ。いいよ。
 そんな風に当たり前に、圭司との電話が終わる。圭司は、結局将高と私のいる塾には入らなかった。何度も誘ったのに。親がもっといい塾へって言うから、って、圭司は言った。そのことがまた、私を淋しくさせる。淋しくさせたけど、でも、どうしようもなかった。圭司にも、私にも。

 それでも、圭司は時々電話をくれる。
 将高も、会えば普通に話してくれる。
 みんなにからかわれないように、噂になってしまわないように、そんなことを気にして、気にして、気にして、注意深く、私たちは会ったり話したり、していた。

「将高」

 塾の帰り道、将高と私は、途中まで道が一緒だ。そして、他の人は親が迎えに来ることが多いから、だいたいいつも、二人きりになれた。
 ほんの少し、頬がゆるむ。週に二回、たった、五分程度だったけど。
 どきどきした、いつでも。
 悟られないように、気づかれないようにするのに、必死だった。
 ――将高は私を、好きじゃないから。

「圭司がね。映画観に行かないかって。春休みの間に。将高、都合つく?」

 それは別に、不自然な誘いではなかった。冬休みだってそんな風にしてスケートに行ったし、バレンタインには三人でカラオケに行って、だから私は二人にチョコレートをあげた。将高の分だけひいきしたりはしなかった。

「……あー……」

 ひどく気まずそうに、将高が、唸る。

「行けない?」

 だから、先に、そう尋ねた。
 言いにくくならないように。
 用事があるなら、理由があるなら、それは、仕方のないことだから。

「うん……」

 言いよどむ将高を、私は小さく首を傾げてのぞき込む。将高がそれを避けるようにして、一歩、距離をあけた。
 痛い、と思った。
 避けられた。
 距離をつめることを、許されなかった。
 そのことが、小さく、針になった。

「うん、あのさ、隠しててもしょうがないから、言うわ」

 将高が、立ち止まる。
 私も、立ち止まる。
 カラフルなタイルの敷かれた歩道も、夜はすべてが灰色に見える。大して明るくもない街灯のひかりが、それでも、将高の顔を逆光にした。

「俺、ちょっと前から、彼女いる」

 その言葉が、あたまのなかで、ゆっくりと繰り返された。
 おれ、ちょっとまえから、かのじょいる。
 かのじょ、いる。
 かのじょが――。

「いたんだ」

 口にするつもりのなかった言葉が、けれどぽつりと小さく漏れた。

「いたんだよ、実は」

 将高の声は、ひどく、気まずそうに聞こえた。




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