短編置き場
水月市4
でも、いくら考えても無駄なのはわかっているの。
ただ、私が、私を、嫌いなだけ。
――けれど私は他人にとってあんまり迷惑じゃない、と思う。
たとえどんなに私自身が迷惑なひとであっても、誰も私を壊すことに躊躇なんてしないから。
みんなが簡単に傷つける。傷つけてもいい人だとおもってる。
壊れないと勝手に決めてる。
そうして、一生残る傷を、躊躇わずに、簡単に、つけていくから。
だから私は迷惑なものじゃない。壊しやすく、傷つけやすく、躊躇いの要らない、玩具みたいな存在だから。――くす、って笑った。自分で、おもしろいなぁって思った。
(壊していい安物の汚れた玩具)
「――どうしたの?」
みなちゃんが訊いた。ちいちゃんが慌てた。
「えっ! えっ!? 私がくずしたから? ぼろぼろパンをこぼしたから!?」
突然笑った私に、対応し切れなかった二人。可愛い二人。
壊しにくい、傷つけにくい、躊躇いたくなる、可愛らしいお人形みたいなふたり。
「ちいちゃん、ティッシュあげるから。まずテーブル拭いて」
パンにはさまれていたレタスについていた、ドレッシングの白い液体。
その向こうの小動物みたいに可愛いちいちゃん。
その隣で、気を遣う、優しい可愛いみなちゃん。
私は立ち上がって背を向けた。腹が立ちそうだったから。たててしまいそうだったから。
何一つ、ふたりのせいじゃないのに。
「すみません、灰皿を、貸していただけますか」
どうぞ、という投げやりな、つくったみたいなお店の人の声。
茶色の小さな灰皿。
可愛くないもの。
「ごめんね、なんか煙草吸いたくなっちゃった」
振り向いて、ふたりに話しかけた時の私の顔が、どうかうまく笑っていますように、と、願った。
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