短編置き場 @ー2 渋々譲歩されたのはわかったけれど、それでも、イエスと言われたのは嬉しかった。 「……強くなったよねー」 「え?」 く、と小さく先輩が笑って言った。 「おどおどしてたから、最初」 「ああ……、ええと、……すみません」 「え、何で?」 くりんと目を大きくして、先輩が問い返す。私は小さく、 「図々しくなって、スミマセン」 と、答えた。すると、先輩は慌てて手を横に振る。 「逆、逆! 褒めてるよ、俺」 「え?」 「付き合いやすくなった」 「え、……」 一瞬、息をのんでいた。 付き合う、という言葉に、過剰反応していた。 「え?」 心底不思議そうな顔で問い返す先輩を見て、勘違いに気付く。ひどく慌てた。 「あっ、いえ……!」 なんでもないですよ、と告げ、またココアに手を伸ばした。 「でもほんとに、少しだけだよ」 「え?」 「イルミネーション。ゆっくりは見ていられないよ」 「……寒いから?」 トレイを返却口に返す先輩の隣でそう尋ねた。下から見上げるような形になった。 「うん、」 あっさり答えた先輩に、がくりとうなだれると、その頭にぽんと先輩の手がのせられた。 「風邪でもひかせたら大変だし」 「!」 すぐに手は離された。はっと見上げた視線の先で、先輩が確かに笑った。すぐに先に立って歩き出してしまったから、ちゃんとは見られなかったけど。 (やさしさ、だったんだ) 慌てて後を追う。店員さんの、ありがとうございました、の声が背中を追いかけてきた。それに構わず店を出ると、背後で自動ドアが閉まる。中の声は聞こえなくなった。 (うれしい) 早足で横に並ぶと、少し調子にのりすぎかなと思いながら、先輩の右腕に自分の左手を伸ばした。服の端を掴むのが精一杯だったけど。 先輩も、一瞬こっちを見たけれど、それだけで、あとは何も言わなかった。だから、離さなかった。 「きれい、ですね」 [*前へ][次へ#] [戻る] |