短編置き場
水月市2
「ちいちゃん、ごはんちゃんと食べてきた?」
「……食べてないよ……」
「みなちゃんは?」
「私も、食べてないよ。お姉さんは?」
「私も食べてない」
誰も朝食をとってないんだ、と思ったらおかしかった。三人で顔を見合わせて苦笑い。私は短い髪の毛にひょいって手をやった。首筋が寒い。今日は五月の中旬にしてはなんだか涼しかった。風が強いからかもしれない。街路樹がざわざわうるさく鳴っている。
「どっかでごはん食べよう!」
歯切れよく、私は言った。なにか、無性にコーヒーが飲みたくなった。食べるものはなくても、コーヒーを飲みたかった。あったかいコーヒー。苦いのが好き。じわじわ胃にしみていくかんじとか、ゆっくり目が覚めていくかんじとかがするから、好きだ。
二人はきっと、私の言うことに反対はしない、と思う。
だから私はがんがん、振り回す。
いつかこの二人は、私に向かって怒るのかな。……そういうことを考えた。
二人が頷くみたいにした。……偉そうな私。
「どこにする?」
訊いた。
うーん、とちいちゃんがうなった。みなちゃんは、どこでもいいよって言った。
「マック、ドトール、UCCの喫茶店、サブウェイ……それとも、どっかデパート入る?」
どこでだってコーヒーは飲める。
缶コーヒーは嫌いだから、安いところでも、インスタントでも、ホットのコーヒーを注文する。
「……ドトールに、しよう」
みなちゃんが、何かすごい重大決心みたいに言った。きっと私に気を遣ってるんだ。私はドトールのコーヒーが好きだ。まじめな感じがする、苦いコーヒー。
「いい?」
ちいちゃんに訊ねた。いいよ、という。明るい響き。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!