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短編置き場
水月市3

 三人で、それぞれ注文したら、ちょうどミラノサンドのAとBとCだった。また三人で顔を見合わせて笑う。飲み物は、みなちゃんがアイスコーヒー。ちいちゃんがアメリカンコーヒー。私はブレンドコーヒー。熱いコーヒー。苦いコーヒー。
 みなちゃんは、アイスコーヒーにガムシロップをいれて飲む。それを私はじっと見ていた。アイスコーヒーに投入されたガムシロップがつくる、砂糖の、なみ、なみ、なみ。波の模様。
 砂糖の、うまくまざりあっていかないかんじ。ゆら、ゆら、ゆら、ゆら、きれい。とても、きれい。
 きれいなものは、時に無意味。……どころか、迷惑だ、って思った。きれいなぶん、迷惑だ。壊しづらくなってしまうから。勇気が必要になるから。
 ストローの先でかきまぜられてしまうのは仕方ないのに、もったいないって思った。
 そう、きれいなものは、無意味で、迷惑。例えば、この砂糖のなみがたは美しくて、見つめていたいけれど、かきまぜなかったら下だけ甘くて甘くて、おいしくなくなってしまうのに、壊すには美しすぎることとか。
 ちいちゃんは、アメリカンコーヒーに、コーヒーフレッシュだけを入れる。マーブルもよう。きれい。でもやっぱりおんなじ。かきまぜなかったらおいしくないの。迷惑なうつくしいもの。
 私はブレンドコーヒーをブラックで飲む。
 私には、何も、壊せないから……、しかたがない。
 湯気で眼鏡が曇るから、私はものを食べる時や飲む時は、眼鏡をはずすことにしている。そうすると、視界はとたんにもろくなってしまう。
 私は眼鏡をかけてる自分が嫌い。眼鏡をかけると、かわいくない顔が、さらにかわいくなくなる気がする。似合わないから。だからきらい。だけど、眼鏡をかけないで外を歩くのは怖かった。
 画面全体が、いつもソフトフォーカス。
 ぼんやり、ぼやけて、何もわからない。
 そうすると、心の中の弱気だけが、目を伸ばし始めて、私は目の前のものがすべて信じられなくなってしまうような気がする。


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