短編置き場 水月市5 月は、絶対に、水が羨ましかった、と思う。 その胎内に、たくさんの生物を宿らせるそのことを、すごく羨ましく思った、と、思う。 月は、市が、羨ましかった、と思う。 その場所に、たくさんの人々を訪れさせるそのことを、すごく羨ましく思った、と、思う。 私はいつもそんなふうに考えてた。 どんなに、月が、人から注目を浴びていても。 どんなに、愛されていたとしても。 私はいつも、ひとより目立つタイプだった。 へんにしっかりしていたし、へんにいやなやつだった。自覚していて、でも直さなかった。 だから私は友達が少ない。 要らない、と思った人間は、ただひたすら断ち切ってきたからだ。そして、同じように、切られてきた、からだ。 ――しいちゃん、と呼びかけた。 あなたより大切なもの、あるよ、たくさん。だって好きなんだもの。本を読むこと。歌うこと。ピアノを弾くこと。バレーボール。泳ぐこと。働くこと。編み物。友達。 好きなんだもの。 でもねしいちゃん。でもね、でも、しいちゃんも同じように好きなの。同じように大事なものなの。それじゃどうしてだめなの? 同じじゃだめなの? でも、それでも、男の人の中で、いちばん、いちばん、好き、なのに。 どうして、だめなの? ――わからない。わかりません。……その言葉がいえない子供だった。いつも。そして、今も。 (そうね……そうかもしれないわ) 大人の声で、大人の喋り方で、大人の言葉で、私は話す。そうして、大人のふりをする。 ――ひとりになるために。……ひとりになってしまうのに。 窮屈だって、知って、いるのに。 [*前へ][次へ#] [戻る] |