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短編置き場
はじめましてさようなら

 街ですれ違ったかつてのクラスメイトに声をかけられ、立ち止まる。
 俺の隣には十七年目の人生のうちの八年を一緒に生きてる大親友の女がいて、その男の隣にはにこやかにお辞儀をする、カノジョらしき人物がいた。
 俺もツレの女もそのクラスメイトとは特別に仲が良かったわけではなかったが、声をかけられて嫌な気分にはならなかった。なんとなくの流れで、4人でコーヒーショップに入った。
 多分、アイツは浮かれていたのだと思う。付き合いはじめてまだ間もない頃だったのだろう、その彼女を自慢げに紹介し、話の最中に何度となく相槌を求め、視線を交わして微笑みあう。
 男のあまりに浮かれた雰囲気に、俺とツレはこっそりとそれを小さく笑った。

「そういやおまえら結局付き合ってんの」

 男からの問い掛けは、他の人からもよくされる陳腐なもので、俺もツレもあしらい慣れていた。

「ありえない」

 ツレがさらりとそう答え、男はあまりに冷たくあっさりとした答えにそれ以上の追及もできず、ただ、そうか、とだけ答えた。その横で、彼女は初めて小さく声をたてて笑った。
 余りに無防備なその笑顔に、一瞬、ぞくりと抉るような動悸が起きた。
 何気ない会話の間中、もう一度その笑顔が見たい、と、彼女の顔ばかり見ていたけれど、彼女は二度と無防備には笑わなかった。計算されつくした柔らかな笑顔。それはそれで美しいものだったが、何だかつまらなかった。

(駄目だ)

 急に、天から降ってきたかのように、危機感が襲ってきた。

(駄目だ、とらわれる)

 あの笑顔が見たい、させたい、と思っている自分が、急に危うく思えた。
 伏線になるかと、何度か時計を見る振りをし、話を早めに切り上げようとする自分に、理由も何もわからないのに合わせてくれるツレに感謝しながら、カップルとは別れた。

 帰り際、またな、と言った彼に、おう、と答えはしたものの、もう会うつもりはなかった。
 特に、カップルでいるときには。

 こころの中で、彼女に囁いた。

 これ以上君に近付いてしまったら、例えそれがどんなにひどい、卑怯なことだとわかっていても、君を彼から奪うだろうと、思うので。
 近付くわけにはいかないんだ。
 いかないんだよ。


 店を出るとき、最後にもう一度振り返ると、
 ーー彼女と、目があった。
 


090201

なんかこの腐れ縁コンビがでばってきたなぁ…。
いつかまた、考えたいですね。

お題:確かに恋だった


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